駆け抜けた先で
夜の静かな学校を、花蓮先輩と駆け抜ける。
走っているからだけじゃない心臓の高鳴りがうるさくて、繋いでいる手から伝わってしまわないだろうかと気が気ではなかった。
結局、学校近くの駅前まで走った。そこで先輩は、アタシから手を離して肩からずり落ちそうになっていた鞄を整えた。
「ここまで来れば、もうあの人もついてこないだろう……」
そのここまでの間にずっと手を繋がれていたので、アタシは本当にこのまま車に轢かれてもおかしくないと思っていた。しかし轢かれることはなく、先輩とともにあり続けている。
奇跡かも?
いや、もしかしたら想いが通じ合ったときにこそ危険で……いや、想いが通じ合うってなに!? 思い上がりもはなはだしい。先輩に会って間もないし、彼女のことなんてなんにも知らないっていうのに。
「どうした、千早?」
「えっ、いや、なんでもないです。あはは……」
内心を悟られてしまわないように、笑って流す。
それを不審に思ったのかしばらくじっと見られていたが、やがてその視線は逸らされた。
「そうだ。本屋に寄って帰ろう。そして文学初心者の千早に絵本でも買ってやろう」
「えっ」
い、いきなりプレゼントなんて……!?と思うけれど、それもきっと自分の最高傑作にするための手段なんだろう。喜んでいいのか分からなかった。いや、嬉しいし絶対に大切にするけどさ。
「本屋なんて、この近くにありましたっけ……?」
「……あるが?」
信じられないといった目線を向けられるが、知らないものは仕方がない。この辺のことは上手いラーメン屋があるってくらいしか知らないんだから。
「小さいが、品揃えのいい店だ。ま、私が買うことが多いからそれに合わせてくれているのかもしれないけどな」
「そんなに買ってるんですか?」
「小遣いの半分……いや、三分の二は使っているな」
「そんなに!?」
どのくらいお小遣いをもらっていたとしても、今時それだけを本に使うとなるとすごいことだ。
「新しい流行も追わなければならないし、古典も知らなければならない。そうなると、どうしてもそのくらいの出費になってしまうんだ」
「と、図書館は……?」
「入るのが遅いし、何より読みたいものがあるかどうか分からないのが面倒で利用することは少ないな」
「そうなんですね……」
「……さっきから時々無理に入れてるような敬語はなくていい。そんな風に雑に敬意を払うような存在でもないからな、私は」
「そ、それはごめんなさい……!」
「謝らなくていい」
むしろ敬意を払いたいと思った唯一の存在です……だなんて言ったら引かれるだろうから、言わないけど……。
いや、どうなんだろう? むしろ当然だ、ぐらいの反応が返ってくるかもしれない。雑に敬意を払うなって言っているくらいだし……。
「なんにせよ、ため口のほうが気が楽だろう?」
「そ、それはそうですけど……」
「じゃあそうしろ。さ、本屋に行こうか」
「ま、待って……!」
意気揚々と両手を広げて歩き始めた先輩を追いかける。
声以外も愛せよ 城崎 @kaito8
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