テーマ:痛み

弓チョコ

テーマ:痛み

 俺はエリカを好きになった。


 些細なことだと思う。自分でも、チョロい奴だなと思う。


 2学期になってからの席替えで、隣の席になって。話すようになったから。


 その声。繊細なんだけど芯があるような、綺麗な声を毎日隣で聞いていて。

 エリカも、何かと話し掛けてきてくれて。なんとなく、教室の外でも一緒に行動するようになって。

 まあ、休みの日に遊ぶとかまでは行ってないけど。


 なんというか、低めの身長も可愛いし。気を遣っているであろう、綺麗な髪と肌も魅力的だし。変なこと言ってるかもしれないけど、スカートめっちゃ似合ってるし。


 多分同じクラス、隣の席にならないと割と知らなかったことで、それで好きになって。なんだか自分が馬鹿なんだとちょっと思ったりして。

 それでも、やっぱり好きなことに変わりなくて。


「あのさァ……」


 ある日の休み時間。


「どうした?」

「今日、一緒に帰ってくんね? 高橋」


 エリカが少し不安そうに俺に言ってきた。

 今まで、一緒に下校したことは無かった。いつも、エリカは「急いでるから」と、すぐに教室を出る。何の用事があるのかは知らない。


「良いけど、俺A町方面だぞ」

「あァ大丈夫。同じだから」


 学校は駅の近くで、電車で通学してる奴が半分くらい。俺の家も例に漏れず、電車で数駅の所にある。

 だけど今日は駅の方とは反対側。正門じゃなくて、裏門から帰る。

 そうか。同じなのか。

 いやでも、エリカとは高校で一緒になったからな。引っ越して来たのか?


「で、どうしたんだよ」

「…………多分、ストーカー」


 裏門から出ると、エリカは俺の影に隠れるように着いてきた。


「まじかよ。んなことあんの」

「この前告白して来た奴だ。昨日は改札まで追っかけられた」


 違った。

 やっぱりエリカも電車だった。


「このまま回り道で駅か? 隣駅まで歩くか?」

「いやァ、この辺で良いよ。隣駅までひとりで歩くわ。あいつも裏門から出てるとは思わんだろうし。高橋にも悪いだろ」

「良いよ別に。エリカが困ってんなら手貸すし」

「マジで?」


 カッコイイ所を見せるチャンスだろうか。まあ正直部活もやってない俺は暇だし、そもそもエリカと歩けるなら隣駅なんか余裕だし。


「て、てか告白されたのかよ」


 俺達は今の所、結構仲良いと思ってる。けど、そういう話はしたことがない。だからこれはチャンスかもしれない。そもそも今、エリカが告白されたとかいう事実を受け入れようと必死に心臓が脈動してるし。


「んー。俺さァ。男は興味無いんだよなァ」


 エリカがそう言った。周囲を注意深く見回しながら。


「…………そうなんだ」

「まァ、悪いとは思ってんだけどよ。俺、アネキがふたり居てさ。アネキ達の影響で昔から自分のコト、着せ替え人形みたいに思っててよ。顔も身体も、自分のモノってより、自分の人形ってカンジで。だから女が好きなんだよなァ」


 なんか。

 ちょっと痛かった。


「女が好きだから、女のカッコしてんの。変かな」

「…………いや。良んじゃね別に。好きにしたら」

「サンキュ。だからさ、この学校受けたんだよなァ。近くの学校で唯一、ズボンとスカート選択できんだよ。知ってた?」

「いや…………。普通に違反だと思ってた。似合ってるからセンコーも見逃してんのかと」

「バカヤロウ高橋。俺は合法的にスカート穿いてんだよ。はははっ」


 なんか。

 エリカの笑い方が、本当にほっとしてるようで。安心して、俺を同性の友人として信頼しているようで。

 痛かった。


「まァ、こんなことになるなら学校じゃやめとくかなァ。いくら好きな格好つっても、男子校でスカートは狙ってるって思われても仕方ないか。てか男子校なのにスカートアリなのが狙ってるよな」

「男子校は姫狙いとか、そもそもそっちの奴も多いぞ」

「マジ? 高橋は?」

「俺は……。俺も女が好きだよ普通に」

「良かった」

「あのなあ」


 俺はエリカが今更男の格好になっても、多分好きなままだと思う。だから別に良いんだけど。

 エリカが好きな格好を、我慢しなきゃいけないのは嫌だと思った。


「俺が居るから、やめるなよ。好きなんだろ」

「…………そこまで迷惑掛けらんないだろ。今日だけだよ。アイツを撒くまで」

「良いよずっとで」

「…………マジで?」

「ああ。毎日隣駅まで歩こうぜ」


 俺も女が好きなんだよ。だから低い背と綺麗な髪と高い声のエリカを好きなったから。

 だからなんか、痛い。


「高橋ん家この辺なん? 遊び行って良い?」

「良いけど、親とかにエリカの説明すんのダルいな」

「ダルいとか言うなよお前ー」


 昨日観た動画の話をして。昨日読んだ漫画の話をして。好きなアイドルとか、アニメとかの話をして。


「まァ、そろそろキツくはなってきたかなァ。両親チビだから背は伸びなさそうだけど、声はもう低くなるかもしれん。これでも毎日高音練習してんだぜ」

「マジかよ。俺普通にエリカの声好きだぞ」

「おっ? サンキュ。頑張って維持するわ」

「俺の為に?」

「ははっ。バカヤロウ」


 多分、この痛みを抱えたまま。

 卒業まで、一緒に居れたらそれで良い。

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