第19話 ファン

 初日の学校も無事終わり、帰りにネオンちゃんと立ち寄った研究室。

 

「おい、貧乳娘。お前……目立ち過ぎだ」


 ハイドさんは偉そうにソファで足を組むと、そう言ってわたしを一瞥する。


「えぇ〜!だって「ガンビット」っていう、訳の分からない武器使わされて難しかったんだもん」


「ふん、悪かったな。訳の分からない武器で……」


「あ……もしかして、ハイドさんが作ったの……?」


「お前がバカみたいな使い方をするから、俺の傑作にケチがついたな……」


「バカみたいな使い方って……相変わらず失礼ですね!鎖が邪魔だから刃だけ使ったんですよ!画期的じゃないですか!」


「アホか!「ガンビット」を無線で扱うなんてことが出来る人間はいない!お前の頭がおかしいだけだ」

 

「はいはい……どうせ、わたしはバカですよ!うう……ネオンちゃ〜ん!ハイドさんが、いじめるよぉ〜」


「――き……貴様!」


 隣に座るネオンちゃんの腰に泣きつくとヨシヨシと頭を撫でてくれる。フッフッフッとハイドさんを横目で見ると、悔しそうに震えている。


 初日のわたしの動向は、すでに帝国の重鎮であるハイドさんの耳にも入っているようだ。「ガンビット」を鎖無しの無線で使用し、「キュア」という上級回復魔法を使う新入生がいる……そういう報告があったと言っていた。


「ハイドさん、聞きたいことがあるんですけど……『セシウム・ロンド』っていう男の子を知ってますか?」


「――?……たしか、『クリプト・ロンド』の息子だな。三機将『灼熱のクリプト』の次男」


「うん……彼って昔から……その……」


「――なんだ?気になるのか?」


「まぁ……気になるっちゃぁ気になりますね!」


「ふん、貧乳娘のくせに色気づきおって……」


「――あれ?もしかして嫉妬してますぅ?」


「――するか!貴様みたいなガキに興味は無い!」


「まあまあ、別にセシウムのことが好きとかじゃないんで安心してください」


「――はぁ!?そんなこと、これぇ〜ぽっちも気にしていないんだが?それに、お前のようなバカの貧乳娘に貴族の彼が興味を持つとは思えんしな」


「――はぁ!?そんなことないですよ!セシウムもビスマス君もわたしのこと奪い合ってるんだから!」


「――奪い合いだと!?お前みたいな貧乳娘をか?……ククク、妄想もそれくらいにしておけ、妄想貧乳娘!」


「――なっ!このロリコン科学者!」


「――だ、誰がロリコンだ!低脳!」


「――くぅ……ナルシスト科学バカ!」


「チビ!」

「ヒョロノッポ!」

「短足!」

「根暗!」

「ガキ!」

「親バカ!」


「「ハァ……ハァ……」」


 ……と子供のケンカみたいになっていると、ネオンちゃんが「お二人とも仲が良いですね」と言って落ち込む素振りを見せる。


「「――どこが!?」」


 と、つっこむと「フフフ」と笑った。ネオンちゃんが笑ったのだ……。


『イルミナ・ローレン』という過去を持つ彼女の一部が、ほんの少しだけ垣間見えた瞬間だった。ハイドさんはそんな彼女を優しく見つめる……あぁ、ちょいちょいイルミナちゃんを思い出すんだろうなぁ。わたしには、当たりが強いけど、ネオンちゃんには、優しいし、けっこうカッコいいパパなんだよなぁ、この人。


 ――ってそれよりもセシウムのことだよ!


「ハイドさん、セシウムの経歴を調べてもらってもいいですか?任務に支障が出るかもしれないので」


「……わかった。とにかく、お前はあまり悪目立ちをするな!バークリウムは慎重な男だ。信頼されなければ、懐には潜り込めんぞ」


「はいはい」


「――「はい」は一回だ!」


「は〜い」


「くっ……コイツ……」


 ウラジールの屋敷に戻ると「ヘッドホン」を起動する。会議の必要があるからだ。


{まさか……もう一人、転生者がいるとはな……}


 隊長は窓際でサングラスを外すと、眩しそうに夕日を眺める。


{こうなってしまっては、一人でない可能性もありますよ。セシウム・ロンドだけが転生者だと断定するのは危険だと思われます}


 ダルさんの意見ももっともだ。つまり、わたしが転生者だと悟られてはいけない。わたしはシナリオブレイカーだ……転生者の中に【幻想のオド】を崇拝している信者がいれば、きっとわたしを排除しようとする。


{そうねぇ……ウラっちのセシウムに対する対処は良かったと思うわよ。正直に自分が転生者だと言っていたら何されるか分かったもんじゃない……相手の目的をはっきりさせないと……}


「うん……危なかった……どうしようかと思ったけど、おバカキャラが役に立ったみたい」


{おバカキャラ……ではないだろう?}

{そうですね……キャラ……ではないですね}


「あぁ〜!二人ともバカにしてるでしょ!うぇ〜ん、ミポリン〜隊長とダルさんがいじめるよ〜」


{あらあら、可哀想に。ヨシヨシしてあげるからこっちへおいで}


「うう……やっぱりミポリン優しいなぁ」

{ヨシヨシ}


{ちぃ……甘やかしやがって……}

{――ち、違っ!ウランちゃん、別にバカにしているわけでは……}


 そんな会議はまったりと進んだが、今日の出来事はやはり衝撃的だった。 


 十十十十十十


 少し遡り、放課後のこと。


「やあ、呼び出したりしてごめんね」


「い、いえ……あの……どういった用件ですか?」


【幻想のオド】というワードを口にしたセシウム……つまり、彼はわたしと同じ世界から来た人間ってことになるんだよね。実技の授業の際に耳元で囁かれた言葉に一瞬だけ動揺したけど、あの時は知らないフリをした。


 これはわたしの勘だ。セシウムは爽やかでいい人そうだけど……なんか怖い。その怖さがわたしに嘘を吐かせた。


「僕ね、凄く君に興味があるんだ」


「ど、どうして……ですか?」


 理由を言えってことだよね……。


「ここって帝国士官学校なんだけど、どうして入学しようと思ったの?」


「――!?どうして……?」


「うん、何か狙いがあるのかなぁ〜って思ったんだ」


「わたしが帝国士官学校に通ったらおかしいですか?」


 貴族の三女が帝国士官学校に通うことに疑問なんて普通は湧かないはずだ。でも、それを聞いてくるということは、『ガウラ・ウラジール』がこの場所にいることが不自然だと思っているということ……。


「……う〜ん、たとえば誰かに薦められたとか?君の周りに怪しい人物なんていないかなぁ?」


 ――!セシウム君……まだ、わたしを転生者だと断定はしていない!?探してるんだ……【幻想のオド】のストーリーと明らかに違うわたしの存在……『ガウラ・ウラジール』が帝国士官学校にいるとういこと。


「えぇ?何それ〜?全然わかんなぁ〜い」


 とバカっぽく言ってみる。バカがバカのフリしてるのかとハイドさんに笑われそうだが、今はこの場を誤魔化していくしかない!


「……そうですか……でしたらお友達になりませんか?僕は君のファンなんです!」


「……ファン?」とアホみたいに可愛く振る舞う。その言葉を知らないと察したセシウム君は、すかさず言葉を付け足す。


「ああ……ファンというのは好きだということです!」


「――す、好き〜!?わたしを!?」


 コ、コイツ……ロリコン貧乳好きかぁ〜!


「はい!ですからまずはお友達から……そして『ウラウラ』と呼ばせてもらっていいですか?」


「――!」


 な……めっちゃわたしのファンじゃん!

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おバカな私は最強リスナーと無双する!〜メリバなRPGへ転生したので主人公を救いたいけど、 転生先は敵国のスパイ!?〜 ろきそダあきね @rokisodaakine

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