第3話 にゃん? ぷっ ぷー!

 私の声は貴方に届いていますか?

 今日は日本向けに放送したい理由を、私と貴方の、遠い繋がりからお話します。


 さて、お話は、前回のふるるちゃんの言葉から続けます。


「――、部に入って何がしたいの?『日本向けの放送がしたい』って言ったわよね。うちは地球観測部であって放送部じゃないんだけど。」

「あー……えっと、ちょっと長くなるけど説明していいかなぁ?」

「いいわよ。あ、でも長くなるなら部室に戻って、ティータイムしながら話しましょ。」


 部室に戻ると、ふるるちゃんが手際よく紅茶を用意してくれました。料理部からお持ち帰りさせてもらったクレープをお茶菓子に、ティータイムの続きです。


「で?繰り返すけど、ここは地球『観測』部であって、放送部ではないわよ?そもそも地球向けの放送なんて宇宙船でやってないわ。それなのに放送したいの?何を放送したいの?」

「えっとね。理由の説明もかねて、日本向けに最初に放送したい原稿を読んでみていい?」

「ふうん?原稿あるなら聞いてあげるわ。自己紹介代わりに私に放送してみなさいよ。」

「ありがとう!えっとね、これは、地球の『貴方』に向けた放送です。私は……」


 ★★★★★★★★★★★★


 私は貴方、地球人の遠い子孫になるそうです。私たちの祖先は地球が太陽を数十万回廻った過去に、宇宙船を作り宇宙に飛び出しました。当時、終わりの見えない氷河期に閉ざされた地球をあきらめ、新たな星を目指して祖先たちは旅だったと言われています。


 結局のところ、いまだ新たな星にはたどり着いていません。十万年以上かけてまだ十数光年程度しか進んでいませんから。最初の候補にさえたどり着くにはまだまだ数十万・数百万年以上の年月が必要だといわれています。


 祖先たちが旅立ちを決意した当時のこころざしや悲壮感はもはや歴史のかなたに消え去りました。今の私たちは、それなりに快適で、それなりに楽しくて、たまに争いも起きる、そんな広大な宇宙船の中で日々の生活を繰り返しています。


 私たちは地球を忘れないよう地球の観測を続けています。出発した当初こそ相互の通信が実現していたようですが、相手の地球文明は一度完全に廃れてしまい、それから長い間通信が途絶えたままでした。


 変わらない青い星を眺めながら、故郷という想いも薄れる中、ただ漫然と観測を続ける年月が続いていました。


 そんな地球観測でしたが、ここ数十年ほど私たちの中でブームが沸き起こっています。一方通行ですが地球との通信が復旧したのです!新たに生まれた文明がついに通信手段を手に入れ、宇宙への発信が始まったのです。私たちは久しぶりに生まれた新たな文明の刺激に沸き立ちました!


 さてここで、私たち、じゃなくて私の今について改めてお話しますね。私は「ぱるね」、高校1年生の女子です。「宇宙人なのに高校生?」って思うかもしれませんね?実は私、高校の部活「地球観察部 日本部会」に所属しているのです。


「地球観測」は代々、時代時代の若い人たちが担う役割でした。長い宇宙生活で地球文明の名残が失われることを恐れた人たちがいて、教育の場で地球観測を根付かせることにより地球人の意識を遠い未来まで伝えようと考えたのが始まりだそうです。


 その志は現在の中高教育に引き継がれ、各学校が地球のいろんな場所を観察しています。とはいえ光学観測しかできず、数十年前に通信を発見するまでは道を歩く人々の服装を真似して制服にしたりとか、看板の文字を読み込んで文字文明について考察する程度のことしかできていなかったようです。


 なんでそんな遠くから見られるのか、ですか?ふふふ、地球を廻る人工衛星があるのです。まだ貴方には見つかっていないようですが、私は貴方を見つけることができますよ?片道十数年の一方通行通信ですが、私と貴方との大事なつながりです。


 そんな退屈な部活が、私が生まれるちょっと前、地球からの発信を発見してから劇的に変わっていきました。地球に生まれた「いんたーねっと」?なる情報発信手段によって、私たちは地球という「ここにはない異世界」で日々培われる物語を知ることとなり、その振る舞いを取り込むことが「地球観測部」を通じて積極的に行われるようになったのです。


 観測では、宇宙船内の地域や国ごとに地球の場所が割り当てられています。そう、私の地域では「日本」とされる場所を主に担当しています。そして、観測結果を地域に発信し日本を模倣することが生活の一部となっています。幼稚園から小中高校、大学まで、日本の文化を模倣して運営されています。


 そしてこの度、部活での新たな試みとして「私たちから情報発信してみる」ことになりました。きっかけはいんたーねっとの発信から見つけられた、私たちの言葉で「私の声は貴方に届いていますか?」という一言でした。


 ★★★★★★★★★★★★


「にゃん? ぷっ ぷー!(日本語直訳:聞こえる? 貴方 私)」


「いきなり大声ださない!聞こえてるから!」

「ごめんね?とにかく、『にゃん ぷっ ぷー』って言葉が日本のいんたーねっとから発見された、ってニュースを見てね、これだ!って思ったの。日本から私たちに呼びかけられたんだよ、すごくない?」


 私たちの言葉が、地球文明から失われていることは分かっています。それでも、偶然でも、問いかけられたのです。ならば答えなければ!こんな面白そうな活動、やるしかないですよね!私の言葉を届けて見せましょう!


 ★★★★★★★★★★★★


「……ご清聴ありがとうございました!」

「なるほど、ぱるねの、日本向けの放送がしたい理由は分かったわ。」

「ねえ、ふるるちゃん、一緒に放送してくれる?」

「私はヤダ、そういうの緊張する。あなたの趣味で頑張ってちょうだい。」

「えー。でも、地球観測部ではよろしくね。」

「こちらこそよろしく。お互い頑張りましょ。」

「うん!」


 さて、今日はお時間となりました。私の言葉が届くのは十数年後ですから、もしかしたら私がおばあさんになったころ、お返事が届くかもしれません。楽しみです。またいつか、貴方からのお返事を楽しみにしています。――それでは、また。

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