第11話 親友の気遣い

「それで…なんで雪乃さんのエプロンがお前の家にあるんだ?」


 大海の部屋で見かけたエプロンが、実は泉のだったということを知った太陽は取り調べをしていた。

 核心はバレてないはずだ、上手く誤魔化せば何とかやり過ごせるだろう。


「……その、前に家の掃除手伝ってもらったって言っただろ?その後に、ご飯作ってくれてその時のエプロンが残ってたんだよ」

「なんでそのエプロンがあの時まだ残ってたんだ?」

「置き忘れていることを言うのを忘れてて…それで残ってたんだ」


 そんな訳がないだろう、と疑いの視線を向ける太陽に、誤魔化しの笑みを浮かれるしか出来なかった。


「じゃあ、その時以来初めて大海の家に来たのか?」

「そ、そうだ」

「じゃあ、なんでコップとか皿の場所すぐに分かったんだ?」

「……それは、ほら、どこも似たようなとこにあるだろ?だからだよ」


 なるほどな、と頷いた太陽は続けて質問をした。


「じゃあ、なんで手伝ってくれた雪乃さんをすんなり受け入れられたんだ?普通は遠慮するだろ?」


 太陽の言う通りだ。普通、家に客が来れば相手から何か言われても、余程の事じゃなければ手伝わせることなんてしない。


 流石に鋭い、と冷や汗をかき返答に困っている大海に、はぁ、とため息をついた。


「何か隠してることは知ってたよ。最近のお前は少し明るくなったし何かあったんだろうってな。それが何かは今追求しないけどよ、そんな信用ないか?」


 信用が無いわけじゃない。ただ、泉のために黙っている方がいいと思っただけだ。だが、自分にだけ隠していると思っている太陽には確かに信用が無いように映るに決まっている。

 どうしたものか、と大海の脳はフル回転していた。


「…ごめんね、わたしが何も考えないで手伝っちゃったから…」

「あ、いや、あれは僕も悪いよ…」


 自分の考えで秘密にさせていた泉に謝罪され、これ以上、近しい人に隠すのは泉に窮屈な思いをさせると考え、太陽に打ち明けるという決心ついた。


「ごめん、雪乃さん。やっぱり太陽には教えていいかな?」


 泉は驚いた表情を浮かべたが、すぐに優しい笑み浮かべ頷いた。

 大海は、泉が家の掃除を手伝ってくれた以降、毎晩ご飯を作りに来て一緒に食べている事を伝えた。


「なるほどな…ごめん予想外過ぎた…たまに掃除を手伝ってるくらいだと思ってた…」


 太陽は予想と大幅に外れたこともあり、処理しきれないといった表情を浮かべていた。


 しばらくして、ようやく処理しきれたのか太陽は大海の方を向いた。


「お前、雪乃さんと付き合っては無いんだよな…?」

「つ、付き合ってる訳ないだろ!」


 顔を真っ赤にして俯いている泉が目に入った大海は、なんてことを言うんだ、と太陽に強めのツッコミを入れた。


「ご、ごめん。こいつが変な事言って」

「だ、大丈夫。少し驚いただけだから…」


 泉の反応を見ていた太陽は何やら勘づいた様子で桜に耳打ちをした。


「桜さん、これってそういうこと?」

「そういうこと」


 桜は目を輝かせウキウキで2人を見つている。

 太陽はそれとは対照的に、世の中分からないものだな…と頬をかきながら2人を見つめていた。


「それにしても、お前よく雪乃さんと毎日一緒に居て普通にしてられんな」

「どういう事だよ」

「普通の男子なら雪乃さんみたいな美人と一緒に居たら好きになるだろ」

「それは、可能性があるかも、なんて思っている奴はそうかもしれないけど、僕は身の程を弁えてるんでね」


 そうかい、と太陽は納得する表情を浮かべた。

 桜はともかく、太陽はこの事を知っても特に茶化してくる様子はなく、寧ろ事実を確認してくるのみだった。

 どうも、泉にも迷惑がかかるから、と自重している様で、大海と2人きりの時ならば、これでもかというほど茶化されていたに違いない。



「この事は俺ら以外にバレないようにした方がいいな」


 太陽は先程とは変わって真面目なトーンで話し始めた。

 大海と同じような考えなようで、この事を知られれ迷惑がかかると考えていた。唯一ちがう点は、泉だけでなく大海にも迷惑がかかると考えていた点だ。


「特に他の人と話すことも無いしバレないとは思うけど…雪乃さんに迷惑がかかるし気をつけるよ」

「お前自身のためにも隠すんだよ」


 いまいち理解していない顔をする大海に太陽は呆れていた。


「いいか?雪乃さんがお前の家でご飯作って一緒に食べてるなんて男子達に知られたらどうなる?」


 確実に面倒くさい事になる。泉に直接聞く度胸がある男子は殆ど居ない。ならばと、大海に問いただす男子が増えるのは明白だろう。

 仮にそれが事実であろうと事実でなかろうと、大海に取って、泉に取って学校が窮屈な場所になる事は想像に難くない。


 男子が苦手だという泉の気持ちが少し理解出来た気がした。


「じゃあ、悪いけどこの事を秘密にするのに協力してくれ」

「仕方ない。親友の頼みだからな」


 泉との関係を知ったあとでも、特に茶化す事無く、秘密にするべきだ、とこちらの事を気にかけてくれたことに免じて、今回だけは親友と呼ぶことを許してやる事にした。


 さて、と何故か泉を愛でて抱きついている桜に目を向けた。


「桜さんも改めて協力してくれない?」

「うん。最初からそのつもりだよ。それに…2人に任せてると色々ボロが出そうだし」


 ボロが出そうと言われ否定をしたかったが、事実、ボロが出てバレてしまったため、深々と頭を下げお願いをするしか無かった。

 腹いせに横で、うんうん、と頷く太陽の頭を軽くはたいておいた。


「なんではたくんだよ」

「なんかムカついてつい…」


 なんだよそれ、と不貞腐れる太陽に、今度お詫びするから、と大海はいつもの調子で言う大海に仕方ねぇな、と太陽は笑った。




「この話はこのくらいで勉強再開しようぜ」

 よし、と手を叩いて太陽は言った。


「お前の口から勉強をするって出ると思わなかったよ…」

「俺をなんだと思ってんだよ」

「まぁ、気持ちよく夏休みに入りたいもんな」


 夏休みということばをきいて、そうだ、と太陽はポンっと手を叩いた。


「大海、お前夏休みなんか予定あるか?」

「いや、家にいるつもりだけど」


 それを聞いた太陽は何かいらぬ事を思いついたようで、悪い顔をしていた。


「ここの4人は秘密を共有する仲間だよな」

「そうだな」

「それでだ…もうすぐ夏休みだろ?」

「期末テストが終わればな?」


 テンションが下がることを言うな、と恨めしい目で見られたが、続けろと意に返さなかった。


「ここの4人で夏休みどこか旅行にいかないか?」

「は?何でだよ」

「秘密守んだから仲は深めた方がいいだろ?2人ともどう?」

「お、おい!僕はまだ行くとは言ってないぞ!」


 大海の意見は意味が無いようで、太陽は無視をして泉と桜の2人に判断を委ねた。


「4人で旅行楽しそう!行こうよ、泉!」

「え、えー…どうしよう…」

「いい思い出になるから!」


 それに、と何やら桜に耳打ちをされた泉は、そういう事なら、と行く事を了承した。


「よし!決定だな!楽しみが増えた!」

「その前にテストで赤点取ったら夏休み補講で行けなくなるぞ」


 桜と太陽は余程ピンチなのか、助けて欲しい、と泉と大海に泣きつき始めた。

 その様子を見て、大海と泉は目を合わせ笑いあった。


 友達との旅行は初めての経験になる大海は、普段と違う夏休みが来ることを心待ちにしていた。

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