短編集
守屋三
MP3の男 〜MPたったの3のゴミですが老衰で死にたいと思います
私にはMPがたったの3しかない
生きるのにすらMPを消費するこの世界において、このMPは致命的であった。
でも、私は老衰で死にたい。
だから、死ぬ気であがこうと思う。
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マイナー誌記事「MP3で80まで生きた伝説の男」
いきなりだが諸君!この世界はMPがすべてである!
なにをするにもMPが必要だ!
魔法、魔道具が沢山あるから当然だろって?
それは違う!
文字通り、何でもだ!つまり生きることもだ!
動くのにMP、飲食にMP、はては呼吸にさえMPだ!
ゆえにMP。
MPがすべてを制するといっても過言ではないだろう。
(※ちなみにこの実態を発見したのは私がこれから書こうとしている人物である)
故に今では住民の全てが3桁のMPを持つのが普通である。
2桁なんて今ではほんの一部だ。
生まれたての子供や特殊な事情でMP増進が出来なかった者くらいだろう。
さて、そんな世界だが、かつてありえないMPを持つ男がいたことをご存知だろうか。
(タイトルで言っているがそこはご愛敬でお願いする)
ありえないというと普通は膨大な数を想像してしまうだろう。
しかし!今回は逆である!
その数、MP3!
そう!なんとたったの3である!
この数字を見て誰もが思うだろう。
いやいや、ます生きてることがおかしい、と。
この記事を書いている私でさえ真っ先に思うことである。
だが、ゆえに伝説なのである!
今回はこの伝説の男について紹介しよう。
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※本世界について捕捉
上記に書いたように、この世界は何をするにもMPを消費する。
ありとあらゆる行動、代表に上がるのは消費量が多い魔法や魔道具の使用だろう。次に上がるのが食事や睡眠である。
しかし、これで終わらないのがこの世界。
食べたものを消化する、何かを考える、呼吸をする、心臓を動かすといったことにさえMPが使われているのである。
まあ、これらの消費は1未満であるため、ステータス画面をパッと見ても消費してるかわからなかったのである。
下手をすれば0.001なんてこともあるため、消費MPの算出には膨大な労力がかかったことは想像に難くない。
(これが発見されていなかった原因でもあった)
ここまで書けばわかるだろうか。
もしMPが0になったらどうなってしまうか。
・・・そう、死である。
生命活動にさえMPを消費するということは、MPが無ければ生きられないということである。
故に、MP0=死
さすがにMP0になった瞬間に死ぬということはなく、2,3分以内にMPを回復できれば蘇生することは可能であるが、そもそもにしてMP0になるという状況はまずMP回復手段が枯渇することのない現代では特定の状況である。
つまり、MP0になる状況とは回復手段が存在しないという状況であるとも考えられるので、ほぼ死ぬと同義といっても過言ではないだろう。
何故、このような原理の世界としたのか・・・・
それは誰にもわからない。俗にいう神のみぞ知るというやつだ。
さて、そんな世界であるため、我々人類は、なるべくMPを使用しないようにとありとあらゆる知恵を絞り、工夫を凝らして、便利なものを作りだしてきた。
その結果が、現在の大都市社会と化した世界なのである。
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本題に入ろう。
MP3の男。
彼が生まれた時代はそれより一昔、いや二昔前であった。
その時代は現代につながる発展が丁度始まった時期と言える。
世界的には国家間を超えた大戦争が収束を迎えて落ち着いた頃であり、各国が内政に目を向けられるようになった時期とも言えた。
さて、そんな時に産まれたるが本題の男。
彼が産まれたのはとある国の王城ーーそう、彼は王族であったーー
彼の名は、カール。その国の第2王子であった。
第3王妃から元気よく生まれたカールであったが、
生まれてからまず初めに行われるステータス鑑定で医者たちは愕然とすることになった。
MPが3しかないのである。
当時でも生まれたての赤ん坊は2桁持っているのが普通であった。
それなのにたったの3である。
HPは何故か3桁あったが、それどころではない。
当然、大騒動となった。
生まれたての赤ん坊はMPの自然回復量が少ないのだ。
同時にMP消費も少ないのだが、総計で見るとMP消費の方が多い。
上記したようにMP0=ほぼ死の世界である。
更には生まれたての赤ん坊なんて体は未発達。
MP0になった瞬間に死なんてのは明確である。
このため、生まれてから数か月は付きっきりで面倒を見る必要があるのだ。
更に説明すると、MP回復手段に乏しかった当時は、回復と言えば、食事か睡眠か、魔法によるMP譲渡であった。
普通の赤ん坊であれば、睡眠による回復と食事による回復で十分であった。
MPが1,2減ってしまうこともあるが、2桁MPなのでそこまで気にする必要はないためである。
しかし、MP3となると話は別である。
MPが2減れば、残りMPは1。
何かしらの問題が発生してしまえば、0になってしまう危険な状態である。
故にMP管理を徹底し、回復手段を常備しておく必要があった。
しかし、食事と睡眠なんて常に出来ることではない。
満腹になればそれ以上は食事できないし、十分に寝た後にまた睡眠するなんてことも出来るはずがない(稀に出来るものもいるが、それは特異だろう)
つまり、魔法によるMP譲渡が必然的に選ばれたのだが、これがまた難儀であった。
この魔法を使える者が少なかったのである。
授業で基本魔法として教えられ、MP譲渡の魔道具も充実した今では考えられないことである。
しかし、この時代ではこれが普通であった。
MP譲渡を持っているのは実力のある者、つまり、高い階級や実績を持つ者である。
それはつまり、それなりの地位にいる者であり、当然暇などあるはずがない。
生まれたばかりの、それも第2王子に付きっ切りになるなど、常識で考えればほぼ無理な状況であった。
しかし、それを許さないものがいた。
カールの父こと、この国の王である。
王は第3王妃のことを愛しており、そして、その子であるカールのことも愛したのだ。
つまり、カールの生存を何よりも優先するよう命令したのであった。
これにより、カールの元にはMP譲渡が出来る者が常に待機することになったため、MPが0になることもなく、順調に育っていくことが出来たのである。
さて、3歳になったカールであるが、MPが増えることはなかった。
まるでMP上昇分がHPに吸われているかのように、MPはまったく増えなかったのである。
(ちなみにHPは4桁を越していた)
ここは、どんなにHPが増えようとも、MPが0になれば死ぬ世界である。
王はカールが城の外に出るのを禁じた。自分の目の届かない範囲に出て、何かが起こり、死んでしまうという事態を恐れたのである。
それはカールが成長し、15歳を超えてもその禁が解かれることはなかった。
普通の人間であれば禁じられる期間が長くなるほど、それに逆らいたくもなる。
しかし、カールはそれを破ることなく、忠実に従ったのである。
一説にはだらけた生活が最高だったという話もあるが、真偽は不明である。
しかし、カールのHPは高い。
15歳、成人を迎えた際には5桁に達していたほどである。
HPは体力に直結する。つまり、有り余る活力を持っているということだ。
だが、外には出れない。
故に、カールは一つの研究を突き詰めることにした。
(公的な発表をしたのは15歳だが、実際にはもっと小さいころから研究を始めていたという記録がある)
MPについての研究だ。
この時代、MPが減る現象について、はっきりとわかっていない部分が多く存在した。
そして、カール自身のMPは3だ。
MP消費の研究をするということは、自分の生きる可能性を高めるということである。
つまり、カールがこの研究をするのは必然であったとも言えよう。
研究の始まりは、普段の生活行動によるMP消費の観察から始まった。
MP譲渡で最大である3に回復した次の瞬間には2に減っているのである。
それが気にならないわけがない。
ということで、その謎を突き止めることにしたのだ。
そうして発見したのが、行動するのにもMPを消費するということ。
どれだけ減るのかはわからないが、どんな行動でもMPは消費しているということがわかったのだ。
そしてそれは行動の激しさに応じて大きくなる。
(と言っても、1消費する行動というのはほとんど無いが ※HPも体力もほぼ尽きかけ状態で炎天下or猛吹雪の中で行動するなど)
これはひたすらに同じ行動を繰り返すことで発見したようだ。
何十分も同じ動きをするカールの奇行を見た周囲の人々からは、頭の心配をされたようだが。
これを発見したカールは、ひたすらに消費MPの割り出しに専念することになる。
何がどれくらいのMPを消費するのか。一挙手一投足まで調べ上げたようだ。
周囲の人の協力も得ていたようだが、ひたすらに同じ行動を強いられるため、この労力と苦労ははかりしえない。
それと同時に、カールは消費MPの軽減が出来ないかも研究していた。
これは魔法の発動にも同様の手段が存在するためだ。
例:魔力を通しやすい素材で作られた杖を使用する、効率の良い魔法陣を使用する等
結論としては、該当する行動を効率化すると消費MPも軽減することが判明した。
運動であれば筋肉を付け、効率の良い動き方をする。
食事であれば消化の良いものを食べる、食べ合わせで消化分解を助ける。
と言ったようなことである。
(逆に効率が悪くなると消費MPも増大することもわかっている。重労働や消化の悪い食べ物を食べるなど)
これらの結果から、カールは自身の肉体の強化に励むようになった。
筋肉を付け、満遍なく栄養を取り、肉体を丈夫にしていった。
丈夫にする過程で一時的に消費MPは増えるが、それも丈夫になっていくうちに減っていき、ついには強化前より消費MPが減るという結果が出ていた。
しかし、肉体の強化には限界がある。
一時は減っていた消費MPだが、ある時を境に逆に増えてしまったのだ。
何事にも限度と最適というものが存在する。
過剰な筋肉は、それを保持するために、体力を消費する。つまりは消費MPを増やすということだ。
これを知ったカールは頭を悩ませた。
消費MPを減らすために始め、結果が出ていたものが、今度は行き過ぎて増えていってしまったからだ。
どうすれば良いか。
この解決には数年かかったと記録がある。
一説には筋トレにはまり過ぎて、脳まで筋肉に染まってしまったからだという話もあるが、真偽はわからない。
とある日、カールは兵士たちの訓練風景を見て、一つの道具に目を付ける。
魔道具だ。
カールはそれを日常生活に取り入れられないかと考え始めたのだ。
当時の魔道具と言えば、戦争が終わって間もないということもあり、戦いに使われる道具として見られていた。
更に魔道具は超高級品だ。
熟練の職人が何か月も手間暇をかけて完成させる一品、といえばわかるだろう。
しかも、モノによってずっと使えるものもあれば、一度使うだけで壊れてしまうものもある。
これは職人の腕や組込まれている魔法に依るものであり、特に魔法の希少性に左右される。
※実際は魔道具の残存MPと魔法の消費MPが関係していたのだが割愛する
戦争のためにかの国もいくつか保持しており、魔道具職人も所属していたが、貴重過ぎるが故、それを日常生活の中で使おうなどと考える人は皆無であった。
いや、一部その考えを持っていた者もいた。
それは後に大量生産の父と呼ばれたルクセルという人物であるが、それは後述する。
カールはなんとか魔道具をもっと安く作れるようになれないかを考えた。
魔道具が高価な原因は二つ。作成時間がかかることと素材が高価なことだ。
カールはまず、素材をもっと安くすることに取り掛かった。
当時の魔道具に使用する素材のうち、最も高価なのは魔法を込める玉である。
これには鉱石のうち、純度と魔力の通りがいいものを、石職人が光り輝くまで磨き上げたものを使用していた。
希少な鉱石を選定し、それを職人が手間暇をかけて加工するのだ。高価になるのもいたしかたない。
だが、それの代わりになるものがないか、カールは探すこととした。
そこで目を付けたのが、数年前から作成されるようになったガラスである。
ガラスは魔力を通すことが可能である。
しかし、通すだけで溜めることが出来ないため、魔法を込める玉としては使用できなかったのだ。
と言うことは、溜めることが出来れば使用できるということでもあった。
カールはガラスに魔力を溜めることが出来ないか試行錯誤することとなった。
これには結構な年数がかけられたと記録にある。
溜める方法は早期に発見されたようだ。
それは、魔力を溜めることが出来る鉱石を混ぜるということ。
鉱石を混ぜることによってガラス全体が魔力を溜める性質を持つようになるのだ。
だが、それからが難しかった。
それは鉱石の配合割合。
少なすぎると魔力を溜める量が少なく、魔法発動まで溜められず、多すぎるとガラス玉が脆くなり、割れやすくなってしまう。
鉱石の量を変え、種類を変え、時に大きさや形を変えたりもしたそうだ。
魔道具として十分な魔力を溜められ、使用するのに十分な硬さを持つガラス玉。
適切な配分・鉱石を見つけるのは至難の業であったと言えよう。
多くの時間と人を使い、そうして数年後に魔道具用のガラス玉が完成する。
完成した時には大騒ぎとなったようだ。
国を超えての祭典が催されたとの記録が残っている。
そうして完成したガラス玉によって、文明は発展していくことになる。
日常生活の中の至る所に魔道具が使われるようになり、我々が今普通に使っているインフラ関係の魔道具が開発されていったのである。
これには魔道具を大量生産する自動魔道具開発機の発明も大きく寄与している。これを開発したのが大量生産の父と呼ばれたルクセルである。
こうして生活が豊かになっていく。つまりは効率が良くなる。
カールの消費MP軽減策はこうして為すことが出来たのである。
カールはこの後も最大MPを増やすための方法やMPを溜めておき、譲渡するための魔道具の開発など、MPに関する発見や開発を多く行ってきたのであるが、全てを書くにはこの記事スペースは足りないようだ。
再び書く機会があれば執筆したい所存だ。
また次回の機会に会おう。
了
短編集 守屋三 @mrysn_sr
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