第4話
私の声は貴方に届いていますか?
今日は私と地球観測部との最初の出会いについてお話します。
私は「にゃん?ぷっぷー。」という地球からの問いかけを知って、自称「地球放送部」を1人で立ち上げたのですが、実はそのとき地球観測部に在籍していたわけじゃないんです。宇宙船にも地球のテレビに相当するメディアがあって、ある日のニュースで「にゃん?ぷっぷー。」が話題になりました。そのニュースは1度きりで再び取り上げられることもなかったのですが、私はそのとき、地球、そして日本という存在にとりこになったのです。
地球観測データは宇宙船のネットワークから簡単にアクセス可能です。まずはネットの情報を調べ、地球観測歴史館に訪れました。自分が通う学校にも地球観測部があり、日本を日々研究しているらしい……、そこまで知ったところで事態は暗礁に乗り上げたのです。
「そういえば、放送するネタがないなあ。放送する方法がないのは後回しにするとして……。」
宇宙船から見た「日本」をテーマにするにも、宇宙船の日常をテーマにするにも、これといった活動をこれまでしたことが無かった私には難問です。まあ深刻に考えることもないかと、ある日私はネタ探しのため気ままな散策に向かいました。
気ままな散策といえば、自然公園区の公共交通機関「おざしき和船」です。日本の伝統文化である「やかたぶね」の要素をふんだんに取り入れた公共機関で、たたみ張りにちゃぶ台とおざぶとん、そして火鉢が並べられています。乗客は靴を脱いで思い思いの場所に座ってゆったりとした移動時間を過ごします。その日はカップルとおばあさん1人でした。おばあさんは火鉢の上に網を乗せ、なにやら焼いているようでした。おそらくお餅?を薄く広げたものに、あれは……近年になってようやく再現可能になったと言われる醤油ではないでしょうか!?ハケで薄く延ばして、両面に焼き色がついて、なにやら香ばしい香りが船内に漂い始め……じゅる。
「お嬢ちゃん、どうぞ?これはねえ、おせんべい、っていうらしいよ。」
「……はっ、これはどうも。頂いていいんですか?おいしそうですね!」
「どうぞ、焼きたてだよ。」
「わーい!あ、そちらのカップルさんにも分けていいですか?」
「もちろん。みんなで食べましょ。」
「わ、ありがとうございます。美味しそうな匂いで目が離せなく……。」
「おばあさん、焼くの手伝いますよ。」
「おや、ありがとうねえ。さあ、お茶もあるよ。」
おばあちゃんは「おざしき和船」マイスターに違いありません。火鉢にはお湯を沸かすためのポット?のような、多分鉄でできた入れ物にお湯も準備されていて、私はおせんべいを食べつつも、焼いたりお茶を入れたり、お手伝いを始めました。
……がぼん!そうしているうちに、軽く衝突したような音と揺れがあり、船は乗り場に止まります。お湯が危ないような気もしますが、そこはそれ、宇宙船ですから湯面は揺らぎません。カップルさん達はお礼をして立ち去り、代わりに私と同じくらいの高校生?の団体が数名、乗り合わせました。船は再び岸を離れます。
「さっきから美味しそうな匂いが漂ってて、おなかすいて!やっと見つけた。おばあちゃん、醤油は美味しかった?」
「ふふ、それは悪かったわねえ。ええ、頂いた醤油ともち米、教えてもらったとおりに焼いてみたら、なかなか良い感じだったわ。ここの火鉢を使うのがちょうどいいのよ。今日は助っ人さんも居るから、たくさん焼けるわ。」
「はい!おせんべい焼きならお任せください!みなさん、ここ、ちょうど良い感じの色に焼きあがってますよ、お茶もどうぞ。」
「あら、ありがと。……うーん美味しい!あなた、おばあちゃんの知り合い?お孫さんかしら。」
「いえ、今日が初対面ですよー。ぱるねって言います。よろしくね。」
「こちらこそよろしく。私たちは、『りすか』、『みおら』、『ろふぇな』よ。」
「あらあら、挨拶が遅れたわね。『えりた』よ。でも、ここ最近は、おせんべいのおばあちゃんしてるわ。この船はのんびりするのにちょうどいいのよ。」
「そうですねー。今日はお日様も暖かいし、足を延ばしてのんびりするにはちょうどいい1日ですねー。……あ、そうだ、今日のおせんべいの話題、放送で使っても良いですか?」
「あら、あなた、放送部にでも所属してるの?この辺の学校の子よね。」
「ミオテウス区の学校に通ってます。高校1年だよ。」
「あら、私たちは同じ学校の3年よ。でも、放送部は知り合いがいるけど、あなたは初対面ねえ。何か部活を?」
「いえ、私はソロ活で。日本向けに放送するんです!」
「……へえ?面白そうね。せっかくゆっくり船に乗ってるんだし、お話ししましょう。」
3年生のお姉さんたちは私の言葉に興味を持ってくれた様子で、ちゃぶ台を囲んで座り直しました。火鉢の温かさと醤油せんべいの香ばしさに包まれながら、話は自然と私の「日本放送計画」へと移っていきます。
「日本向けの放送って、どうやって?」
「それがですねー、まだそこまでは計画してないんです。ただ、地球についての情報を集めたり、放送に使えるネタを探したりしようと思ってます。」
「ふふっ。自由な活動ね。でも、結構大変なんじゃない?」
「そうなんです!だから今、こうしてネタ探ししてるんですよ。」
りすかさんという先頭に座っている人が、火鉢の火を少し整えながら話に加わります。
「ところで、学校に『地球観測部』があるのは知ってる?」
「あ、はい!最近知りました。これから調べようと思ってたんです。」
「私たち3人は部員なの。と言っても、文化祭が終わって部活は引退したところね。色んな活動してきたわー。ほら、この醤油。これも私たちの活動のうちよ。歴代の部員たちが進めてきた再現プロジェクトの成果なんだから。」
「ええっ!そうだったんですか!?すごい!」
聞くと「醤油」の存在自体は古くから地球観測で知られていたとのこと。「日本」の味の再現に欠かせない調味料とされていましたが、色と、「大豆」で作ってるらしいこと、塩辛いらしい、そのくらいの情報しかなかったようです。それが、近年の「いんたーねっと」の発見を契機に麹による発酵食品であることが分かり、製法の再現に取り組むことが可能になりました。とはいえ、味が安定するまでには10年以上の年月がかかり、やっと今の代になって、一般に発表できるレベルのものができ上がったそうです。
「おせんべい、も昔から知られていたけど、醤油が手に入らなくて塩味にしか出来なかったのよねー。ああ、美味しいわ。いくらでも食べられちゃう(パリッ)。」
「部長、太りますよ……。」
「部長さんなんですか?」
「そうよ。いえ、そうだった、ね。もう引退したから後は後輩ちゃんがよろしくやってるはず……、だったらいいなあ……。」
「?」
「そうだ!あなた、地球観測部に入らない?日本放送考えてるなら、まずは情報の入手からよ。今なら日本の情報取り放題!醤油も、きっと『みそ』や『かれー』だって、食べ放題になるに違いないわ!」
「『みそ』?『かれー』?」
「どちらも日本の伝統食よ。古くから存在だけは知られていたものの、再現が不可能だった食の奇跡。それが『いんたーねっと』の発見によって実現可能(……かもしれない)な身近なものへと変わっていく瞬間に、あなたも立ち会ってみない?」
こういうと、まるでくいしんぼさんだった私が飛びついたようにも見えちゃいますが、きっとそんなことはありません。もしかしたら日本放送の道筋にもなるかもしれないと淡く感じた私は、地球観測部への扉を叩いてみることにしたのです。
さて、今日はお時間となりました。後日部室に訪れた私は、地球観測部の驚くべき実態に触れてしまうわけですが、その話はまた今度の機会に。「おざしき和船」、えっと日本では「やかたぶね」と言うんでしたっけ?貴方は乗ったことありますか?乗ったことがないならぜひ、のんびりまったり、優しい出会いに触れ合いましょう。ーーそれでは、また。
次の更新予定
にゃんぷっぷー ~私の声は貴方に届いていますか?~ 月鐘 @tukikane
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