第12話 テストとお礼
「やっとテスト終わったぁー」
1週間にわたって行われた期末考査が終わり、勉強漬けの日々から解放された。
帰宅している学生達はテストが終わり安堵の声を上げる者、解いた感触が悪かったのか、落ち込む者、逆にテストに自信がありにこやかな者、三者三様の様相であった。
大海達も例外なくそれぞれの反応を示していた。
「テストの自信はどうよ」
「まぁ、悪くは無いんじゃない?」
大海は普段から予習復習をしていた事もあり、特に苦戦をすることなくテストを終えた。満点こそ難しいが、8割は取れている自信があった。
「はぁ…お前の悪くないは大体良いからな…羨ましいよ」
「普段、遊んでばっかりだからだろ」
「いやー、学生のうちは遊んでおきたいじゃん?」
「学生の本分は勉強だ」
勉強が苦手な太陽だが、地頭は悪くない。むしろ良い部類に入る。事実、高校入試も難なくパスしているため、結局のところ本人のやる気によるところが大きい。
太陽が本気で勉強に取り組めば、要領の良さも相まって、大海と遜色ないくらいには出来るはずだが、勉強嫌いの太陽はそうもいかず常に順位は低かった。
「お前もたまには誰かと遊べよ」
「そんな相手いない」
「頑張って友達作れよ。それか、彼女とかよ」
「作るか、で作れたら苦労しない」
友達も、恋人も作りたくても作れない人間は一定数いる。そんな人達に聞かれればこいつは磔に処されるだろう。
大海もその1人だが、既に諦めの境地に達しているため特に心に波風が立つことはなく、サラッと流すことが出来た。
「お前には、既に候補がいるもんな」
「なんの候補だよ」
「そんなの決まってるだろ?」
ニヤリ、と笑う太陽を見て察しがついた大海は、否定すると共に軽く太陽の頭をはたいた。
「この間も言ったけど、そんな関係じゃないから」
「そうか?俺にはそうは見えなかったけどな」
「……向こうがそういう感情を持つことは無いし、ましてや僕はもっと持たない。」
冷めてるな、とため息をつく太陽に、大きなお世話だ、と取り合うことはしなかった。
「じゃあ、せめて見た目くらい気にしたらどうだ?もう少し気にすれば彼女はともかく友達くらいはできるだろ?」
「なんだ、今だと暗いって言いたいのか?」
「想像に任せる」
大海は自分の事はよく分かっているつもりで、太陽のように整った容姿でも底抜けて明るい性格でもない。だが、明るくないだけで卑下するほどの不細工だとは思っていない。
それなりに身なりを整えれば少しは見れるようになる。
しかし、それで近づいてくる人間と仲良くできるほど素直な性格をしていない。
「見た目が変わっただけで近づくような奴は上辺だけしか見ないぞ」
「最初は誰だってそうだろ?俺もお前も少なからず」
「……そうかもしれない。けど、別に今はいいよ友達も彼女も」
大海には何事も悲観的に考える癖がある。
高校入学前こそ心機一転、頑張って友達や彼女を作ると意気込んでいたもののスタートダッシュに失敗した事で、既に高校生活を諦めていた。
その結果、仮に友達や彼女が出来たところで、自分の上辺だけしか見ず、勝手に幻滅して勝手に去っていくならば、最初からそういった関係を持たなければいいだけだ、という大海本来の考え方に戻っていた。
大海としても、そうやって近づいてくる人間と関わるのは疲れるため、身なりを整えてまで、友達や彼女は必要ないと考えている。
太陽や桜、そして泉といった今の大海にも関わってくれる。そういった人がいるだけで十分だと思っている。
「そうかい…じゃあ、もし気が変われば教えろよな」
「変わることは無いけど、分かったよ」
「いや、お前は変わるよ」
「何を根拠に言ってんだよ」
「親友としての勘かな?」
「なんだよそれ」
大海と太陽は目を合わせ笑いあった。
「それじゃあ、また来週な」
「またな」
太陽を最寄り駅まで見送り、自宅へと帰って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「…雪乃さんはテストどうだった?」
帰宅し、いつも通り泉の手料理を食べたあと、泉は自己採点をしていた。
「んー…変な間違いとかなければ9割ってとこかな」
「きゅ、9割…すごいね」
9割も取れているという言葉に多少驚いたが、普段の泉の授業態度や、たまに見かける家での復習の様子を見るに取れても不思議ではなかった。
「水瀬くんはどうだったの?」
「僕は解いた感触的には8割ってとこかな」
「さすが、空野くんに教えるだけあって良さそうだね」
「雪乃さんには負けるよ」
大海はその悲観的な性格と両親とのテストの点数が悪ければ一人暮らしを辞めさせるという約束も相まって、常に復習をするためそれなりに自身はあった。
「たまに、僕の家でも復習してるけど…いつも帰った後にしてるの?」
「そう。たまに時間無い時とかは水瀬くんの家でさせてもらってるけどね」
「……僕の家にご飯作りに来ることが負担になったりしてない?」
今更聞かれたことに驚いのか目を丸くしたが、すぐに優しい笑みに変わった。
「負担になんてなってないよ。わたしが好きで作ってるからね」
「そ、そう。ならいいんだけど」
「水瀬くんこそ、わたしがいつもお邪魔すること負担になってないの?」
感謝こそすれ、負担になんて思った事など一度もなかった。毎日、温かい出来たての手料理が食べられ、しかも美味しい。
そしてそれを作るのは男子が憧れる美人な同級生という誰もが羨むこの状況を負担に思うはずはなかった。
「負担になんて思った事ないよ。むしろ感謝しかないって言うか…」
「感謝なんて大袈裟だよ」
「でも、僕何もしてないし何かお返し出来ればいいんだけど」
そんなこと考えなくてと大丈夫、と微笑む彼女は何よりも美しく、何より可愛らしかった。
「でも、どうしてもって言うなら…わたしの事も名前で呼んで欲しいな」
「な、名前?」
「桜より先に友達になったのに、わたしは苗字なんて不公平でしょ?」
そんなものなのか?と疑問に思ったが、普段の事もあるため要望通り名前で呼ぶことにした。
「分かったよ。改めてよろしくね、泉さん」
何か不満だったのか、むう、と頬を膨らませこちらを睨んできた。
「何か不満だった…?」
「さん付けだった…」
それの何が不満なのかよく分からない大海だったが、お気に召さなかったようなので今度はさんを付けずに呼ぶことにした。
「い、泉…」
名前を呼ばれた泉は不意をつかれたのか一瞬驚いたのか、目を丸くしきょとんとしていたが、すぐに頬を赤く染め微笑んだ。
「こちらこそよろしくね、大海くん」
微笑みながら自分の名前を呼ばれ、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
桜や太陽に名前を呼ばれても特に何も思わなかった大海だったが、なぜか泉には名前を呼ばれるだけで頬が火照り、胸の高鳴りが抑えられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます