「今度は悪役ルートにのせられず、聖女としてのびのびと生きていこうと思います」
ヒガシユウ
「今度は悪役ルートにのらずに、のびのびと聖女として生きていこうと思います」
体が熱い。
手足は鉛のように重い。
頭の奥が鈍く痛む。
思うように呼吸ができない。
吸っても吸っても、息が入ってこない。
吐こうとしても、少し吐いただけで、もう息なんて残ってない。
悲しい。
悔しい。
つらい。
…頭の中にぼんやりと声が流れ込んでくる。
一刻も早く伝えなければ…。
あなたは何も知らない。
悪いのはわたしじゃない。
じゃないと、この国が…。
ふと我にかえり、ひととき意識が鮮明になる。
涙が頬をゆっくりと伝っているらしい。
伝える? 何を? 誰に?
意識の裂け目を縫うようにして、何度も何度もママの声が聞こえてくる。
「ソフィア!ソフィア!大丈夫!?大丈夫!?ソフィア!」
いや、大丈夫じゃない。
まぶたが重くて、目も開けらんない。
金縛りにあったみたいに、何もできない。
あぁ、寒い。いや、熱いのかな。
…あれっ?おかしいな。
もうママの声も聞こえてこない。
地面に打ちつける雨音だけが聞こえてくる。
「マリアンヌ!マリアンヌ!急にどうしたんだ!」
背高の男性は美しい金髪をなびかせて、こちらへ駆け寄ってくる。
激しく息を切らし、倒れ伏した砂まみれのわたしを雨に濡れるのも構わずに、ぎゅっと抱きかかえてくれる。
あぁ…ルーカス様。
指先が痺れてくる。
舌も言うことを聞かない。
まさかはじめから、そんなつもりだったなんて。
たとえ平民の出だろうと、本気で友達だと思っていたのに…。
このままだと、ルーカス様も…。
あぁ…あのままずっと穏やかに2人でいられれば…。
人に気を遣って、相手のことを本気で思って、自分の本心なんて押し殺して生きてきた。その結果が、この仕打ちなんてあんまりだ。
「ルーカス様、もうお離れください。手足のあざ、流行病ですわ。わたしやルーカス様への仕打ちの天罰なのでしょう。さっ、お早く中へ。」
「マリアンヌ…。」
「ルーカス様、目をお覚ましください。マリアンヌがわたしたちや家族にしたことをお忘れですか。」
「しかし…。」
メラニーはわたしを見下し、にやりと笑うと、ルーカス様の腕を取り、屋内へと強引に引き戻していった。
あぁ…なんて哀れなメラニー。
そんな気持ちとは裏腹に脳天まで突き抜けるほどの激しい感情もよみがえってきた。
…全部、仕組まれていた。あの女に。
わたしの身に立て続けに起こっていた不可解な出来事。
ようやく全てが理解できた。まるでわたしだけがこの世界の悪役みたいに仕立て上げられて。
偶然とはいえ、せっかくメラニーの本性を掴めたのに…。
去り際に、ほくそ笑んでいたメラニーの横顔が頭にこびりついて離れない。
あぁ…ルーカス様…。
◇◇◇
遠くの方で声が聞こえる。
…なんだろう、とっても心地良い。
息もよく通る。気怠さは少し残っているけれど。
おでこが冷んやりとしてくる。
誰かに手を握りしめられている。
…もしかして、ルーカス様?
ゆっくりと目を開ける。やけに天井が高い。
白壁に薄金で描かれた植物の模様が広がっている。
既視感はあるけれど、見慣れない光景。
右隣に目をやると、慈愛に満ちた目でわたしを見つめる女性がいた。
「おはよう。ソフィア。具合はどう?」
……あっ…!
そのとき、唐突に記憶が繋がった。
頭の中をさまざまな思い出が流れていく。
前世と今世。
…全部、思い出した。
わたしはマリアンヌで…わたしはソフィアだ。
「熱が下がって、本当によかったわ。」
肩まで伸びた赤茶色の髪の毛がきれいに巻かれている。そう。この淡い水色のドレスを着た貴婦人がわたしの母だ。目の下に少し濃い目のくまが浮き出ている。
「あまりの高熱とうなされ具合に、生きた心地がしなかったわ。」
頬を撫でられ、軽くハグされる。
お母さん、ずっと看病してくれてたんだ。ありがとう。
◇◇◇
わたしの家は前世とは違い、下流貴族の端くれだ。少ないメイドに広くはない屋敷。それでも母は陛下の寵愛を受けて幸せそうだし、わたしもそれなりの生活をさせてもらっている。
もう前世のような振る舞いは決してしまい。
わたしはわたしを生きていく。
子どもらしいフリフリのドレスに身を包む。なんとはなしに赤面してしまった。そして、猫足のかわいらしい鏡台の前で、母が髪の毛を整えてくれる。少しトーンは違うけど、似たようなブルーの瞳が四つ映っている。これも毎日の日課。
今となっては少々照れくさい気もするけれど、やっぱり嬉しい。
黄金色の毛を均等に分けて、きれいな三つ編みにしてくれた。
ガチャリ!
突然扉が開き、勢いよく男の子が飛び込んできた。
「ソフィア!元気になったか?遊ぼうぜ!」
あっ、ネイサン。
わたしより一つ年上の皇子様。っても学年は同じになるはずなんだけどね。
それに、いつものことだけど、貴族服はどうした。どこからどう見ても平民のわんぱく小僧にしか見えないよ。
「あら、ネイサン様。ソフィアったら、ようやくお熱が下がりましたの。今日はお家で、ゆっくりとしてくださいまし。」
「なるほど今日はドレスの日だな。じゃあ、今日は鬼ごっこはやめだな。あとで、チェスウォーの手ほどきをしてやろう!ワッハッハ!」
なーにが、ワッハッハだ。本も読まされるし、算数だってわたしが教えなきゃならないのに。
というわけで、おはじきやら、チェスウォーやら、本読みやら、遊べる限り遊び尽くした。
でも、今日もチェスウォーでは一回も勝てなかった。バカのくせに、なんでこんなに強いのか。全く意味がわからない。
とまぁ、いわば、これも日課だ。
そして決まって、遊び疲れるとティータイムを挟む。
今日のおやつは「ミルクレープのオレンジソースがけに、チョコアイスを添えて」か。うん、いつも通り最高においしい。
「なぁ。」
ネイサンの声が真剣なトーンになる。
「なぁに?」
「ソフィアはさ、国選いつ?」
国選とは国民選抜儀式のことで、わたしたちの国では9歳の定められた日に職業とレベルを大神官様に見てもらう。血筋や家柄は一切関係ない。生まれた時から決まっていて、変化することはない。職業特典やレベルに応じたスキルが個性の一つとして尊重される。
「来月よ。ネイサンは?」
「実はさ、陛下の言いつけで、急だけど昨日やってもらったんだ。」
わたしと同じ日だって聞いてたけど、少し早まったんだ。
「どうだったの?」
「…なんだったと思う?」
んー、にやけた表情を見る限り悪い職業でもなさそう。いつもの様子を見る限りだと…。
「剣闘士?」
「ぶーっ!」
「じゃあ…軍師とか?」
「惜しい!」
惜しいんだ。
「えっ、何だったの?」
「将軍!」
声は一段と高くなり、胸を張って笑顔で答えた。
「かっこいいね!将軍!」
「そうだろう?レベルも80だったんだぜ!」
「おぉー!もしかして、ここ最近で一番なんじゃない?」
「それで、父上から、お褒めに預かったんだ。」
「えーっ!すごいよ!本当に良かった!
「しかも一番驚かれたのがスキルなんだ。スキルの一つが文献にも残ってないくらい珍しいみたいでさ。」
「えっ!なになに?」
「なんと…。」
「なんと…?」
「……。」
「早く教えてよー!気になるじゃない!」
「そのスキル名は……神の一手。」
「……?」
…ちょっと何言ってんのか、わかんない。なんか名前はすごそうだけど、中身が想像つかないよ。
「いや、今、驚くところな!」
「うん、なんか神ってついてるし、すごそうだな、って思ったけど、いまいちスキルの内容がわかんなくて。」
正直、凄さが伝わんない。
「直近の未来のパターンを見通せる。」
「えっ!未来視ってこと?」
「そう、どうだ?すごいだろ?」
「それはすごいね!でも、制約とかすごそう…。」
「まぁな、まだ詳しく分析してないからざっと見ただけだけど、命の危険に関わる時ってのが使用条件らしい。」
「へぇー、いぃなぁ…わたしも早くしたいなぁ。でさでさ、国選って、どんな感じなの?」
…その後も真面目な話から、どうでもいい話まで、たっぷり語り尽くした。2人でいると本当に笑顔が絶えない。ネイサンだったら、わたしをさらけだしても受け止めてくれる、そんな安心感がある。
あっという間に時間が過ぎていった。
◇◇◇
「次、フォルロック家ソフィア、前へ。」
厳しい服装をしたかわいらしいおじいちゃんが、メリハリのきいた声でわたしの名前を呼んだ。
何やら複雑な魔法陣が描かれている。なんでも大昔の誰かさんが残した大切なものらしい。
魔法陣を前にして、わたしは少し立ち止まり、呼吸を整える。胸の中は不安定な好奇心でいっぱいだった。
魔法陣の中に入ると、足元から何色もの光がうねうねと飛び出てきて、まとわりついてきた。そして、外側の線から光が上へ上へと伸びていく。気がつくと、わたしは円柱の中にすっぽりと包まれていた。
徐々に光のもやは薄らいでいき、あっという間に消えてしまった。
大神官様の前にひざまづく。頭に手をかざされると、目の前にステータスが表示された。
職業……聖女!?
字面のパワーが半端ない。おとぎ話でしか聞いたことないやつだ。
レベルは……えっ?……1…?
1とかあるんだ。逆に聞いたことないんだけど。知ってる範囲の人たちって、みんな2桁だし、ネイサンなんて、80とか言ってたし。
急にどきどきして、胸がつっかえてくる。
あっ、そうだ。スキル!
スキルは…。
スキル……クラフト……?
ん?
一つだけ?
どういうこと?
普通、スキルってはじめから5.6個あるって聞いてたんだけど。多い人なら10を超えるって。習得してから、スキルとスキルを組み合わせて増えていくはずなのに、増えようがないじゃない。
しかも、何なの。
聖女のイメージからはほど遠い、モノづくり感満載な意味不スキルは。
せめて、ステータスだけでも…。
聖女 ノアv 1
エメリーP 50
リアムP 50
力 5
はやさ 5
器用さ 5
耐久 5
知能 5
アクティブスキル クラフト
だよね。レベル1だしね。
ほとんど5だし…何もいいところないじゃない。
職業名を聞いて、ちょっと期待した自分がバカみたいだ。頭から血の気がさーっとひいていく。ほっぺただけがいつまでも熱い。
大神官様の声が神堂に響き渡る。
「ソフィアの選別結果を申し渡す。職業、聖女。」
会場が歓声に包まれる。うん、そうなるよね。わたしもそんな気分に一瞬なったよ。一瞬ね。
「レベル……えっ?」
えっ?とか言わないで。もう見たから。今すでに泣きたいんだから。
大神官様は咳払いを一つ挟んで、続ける。
「レベル1、スキル名…クラフト?」
語尾をあげないで。最後まで重厚な感じで儀式してよ。
けげんそうな歓喜のざわめきだけが耳に残る。みんな喜ばしいことだと思ってくれてるみたいで良かったけど、伝説に聞いていたのと、あまりにかけ離れているもんだから頭が追いついてないんじゃないのかな。
ま、何にせよ、一番戸惑ってるのはわたしだ。穴があったら入りたい。
だって、聖女って聞いたら、誰でも知ってる。小さい子からおじいさん、おばあさんまで。
文献に残るような伝説の職業。特に最古の聖女はスキル名も華々しくて、メインスキルはわたしの記憶にもはっきりと残ってる。
“女神の加護‘’
いかにもって感じで、色々と想像が膨らんだ。
ステータスの詳細までは残ってなかったけど、ものすごかったって証言は山ほどある。
職業だけは素敵だけど、全然だめだな。
ごめんね、お母さん。
わたしって、今回の人生でも何の役にも立てないみたい。
お母さんまで参加して、わたしのために作ってくれたコース料理。楽しくなるはずの食卓。愛想笑いを浮かべるのが精一杯で、味なんて全くしなかった。
◇◇◇
これからどう過ごせばいいのか、それだけが不安で不安で仕方なかった。何日も何日も、わたしはひたすら部屋に引きこもった。
何もしないのも落ち着かないので、放置しすぎて枯れかけた花の水やりだけはやろうと決めた。
「ソフィア!そろそろ遊ぼうぜ!今日はお土産持ってきたんだ!なっ、元気出せよ!」
ネイサンの声だ。毎日聞いてるはずなのに、なんだか懐かしい。ネイサンだけはどんなことがあっても、必ず会いにきてくれる。
でも、なかなか会う気になれなくて。ごめんね。
断っても断っても、それでも毎日声をかけてくれる。こんなに来てくれてるのに会わないのも、さすがに申し訳ない。
遊びたい気分じゃないんだけど…顔くらい見せなきゃ。
ドアを開けると、瞬きほどの間に顔のすぐそばを通り越して、ぎゅっとハグされた。耳元から、ほの甘い香りがふわりと漂ってくる。
ようやく体温が戻ってきた気がして、なんだか全身から力が抜けていった。
「良かった!あれからずーっと塞ぎ込んでるって聞いてて。正直もう会えないのかと思った…。」
ネイサンが涙声でつぶやいた。
なんでネイサンが泣いてるのよ。
あまりに抱きつく力が強くて、わたしも自然と涙があふれてきた。
自分だけが世界から落ちこぼれたみたいで。悲しくて、悔しくて、辛くて…気がついたらネイサンに泣きついていた。
ネイサンが持ってきてくれたお土産は千代紙だった。はじめて目にする珍しい模様がたくさんあった。もちろん、わたしが折り紙好きなのを知ってのことなんだろうけど…何より、ネイサンの心遣いが沁みた。
おやつを食べた後、わたしたちは折り紙博物館を作ろう、という目標を掲げて、一心不乱に千代紙と向き合った。本を見ては話し合い、あーでもない、こーでもないと、折りに折りまくった。
自分でも理由はよくわからないが、折った分だけ心の中が軽くなっていくような気がした。
ネイサンを見送り、応接間に戻る。
所狭しと折り紙たちが展示されていた。折った時間を思い出して、えもいわれぬ達成感に浸っていると、しばらく悩んでいたことが急にばからしくなってきた。
部屋に戻ると、ステータスウインドウが開き、短い音が流れた。
レベルが上がりました……?
聖女 ノアv 2
エメリーP 100
リアムP 100
力 10
はやさ 10
器用さ 10
耐久 10
知能 10
アクティブスキル
クラフト
パッシブスキル
クリエイター(あらゆるものを創造できる)
特殊スキル 折り紙
レベルって上がらないんじゃなかったの…?
スキルも自然に増えてるし。
パッシブスキル…クリエイター…?
特殊スキル…折り紙…?
気になるじゃない。特殊スキルがなんなのか。
…試しに折り紙を折ってみよう。
千代紙に触れてみると、さっきまでとは違って、今までに折ったことのある形はもちろん、それらを合わせて作れそうなイメージが滝のように流れてくる。
そのまましばらくアイデアに身を任せて、折り紙に没頭した。
そうこうしてる間に、またレベルがあがる。
…やっぱり、上がるんだ。
不意に笑みがこぼれてしまう。
「ソフィアー!ソフィアー!」
明るいお母さんの声が階段に響く。そろそろ夜ご飯の時間。今日のメニューは何かな。
少しだけしゃきっとしてきた花に霧を噴くと、急いで食堂へ向かった。
◇◇◇
あれから10年が経ち、わたしは念願の王立大学創造学部に通っている。学年も上がり、校外での単独実習も許可された。
ここまでくる道は決して平坦ではなかったけれど、だんだん聖女らしいことができるようになってきた気がする。最古の聖女まではまだまだ遠いけれど、いつの日か追いついて、たくさんの人の役に立ちたい。
聖女 ノアv 127
エメリーP 27500
リアムP 100000
力 100
はやさ 100
器用さ 10000
耐久 100
知能 10000
アクティブスキル
クラフト
パッシブスキル
創造主(クリエイターが進化した)
世の理(存在に関わるルールがわかる)
知器万通(知能と器用さのステータスが力、はやさ、耐久に影響する)
特殊スキル
生成
加工(最初のスキル、折り紙が進化していったら、こうなった)
精製
錬成
分解
ジリリリリ!
家に取り付けたベルが鳴り響く。
やっぱり少しうるさいなぁ。後で、調節しないと。
「ソフィア様!ソフィア様!みなさまお越しです!」
「はぁーい!」
「じゃ、母さん、今日も行ってくるね!」
慌ただしく写真に挨拶すると、ショルダーカバンを引っ掛けて部屋を飛び出た。
薄手のブーツを履いて玄関を出ると、いつも通りの3人が待ってくれていた。
「ごめん、ごめん、遅くなっちゃって。」
「また、夜更かししてたんでしょー!」とエイヴァが笑う。
オーウェンとマテオも「おはよう」と言って、迎えてくれた。
大学に通うようになって、出会いの幅が広がったけれど、自然とこの4人で行動することが増えていった。肩肘張らずに過ごせる関係が心地いい。
オーウェンは今日もどこぞのお嬢さんに手渡されたのか、荷物が多い。マテオがスッと寄ってきて、悪そうな笑みを浮かべて耳打ちしてくる。
「朝から2人も出待ちしててさ。多分、あれは火曜日と金曜日の女だね。」
「おい!聞こえてるぞ。どちらも初対面だ。名前もよく知らないし。」
「あれ?あの娘たちと3人でカフェデートしてなかったっけ?」
けらけら笑いながらマテオが言った。
「してねぇわ!どんな修羅場だよ。朝からありもしないことをペラペラと…。」
庭のベンチに腰掛けて、どうでもいい話に花が咲く。
「ねぇ、あんた達。あんまりだらだらしてると、さすがに間に合わないわよ。今日はマテオの番でしょ。」
エイヴァの一言に、マテオが胸を張って答える。
「大丈夫。昨日すんげぇの発明したから。まぁ、見てみ。」
そう言うと、マテオは直径1メートルほどの魔法陣をすらすらと描いていく。それはとても論理的で美しい模様だった。
「これは何の魔法陣なの?」
わたしが聞くと、待ってましたと言わんばかりにマテオは「これは空中遊歩魔法陣。目的地まで歩くように飛んでいける。家の庭で試したけど、なかなかいいよ。」と親指をあげた。
「……いや。だめね。マテオのことだから、絶対何か見落としてる。」とエイヴァ。
「だよな。マテオなのに、そんなにうまくいくはずがない。」とオーウェン。
「でもさ、少し怖いけど、ちょっと気になるよね。空中遊歩。」とわたし。
なんだかんだ言いながら、結局みんな、我先にと魔法陣の上に乗って笑い合った。
「大学の裏門付近にも昨日のうちに描いておきました。これで我々は今後、遅刻という悪魔から解放されます!」
マテオは恭しく、わたしたちに敬礼した。
「ワンチャン成功するんじゃね?」
「いや、また何か詰めが甘いと思うわよ。」
などと口々に話しながら、魔法陣の発動を待った。
◇◇◇
ノア先生とぱちっと目が合う。
「見えてるよ。4人とも。君たちには話があるから、最後まで待っておきなさい。」
背景に同化して上手く紛れ込めたはずと思っていたのも束の間、わたしたちはあっけなく見つかってしまった。
「今回は上手に溶け込めたと思ったのになぁ。」
「一瞬だったねぇ…エイヴァもまだまだですな。」
「うっさいわね!もとはと言えばあんたのポンコツ魔法陣のせいでしょ!」
「まぁまぁ、思ったより早く着いたし良かったじゃない。ねぇ?」
オーウェンに同意を求められて、わたしは小さくうなずいた。
確かに。5分程度の遅刻なら、わたしたちにしては上出来だ。とはいえ、「楽に登校しようチャレンジ」をせずに普通に歩いたら、割と余裕で間に合うはずなんだけど。
どの班も先生から大きめの羊皮紙を手渡されると一喜一憂しながら教室を出ていった。
待ち時間の間、わたしたちは先ほどの着地失敗の件に関して、みっちりと反省会をもった。なんだか次はうまくいきそうな気がする。
「よーし、最後だ。」
先生が手招きして、わたしたちをテーブルに呼んだ。
「僕たちにも実習依頼、来たんですか?」
オーウェンがいつになく乗り気で聞いた。そう言えば、実習を成功させないとスキル獲得条件を満たせないんだとか何とか言ってたっけ。
「君たちの班に来たのは実習じゃない。実践だよ。依頼主は隣の国の将軍様。前の戦で城壁をやられたらしくて、それの修繕業務。どうする?」
小さな歓声があがる。わたしたちは二つ返事で了解した。お泊まり三食付きの実践なんて、胸が高鳴って仕方ない。
依頼書
依頼人:リアム
依頼内容:城壁の修繕、都市の改修
要望 1.インフラ整備
2.城壁の強化
3.都市の秘匿化
◇◇◇
「じゃあ、さっき決めたとおりでいい?」
わたしたちが返事をすると、エイヴァは先生から受け取った紙に名前を書いていく。
依頼書
依頼人:リアム
依頼内容:城壁の修繕、都市の改修
要望 1.都市、城壁の改修 担当 ソフィア
2.城壁の強化 担当 マテオ
3.都市の秘匿化 担当 エイヴァ
4.周囲の安全確保 担当 オーウェン
責任者 ノア 部隊長 エイヴァ
エイヴァが担当のところに名前を書き込んでいき、部隊長のところにサインをすると。依頼書は白く光って、ひとりでにふわりと浮かび上がった。そして、角からじりじりと燃えていき、やがて灰になって消えてしまった。
「転送文も出したことだし、とりあえず向かおっか。」
わたしたちは大学の転移棟に入ると、受付で実践に向かう旨を説明し、書類を提出した。
国境最寄りの転移陣までは大学から転移してもらえたが、そこからが遠かった。辿り着くまでには、いくつもの峠道を越えていかなければならない。
オーウェンが闘気を広げてくれたこともあり、ややこしい敵に襲われることはなかったが、足場が悪いのと寒暖差が激しいのには参った。道中はマテオが雰囲気を作ってくれたおかげもあって、しんどいながらも、楽しいハイキングになった。
遠目から見ても崩れ落ちた城壁。近いようで、まだまだ遠い。廃れた森が大門までずっと続いている。
辺りに漂う邪気の鋭さ。ねっとりとした視線。敵意に満ち満ちた気配はわたしたちの緊張感を刺激した。
加えて、空気中に混じっている弱毒のせいで、エイヴァと オーウェンはいささか不機嫌になっていた。わたしは耐性があるので全く気にならなかったけれど。
マテオもいつの間にか、ふざけるのをやめて、ぶつぶつと何かをつぶやいている。
「少し周辺を整えてから、現地に行こうか。」
オーウェンの眉間にしわがより、目つきは一層険しくなる。多分、わけのわからないちょっかいを出され続けて、イラついてるんだろうな。
整える。つまり、悪意を排除する、ということ…ケンカをしにいく、ということ。
話し合って何とかならないものかなぁ。
「そうね。特にこの毒霧が気に食わないわ。」
エイヴァも肩周りをほぐすと、両手にクナイを握りしめた。
…まぁ、そうなるよね。
この2人はほんと、闘うことに一切のためらいがない。きっと逆立ちしたって、わたしはこの2人みたいにはなれない。
マテオの指示のもと、2人1組で周囲を警戒した後、城門前で再集合する運びとなった。
◇◇◇
打ち壊された大門を抜けると、荒廃した住宅が奥の方まで広がっていた。20.メートルほどある城壁も経年劣化でひどくくすんでいる。
街にはわたしたちの他にもたくさんのパーティーが呼ばれており、それぞれに復興作業にあたっていた。
「おい!来てくれたぞ!」
「王大の学生たちだ!」
わたしたちを認めて、住民をはじめ軍人までもが湧き立ち、安堵の表情を見せた。
「馬子にも衣装だね。」
オーウェンは肩をすくめて、わたしに言った。
「かな?みんなの期待に応えれるように、気合入れなきゃだね。」
王大には制服がある。公式に行動するときには着なければならない。もちろん依頼主に会うので、今日は4人とも正装だ。
マテオは調子に乗って、あちらこちらへ手を振り、何やら話している。
エイヴァは「ノア先生、絶対ろくなことしてないよね。」と軽くため息をついた。
「だろうね。とりあえず依頼主のところまで急ごうか。」
オーウェンも呆れ顔で言う。
「あれっ?マテオは?」
わたしの質問に2人はかぶりを振りながら、ずいぶん遠くを指さした。
マテオはすでに住民達と仲良くなっており、向こうの方で何やら荷物を運んでいる。
いつの間に!?
いつものことと言えば、いつものことなんだけど、マテオって、ほんとコミュニケーションおばけだな。どうやったら、あんなにすぐに打ち解けられるんだろ。
「ほっといて、先行こう。」
エイヴァは迷わず、都市の中心にある大聖堂へ歩いていく。近づくに連れて、明らかに強固な警備がしかれていた。警備の人たちはわたしたちの姿を見るなり、ピシッと敬礼してくれる。
地下から強大なエネルギーの波動を1つ感じた。どうやらここが将軍様の本拠地らしい。
「こちらへどうぞ。」
見るからに屈強な衛兵2人に連れられて、わたしたちは地下へ地下へと進んでいった。
「お連れしました!」
数秒ののち、ガチャリとドアが開いた。
「ようこそ。おいでくださいました。」
低く深みのある声が廊下に響く。
出てきた依頼主を見て、わたしは鳥肌が収まらなかった。
…えっ!?
…嘘…。
…そんなことって…。
覚えず涙がほおを伝う。
見覚えのある立ち姿。
愛しくてたまらなかった横顔。
依頼主のいでたちは紛れもなくルーカス様だった。
そんなの…そんなの…絶対にありえない。
どういうこと?
どうしてルーカス様がここにいるの?
似てるなんてもんじゃない。
本人だよ。
…頭の整理が全く追いつかなかった。
愛すれば愛しただけ遠ざけられたルーカス様が、まさに手を伸ばせば届く距離に立っていた。
「大丈夫?どうした?」
オーウェンに優しく声をかけられて、はっと我に返る。
まずい。
どうしよう。
なんで泣いてるんだろう。
何て言えばいいんだろう。
マテオがすーっと近づいてきてくれて、隣で大きく泣き真似をしてくれた。
「いやー!わかる!わかるよ!ここまでの道のりを思い返すだけで泣ける!」
「確かに大変だったけど、何も泣かなくてもいいじゃない。」
なんて言いながらも、エイヴァはそっと背中をさすってくれた。
「2人には絶対にわからないだろうけど…。ねぇ?さっきの整地ひとつとっても、俺たちには結構なことなんだよ。」
…マテオって、なんだかんだで人間が大きいんだろうな。とっさに事情があることを察して、おどけてくれてるし、おどけついでに、ほんとのことまで伝えてくれて。
「…ううん。整地は仕方ないから、大丈夫なんだけど。やっと着いたんだなぁって安心したら、何だか気が抜けちゃって。」
「整地はいいのかよ!」
マテオはオーバーリアクションで天を仰いでいる。
「そうだったんだ。無理してないか?何かあったらすぐに言ってくれよ?」
心配そうにオーウェンがわたしを見つめて言った。オーウェンはわたしが困ると絶対に手を差し伸べてくれる。
「長旅ご苦労様です。リアムと申します。まずは、お茶でもいかがですか。」
リアムはにこりと笑うとわたしたちを部屋へ通してくれた。
懐かしい笑顔を見ていると、なんだか胸の奥がきゅるりと締め付けられた。
◇◇◇
「じゃあ…12時をめどにいったん集まろっか。」
エイヴァが太陽の位置を見ながら言った。ってか、太陽の位置で時間わかるって、冷静に考えたらすごい特技。季節によって太陽の位置ってずれてるはずのに。
「エイヴァはどこからヴェールかけてく?」
マテオがたずねる。
「んー…ソフィアが終わらせたところからかなぁ。」
「じゃあ、ソフィアはどこから?」
「大門からはじめて西回りにぐるっと一周…ってか城壁って全く違う形にしていいって昨日言ってたよね?」
「言ってた。サイズや色も問わないって。何なら陽気な雰囲気にしてほしいらしいよ。」
オーウェンは物覚えがやたらといい。何でも一度聞くだけで、頭のどこぞに刻まれるらしい。
「…じゃあさ、一回全部壊してから創るよ。その方が楽しそうだし。」
「あー、それいいね!かなり合理的!」
「…閃いた感じ?」
エイヴァがマテオの肩をぽんぽんとたたく。
マテオのどや顔が冴え渡る。なかなかのアイデアが浮かんだんだろうか。
「まず、都市の内側に魔法陣を描いてから、魔法陣の強度テストも兼ねて、ソフィアに大門から城壁をぐるりと破壊してもらう。そのまま一晩くらい放置して、寄ってきた敵をオーウェンが仕留める。翌朝から城壁を建て直して、エイヴァがヴェールをかける。どう?」
名案じゃん!
わたしたちから小さな拍手が送られる。
さすが、教授!
作戦が決まったところで、わたしとマテオ。オーウェンとエイヴァに分かれて作業に取り掛かった。
向こうの2人は、隠れている敵をおびきよせるために、この都市を見つけやすくするらしい。っても、あの2人から隠れるなんて、よっぽど難しいと思うけど。
しゃがみこんだと思ったら、マテオが胸元からごそごそと小さなカプセルを取り出した。
「あっ、それって。」
「そう、こないだのやつ。」
「さっそく使ってみるの?」
「もち。なんなら、このためにこいつは存在しているのかもしれない。」
マテオがにこりと笑って、カプセルを空中に放り投げる。
ぼわぁん、と桜色の煙が立ち昇る。
煙のあとには、真っ青なラインカーが胸を張って立っていた。金色の魔法文字柄がおしゃれだ。
「魔法陣 引き太郎くんの登場です!じゃじゃーん!」
…効果音、ださっ!
…しかも、引き太郎て…ださっ!
「そんな名前にしたっけ?」
「いや、みんなさ、魔法陣引きカーとかマジカルラインカーとか、そんなことばっかり言って、真面目に名前考えてくれなかったよ?」
「…マジカルラインカーが一番しっくりくるんだけど。」
マテオはわたしの冷たい視線にもめげずに、魔法陣 引き太郎で押し通すつもりらしい。ま、何でもいいんだけど。
「これって確か、ラインを引くみたいに、イメージした魔法陣を引けるんだったっけ?」
「そうそう。頭で魔法文字を描いて、魔力を通じてラインカーに流し…あっ、違う。引き太郎に流し込む…。」
別に言い直さなくていいよ!
「あとは魔法文字を描きたい場所の上を引いていけば、ラインを引くみたいに魔法文字が地面にひける。」
「長時間使うのって、今日がはじめてだよね。」
「そう、だからちょうどいい実験なんだ。」
「どんな魔法陣を組むかは決まってるの?」
「まぁ、だいたいね。堅固な防御&呪い対策が主な構成要素かな。」
「色は?」
「色はまだ迷っててさ。できるだけ魔法陣の効果を長期間残すんだったら銀色なんだけど…ヴェールと城壁がその文字の上にくるんだって思ったら…紫の方がちょうどいいかなぁ。」
「そっか。じゃあ、あとの細かいところは、とりあえず使いはじめてから、使用感に合わせてマイナーチェンジしていこう!」
思っていたよりも城壁は広く、魔法文字を引き終える頃には、とっくにお昼を回っていた。
マテオが言うには、かなりの精度で描けてるらしく、効率化という意味では大成功だったらしい。持つところも手にフィットしていて長時間握ってても疲れにくかったとのこと。
これは、なかなかいいものを作ることができた。
学園祭に出品するのもアリだね、なんて話になった。
次は大門と城壁の破壊。わたしの番だ。
魔法陣を引きがてら、城壁の組成は把握済みだから、あとはドミノ倒しの要領で簡単にまとめて崩すことができる。
住民には一応、街の中央に避難してもらう。マテオの魔法陣は特製だから、砂ぼこりひとつ入らないんだけど。
誘導を終えたエイヴァとオーウェンが合流してきた。
「じゃあ、ソフィア、いっきまーす!」
3人がやんや、やんやと応援してくれる。
大門に両手を触れて、魔力を込める。言葉では伝えにくいけれど、頭の中にモノの成り立ちがはっきりと浮かんでくる。
見つけた。
これだ。モノのくさび。
すっと引き抜くイメージ。
あとは大門から、ぐるっと反対側まで魔力を通して準備完了。
…できた。
あとはわたしが魔力の波を立てれば…。
…はい、オッケー。
大門から城壁にひびが伸びていく。
あとは魔法陣の内側から鑑賞するだけ。
轟音とともに大門や壁のがれきがドサドサと崩れ落ちる。砂けむりは街の外側を覆うように舞い上がっていく。
「お連れ!大成功だね!」
みんなとハイタッチをかわしていく。
…あっ、もうひと工程忘れてた。
「ちょっと待ってて、狙われやすくしなきゃ。」
わたしは崩落した破片に両手を当てる。
もっと細かく砕いて砂粒にしてから、城壁よりも幅を広げてギュッと圧縮した。高さが1メートルくらいになるように調節したら、思った以上にいい見栄えになった。
「おっ!いい感じ!」
「へぇー、すごいじゃん!」
「ちょうどいいくらいの囲いになったね。」
遠くまで見晴らしながらも、屈んだら壁に隠れられる。意外と使い勝手のいい形に収めることができた。
◇◇◇
その夜は一晩限りの平和を満喫するように、街は飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになった。
四角い空しか眺めていなかった子どもたちはもちろん、老若男女問わず、笑顔の花が咲いていた。
もちろん、新たにこの都市に寄ってくるような敵はいなかった。エイヴァとオーウェンは朝昼の間に隠れている敵も全てやっつけていたらしい。
友好的な魔物や動物はたくさんやってきたけれど。
翌朝、大勢の住民が見守る中、わたしとエイヴァで最後の仕上げに取り掛かった。オーウェンはそばで不安そうに見守ってくれているが、マテオときたら住民たちと肩を組んで唄を歌いながら、いっぱい引っかけている。
「いけるよー!」
エイヴァが空中から呼びかけた。
このあとの手はずとしては、わたしが大門と城壁を建てると同時にエイヴァが周りの景色と同化させる術をかけていく。
今度はドミノ倒しのように楽にはいかない。粘土細工をするように魔力を流しながら成形していく必要がある。
ま、昨日みんなでミニチュアを作って、イメトレ万全だし、大丈夫だと思うけど。
「じゃあ、行っきまーす!」
エイヴァに向かって大きく手を振った。
新しく大門を建てる位置にくさびを打つイメージ、からの魔力流し。
砂土はぐぐぅと競り上がっていき、1分もかからずに大門ができた。すぐさまヴェールをかけてくれる。大門の下隅にマテオが魔法陣を描き込んで完成だ。
そこから西回りにぐるっと一周、城壁を作っていった。ほんの小一時間ほどで、全ての工程を終えることができた。その後、都市部の生活インフラを整えて、わたしたちの初実践は完成した。
一通り依頼を終えると、リアムさんが昼食に招いてくれた。屋敷の質素な佇まいが都市の現状を物語っているようだった。
「街を救ってくれて、本当にありがとう。」
「いえ、とんでもないです。」
わたしたちも一様に頭を下げる。
「ノア先生のおっしゃっていた通り、君たちは素晴らしいチームだ。おかげでこれからは枕を高くして眠れるよ。」
「そういえば、どうして襲われるようになったんですか?」
マテオがあっけらかんと聞き込んだ。
「あぁ、至極当然の話だが、都市の迷彩がはがれたのさ…経年劣化かねぇ。」
エイヴァとぴたっと目が合う。言うべきか言わぬべきか。リアムさんには伝えなかったけれど、わたしたち4人では共有していた事実だ。
この都市は意図的に攻められている。
迷彩も剥がれたんじゃない。剥がされていた。城壁にもあちらこちらに細工が施してあり、もう少し遅ければ勝手に大門が崩落するところだった。
エイヴァは小さく首を振った。
そうだよね…今、伝えたって仕方のないこと。たまに点検がてら顔を出すしかないかな。
「そういえば、ノア先生は元気にしてるかい?実はわたしも王大の同期でね。君たちのことはずっと前から聞いていたんだよ。」
他にも、色々と話をしてくれた。どの話もわたし達にとっては古くて新鮮な学びの深い話のはずだった。
…でも、内容なんて頭に入ってくるわけない。一緒の空間にいるだけで鼓動は速くなるし。何度か話しかけらたけど、視線はあっちこっちいくし、一言返すので精一杯だった。直視するなんてもってのほか…。
終始、大きな耳を立ててるだけだった。
…あー、絶対変な子だって思われただろうなぁ。ずっともじもじしてて。
絶対にルーカス様とは違うってわかっていても…声も仕草も話し方まで。どれもこれも似すぎていて、どうしたってルーカス様にしか思えなかった。
遠くから眺めるだけでもいいから、もう一度会いたいなぁ。
昼食会も終わり、わたしたちは帰路につく。
と言っても、この街と大学を転移すればいいだけだから、行きしなみたいに何日もかけて道なき道を進む必要なんてない。
マテオが結んでくれた魔法陣にのるだけだ。今度こそは、上手に着地してみせる。
「よーし、みんな乗ったな。じゃあ、いくぞー!」
わたし達は異国の風に吹かれて、大空に舞った。
◇◇◇
「4人とも。話があるから、最後まで待っておきなさい。」
「またかよー!」
「えーっ!」
などと口々に言いながらも、わたし達は胸の高鳴りを抑えきれずに順番を待った。
「この間はご苦労さん。リアムのやつ、元気にしてたかい?」
「はい…でも、先生!報告書にも記載しましたが、あの都市は攻撃されてます。」
エイヴァが真剣な眼差しで訴え出た。
「…だろうね。ま、あいつが元気なら何より。ところで本題。君たちに次の依頼が来てるよ。どうする?」
思わず笑みがこぼれ合った。
どうするも何も、そんなの決まってる。
「行きます!」
依頼書を見る前から、4人仲良く声がそろった。
依頼書
依頼人:ディラン
依頼内容:海中遺跡の探索
要望 1.海女神の指輪を見つける
2.海王の槍を見つける
*手がかりだけでもかまわない
責任者 ノア 部隊長
「今度は悪役ルートにのせられず、聖女としてのびのびと生きていこうと思います」 ヒガシユウ @higashiyou
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