第9話 秘密はいつかバレる
『ちょっと、寄るところあるから今日家に行くの少し遅くなるね』
スマホの通知音が鳴り、開くと泉からメッセージが来ていた。
(少し遅くなるのか…珍しいな…)
メッセージを確認した大海は、了解、とメッセージを送り返した。
先日、連絡先を交換して以降、泉は学校にいる時はメッセージを送ってくるようになった。学校で直接話している訳では無いため、問題は無いのだが、その頻度が高い。
凄く連絡してくるけど…約束を破ってるわけじや無いし言えないな、とスマホをしまおうとした時、またメッセージが来た。
『今日の夜は、ハンバーグだよ』
(ハンバーグが夕飯か…楽しみだな)
大海は自分の好物が夕飯だと知り少しテンションが上がり、目を輝かせていた。
「お前、最近よくスマホ見てるよな」
太陽は、椅子の背もたれに肘を置きながら座った。
以前の大海は特に連絡を取り合う友人もいなかったので、ゲームをする時や動画を見る時以外はスマホを出すことはなかったが、ここ最近の大海は以前と違いスマホをよく取り出し見ていることが増えた。
その事を不思議に思った太陽が尋ねてきたのだった。
「そ、そんなに見てないだろ?」
「めちゃくちゃ見てるぞ…?しかも、ニヤニヤしながら…」
「ニヤニヤなんてしてないだろ!」
「自分じゃ気づかないもんだよなー。今度スマホ見てる時のお前写真撮ってやるよ」
自分では気づいていなかったものの、傍から見ると大海はニヤつきながらスマホを眺めていた。
それは、心のどこかで泉からの連絡を心待ちにしており、連絡が来る事に対する嬉しさから来ていた。
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放課後、大海はまっすぐ家に帰っていた。
そういえば、来るの遅くなるって言ってたな、と気になりはしたが、特に自分には関係の無いことだろうと大海は泉が来るまでゲームをする事にした。
「あー、やられた」
ゲームをする大海は、泉のことが気になりゲームに集中出来ないでいた。
どうにも上手くいかん、と頭をかいた。
大海にとって、泉はご飯を作りに来てくれる普通とは少し変わった友人であり、それ以上でもそれ以下でもない。だが、なぜか来るのが遅いと心配で仕方がなかった。
「もう、外は暗いな…」
仕方ない、と大海は立ち上がり家を出ようと玄関を開けた。
すると、そこには泉が立っていた。ちょうどインターホンを押すところだったのか手がボタンに向かって伸びていた。
「びっくりした…どこか出かけに行くの?」
泉は目を丸くしていた。
よかった、とホッとする大海を見て自分を迎えに来てくれようとしていた事を察したのか泉はどこか嬉しそうに、「ありがとう」と言った。
「遅くなってごめんね。桜と少し盛り上がっちゃって」
「大丈夫だよ。でも、こんなに遅くなるなら今度は連絡してね。」
「うん。心配かけてごめんね」
「し、心配はしてないけど…お腹空いて耐えれなくなるから」
照れ隠しからか、本心を見破られたからか、大海は強がってみせた。
泉はそんな大海を見て、素直じゃないなぁ、と呟いた。
部屋に入り、荷物を下ろし
「遅くなったけど、今からご飯作るね」と泉はエプロンを着けキッチンに行くと、手際よく玉ねぎをみじん切りにし、ひき肉をコネ始めた。
しばらくしてハンバーグのいい匂いが香ってきた。できたよ、という声で大海は食卓についた。
「今日、誰かと行ってたの?」
ご飯を食べながら気になっていたことを尋ねた。
「桜と行ってて少し盛り上がっちゃって」
「そうなんだ」
「…それでね、これ、使ってみて」
泉はそう言うと何やらカバンの中から取り出し、大海に差し出した。
「なに?これ」
「水瀬くん、湿気で髪の毛が暴れるって言ってたでしょ?それを抑えるためにスタイリング剤」
「え、これ、買いに行ってたの…?」
うん、と泉はにこやかに頷いた。
自分のためにわざわざ買いに行ってくれてたのか、と感傷に浸っていたが、泉が申し訳なさそうに、「それでね…」と言い出し、現実に引き戻された。
「それでね…桜に水瀬くんの家にご飯作りに行ってることバレちゃった…」
「…え?」
予想だにしない事を言われ困惑していた大海に泉はバレた経緯を説明した。
要約すると、スタイリング剤を普段買うことがない泉が買っており、それを怪しんだ桜が問い詰め大海の為だと答えた。すると、屋上でご飯を食べた時以降関わりのない大海に買うことを疑問に思いさらに問いつめられ白状させられたという訳だ。
「じゃあ、もしかして遅かった理由って…」
「桜に問い詰められてたの…」
マジか…と頭を抱えたが、泉と親友の桜が泉にとって不利益になりかねないこの事を言いふらす訳がないという結論に至った。
しかし、念の為に桜に忠告するように頼んだ。
食器を下げ、洗い終わったあと泉は桜に電話かけ例の忠告をすることにした。
「あ、桜今いい?今日のことなんだけど……」
予想通り、桜は誰にも言うつもりは無かったのだろう。話していると徐々に泉の顔が笑顔に変わった。大海もその様子を見てホッと一息ついた。
「なんて言ってた?」
「言いふらすつもりはないけど、今度、水瀬くんとの事を詳しく聞かせろって」
期待されるような関係では無いが、と苦笑した。
泉にふと目を向けると、どこか不満気な表情をしていた。
「いつかは、バレると思ってたけど…もう少し2人だけの秘密を楽しみたかったな」
疑問に思う大海の顔が余程分かりやすかったのか、泉は不満気な理由を口に出した。
2人だけの秘密を楽しみたかった、という言葉を聞き大海は、嬉しくも恥ずかしい気持ちになった。
「あ、あのスタイリング剤ってどう使うの?」
なんとも言えない気持ちに耐えられなくなり紛らわすために大海は慌てて聞いた。
話題を逸らされたためか、むぅ、と泉はむくれていたが仕方なく使い方を教えることにした。
わたしが手本見せてあげるから、と椅子に誘導され腰掛けた。
「いい?こんな感じに、根元につけすぎないようにして、全体的にボリューム出すようにしてあげるの」
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こんな感じかな、と出来上がった髪を見せるため鏡を渡した。
「すごい!これ僕?まるで別人みたい」
「どう?少し髪の毛セットするだけでマシになったりするんだよ」
「アイロンじゃどうにもならなかったのに…」
だからよ、といたく感動する大海に呆れた表情を浮かべた。
「明日の朝は自分で頑張ってね。色々動画とかあるし、それ見ながらしたら出来ると思うから」
「やってみるよ。ありがとう、雪乃さん」
「これからは少しは見た目に気を使ってね」
かっこいいんだから、と呟いた泉は自分の言葉に照れ、大海の頭をくしゃくしゃに撫でた。
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