第10話 無警戒な2人
「お前、最近変わったか?」
泉がご飯を作りに来るようになって以降、大海は少し明るくなっているようで、太陽はどこか嬉しそうに見つめていた。
「そうか?そんなに変わらないだろ」
「まぁ、他の奴から見たらそうかもな」
自分は他の奴と違って分かっている、という態度が鼻についたため、軽く額にデコピンをした。
太陽は痛がっていたが、自業自得だ、と無視をした。
「お前明るくなったのもだけどさ、髪はどうしたんだよ?この間まで、暴れてただろ」
「ちょっと、いい対策知ったんだよ」
「ふーん…女か?」
「ち、ちげぇよ」
こいつはなんでそういう思考になるんだ、と驚きと共に妙な鋭さに少し怖さを感じた。
もしかしたら泉との関係に気づいているんじゃ、と思ったが大海も泉も、そして桜も言っていないため、そんなはずは無いだろうと高を括っていた。
「そういえば、そろそろ期末テストだよな?」
「あー確かにそうだな…」
「お前は余裕そうで羨ましいよ」
「普段からしっかりしてれば問題ないだろ」
勉強はめっぽう苦手な太陽は昔からテスト前になると僕に泣きついてきてた。いつも通りなら、今回も泣きついてくるはずだ…
今回も頼む!と手を合わせお願いをする太陽にやっぱりか、とため息をついた。
「たまには自分でしたらどうだ?」
「俺に1人でやらせるってことは赤点を取れって言ってる事だぞ!」
「なんで赤点取る前提なんだよ…」
「そんなの、勉強始めたら急に机の上が気になったり、ゲームしたくなったり…」
「そんなんだから危ういんだろ…」
見捨てないでくれ、と泣きつかれ渋々勉強会を週末にすることを了承した。
「ね!わたし達もその勉強会に参加させて!」
遠巻きに大海達の会話を聞いていた桜がお願いをしてきた。一応、泉は止めたが無駄だったようで、お手上げ、といった表情を浮かべていた。
「ね!いいでしょ?」
お願いをするその目は、どこか別の目的があるような目をしていた。
「えっと…別に面白い事とかないよ…?」
「大丈夫大丈夫!勉強するだけなんだから」
「いいじゃん!俺ら2人より盛り上がるし、勉強も捗るだろ?」
なぜか乗り気の太陽に、お前は絶対に途中で飽きるだろ、と睨んだが、面白いことになってきた、と思っているようで悪い笑みを浮かべていた。
「わかったよ…じゃあ、今週末ね」
「やった!ありがとね大海くん!」
大海は半ば諦め了承した。しかし、既にバレている桜は仕方ないが、太陽にまでバレる事は避けなければと気を引き締めた。
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「ごめんね、桜が変なお願いして」
「仕方ないよ、どうせ太陽と勉強するつもりだったからこの際みんなで勉強しよう」
「そうだね。でも、わたしが言うのもアレだけど空野くんにバレないように気をつけなきゃね」
「そうだね…」
前途多難だな…と少し頭を抱えたが、せっかくの夕飯が不味くなると、考えるのをやめた。
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「お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
「お菓子とかも持ってきたぞー」
週末、大海の家には太陽達が勉強をしに来た。
約1名勉強をする気があるか分からない荷物を持っていたが無視をした。
「おー、ここが大海くんのお家かぁー。結構綺麗なんだね」
何か言いたげな顔をこちらに向けていたが、大凡の内容は察しが着いた。
冷やかされると思った…とげんなりした顔をする大海に気づき泉は、ごめんね、と顔の前で両手を合わせた。
「とりあえず、勉強しにきたんだから勉強しようよ」
「もうするのか?少し遊んでから勉強しようぜ」
「お前は遊ぶことが目的になるからダメだ」
えー、と落ち込む太陽を無理やり机につかせ勉強を始めることにした。
「太陽は全く勉強出来ないとして…桜さんと雪乃さんは勉強どのくらい出来るの?」
「わたしは特に苦手教科はないかな」
「わたしは勉強苦手!特に数学が何言ってんのか分かんないって感じ」
苦手な教科がないという泉と対照的に、案の定、勉強が出来ないという桜と太陽に手分けをして勉強を教えることにした。
1時間ほど経った頃
「むりむり!もう休憩しようぜ」
「さんせーい」
勉強が苦手な2人は早くも音を上げ、勉強すると急に机の掃除をしたくなるんだー、という桜の言葉を聞き、あるあるなのか太陽も共感し盛り上がり始めた。
いきなりやっても頭に入らないか…と少し休憩をする事にした。
「そういえば、雪乃さんって男子に少し距離がある感じだよね?」
おもむろに聞き出す太陽に、何でこいつは聞きにくいことをすんなりと聞けるんだ、と驚きと呆れの表情を浮かべた。
「それは…男子は変な目で見たりしてきて、そういうのが苦手で少し距離取ってるの」
「なるほどね…雪乃さんは美人だから余計見られる。それで苦手になったって感じか…じゃあ何で大海には普通なんだ?」
それは…と答えにくそうにしている泉を見て大海はどうしたんだ?と不思議そうに見ていた。
「水瀬くんは親しみやすいというか、害がない感じがするから…」
ゲラゲラ笑いだした太陽は、よかったな、とバカにするように大海の肩を叩いた。
その横では桜が泉を見て何やらニヤニヤしており、泉に頬をつねられていた。
休憩が終わり勉強を再開し1時間ほど経った頃
「だから、ここの答えはーー」
「だめーわかんないー!」
「もー…もう少しちゃんと考えて?」
「むりむり、数学は赤点取らないように最低限出来ればいいから」
はぁ…とため息をつき、御手洗借りるね、と泉は立ち上がりなんの迷いもなくトイレに入っていった。
「なぁ、雪乃さんトイレの場所知ってたのか?」
「ほ、ほら前家に来たって言ったろ?その時に借りたから覚えてたんだよ」
余計な時だけ勘が鋭い…と冷や汗をかきつつ、何とか誤魔化した。
なにやら楽しそうにニヤニヤしている桜に、助けてくれ、と視線を送ったがこの状況を楽しんでいるようで当然のようにスルーされた。
「た、助けてよ」
「大丈夫、これくらいでバレないよ。もしもの時は助けるから」
どうやら、桜はギリギリまでこの状況を楽しみたいようだが、本当にやばい時は助けてくれるらしいが、これは信用出来ないな、と助けてもらえる可能性を諦めた。
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昼になり朝から頭を使っていたこともあり、太陽のお腹が鳴った。
「なぁ、休憩がてら昼飯食べないか?お腹空いちゃって」
「たしかに…もういい時間だな、ピザでも頼むか」
「お?分かってんな大海」
普段なら頼むことは無いが、今日は泉も桜も居るため頼むことにした。
30分ほど経った頃インターホンが鳴りピザが届いた。
大海はピザを受け取りに行き、泉は立ち上がり人数分のコップと取り皿を取りに行った。
「ありがとう雪乃さん」
「いいえ」
あまりに自然な動きだったため
なんか自然過ぎないか?と桜に尋ねる太陽。
それを聞き、やばい!いつもの癖が出た、と焦る大海と泉。
そして、流石にまずいと思ったのか
「こ、コップとかお皿を置くところなんてどこの家も同じようなもんだよ」と誤魔化そうとする桜に乗っかり、泉も、いつもお手伝いしてるから、と誤魔化した。
それもそうか…と何とか誤魔化しが通用したようだったが、そこは流石に勘の鋭い太陽だった。
「そういえば、この間大海の家に来た時に男用とは思えないエプロンあったけど、実は雪乃さんのだったりしてな」
何を思ったのか冗談半分で言う太陽に、つい固まってしまった泉と大海。この2人はどれだけ粗があるんだ、と呆れた様子の桜。
「え?マジ…?」
図星の反応の3人に驚きを隠せない太陽を見て、これは、問い詰められるな…と覚悟を決めた大海は少し引きつった顔をしていた。
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