第3話
私の声は貴方に届いていますか?
今日は前回の続き、宇宙船に導入された「マホウ」の「レーティング」についてお話します。
宇宙船では日本のイセカイテンセイという概念を大々的に取り入れ、重力制御システムを応用した「マホウ」を導入したとお話ししましたね。「マホウ」は宇宙船全体に取り入れられましたが、その仕組みをどこまで使っていいのかは議論が分かれていまして、現在は居住区単位の投票で、4レーティングの試験的導入が行われています。
1つ「生活マホウのみ」。今ではほぼすべての居住区で導入されています。これだってすごいんです。たとえば、水の塊を沸かして紅茶を淹れる、空中で野菜をカットする、マホウのホウキで学校に行く──そんな世界が今は現実になりました。宇宙船技術をちょっと応用しただけで実現したマホウ。この発想こそが日本のイセカイ文明の凄さです。
2つ「モンスターとの戦闘まで可能」。対人は許可されませんが、公園や街中などに登場するモンスターや、特定の悪人?怪人?たちとの戦闘が許されます。悪人が居て治安が大丈夫か、ですか?いえいえ、ちゃんとオーディションを受けて合格した人だけが成れる立派な職業なんですよ。突発的に起こるヒーローショー、ヒロインショーは大人気で、ショッピングモールなどでは人気コンテンツとなっています。飛び入り参加も可能で、ヒーロー、ヒロインの中には一般参加のコスプレイヤー?という方々も現れ、人気を博しています。
3つ「同意のうえでPvP可能」。対人戦が許可されますが同意が必要です。いわゆる「競技場」的なコンテンツか、公園などの大きなフィールドで行われる「サバイバル」コンテンツとなります。こうなってくると流石に物騒なので居住区で導入しているところはほとんどなく、自然公園区や公共区の一部、またはそれこそ「競技場」に限って導入されています。個人戦やチーム戦が多く、ネット中継が盛んなのもこのレーティングですね。日々大きな賞金が掛けられた大会が開かれ、今ではプロのPvPプレイヤーたちが登場しています。公営の賭け事も行われていて、ちょっと血走った人たちの人気も上々です。……いいのかなあ。
4つ「自由にPvP可能」。これはもう、無法地帯です。なぜこんなレーティングが許可されているのでしょう?あいさつ代わりに後ろからマホウを叩き込んだり、徒党を組んで行商人に対して盗賊行為をしたり。今の宇宙船で行商する必要なんてまったくないんですが、襲われる方も襲われる方で、わざわざ大きなスキを作ったりしているそうです。「イセカイテンセイ」的世界観をもっとも反映しているのがこのレーティングです。自然公園区などで導入事例があるそうですが、イセカイすぎて導入例の実態がネットに流れてきません。どんなイセカイなんでしょうね?
さて、今日はこの4レーティングのうち「モンスターとの戦闘まで可能」とされている公共区のショッピングモールを紹介しましょう。ここでは幼稚園~小学女子向けの催しとして、ヒロインショーが行われるそうですよ?モール中央の特設ステージでは「キラキュア☆フローティア」なる垂れ幕の下、3人くらいの女子が派手やかな衣装を着て、声を上げました。
「私は、煌めく光の戦士、キラ・ソレイユ!」
「静寂の月の戦士、キラ・ルナ!」
「優しきそよ風の戦士、キラ・セレーネ!」
「「「私たちは、『キラキュア☆フローティア』!!!」」」
「今日はステージに来てくれてありがとう!みんな、歌を聞いていってね!」
歌って踊るステージに子供たちは大喜びです。後ろの方、みょうに圧のある大人の子供たちが居ますがそれは見ないことにします。しばらくは華やかなBGMの舞台進行でしたが、唐突に不穏なBGMが流れ出します。
「ははは!我ら『ダークミストレス』とそのしもべたちが、このショッピングモールの『キラキラ』を奪い取ってやる!まずはそこのショップからだ!」
ダークミストレスが放つマホウを受けるとショップから光が奪われていきます!1つ、2つと光が消えていき、いつしか悪役たちのスポットライトが薄暗く輝くだけになりました。その時、ヒロインたちが立ち上がります。
「キラキラはみんなのもの!たとえ光が奪われようとも、私たちが取り返すわ!」
「ソレイユ・ブライトフラッシュ!」
「ルナ・ムーンライトハーモニー!」
「セレーネ・ブリーズエール!」
流石ヒロインたちです。攻撃マホウだけでなく「ブリーズエール」など一般には不人気な防御マホウも組み合わせ、会場が破壊に飲み込まれる中、子供たちにだけは絶対に被害を与えません。しかし、ヒロインたちの技をダークミストレスは巧みによけ、逆にヒロインたちをピンチに陥れました。崩れ落ちるヒロインたち3人。すると1人のヒロイン、ソレイユが顔を上げ、子供たちに声を掛けました。
「みんなの力を貸して!マホウのステッキを掲げて、私たちに祈って!」
「がんばえー!」「負けないで!」「ボ、ボクの力も使うんだ、な!」
小さな子供たちと大きなお兄さんたちの祈りがステッキに乗り、淡いキラキラがステージに伸びていきます。集まったキラキラはステージ中央で大きな輝きとなり、うずくまっていた3人が立ち上がりました。さあ、ヒロインの出番です!
「「「キラキラをあなたに!フローティア・レインボーフラッシュ!!!」」」
「ぐわーっ、キラキラァぁ……」
見るとダークミストレスがキラキラに包まれ、本当に光の中に消えてしまいました。ショップやモールから光が戻り、戦いで壊れたはずのがれきもすべて消え去ります。ヒロインたちが最後に声を上げました。
「みんなの力で勝てたよ!本当にありがとう!」
「私たち、これからもこの世界のキラキラを守っていくわ。」
「また会える日を楽しみにしてるね!」
明るく華やかなテーマソングが流れ、大歓声の中、彼女たちは観客に手を振ってステージを後にしました。この後即売会が開かれ、ものすごい行列ができていました。小さな新しいマホウ使いたちが増えていきます。きっと新たな危機も子供たちのマホウで乗り越えていけるでしょう。モンスターが居る世界でも安心です。世界平和は守られましたね!
さて、今日はお時間となりました。マホウレーティング、いかがでしたか?日本のレーティングは「自由にPvP可能」と聞いています。危険な世界だと思いますが、頑張ってマホウバトルを生き延びてください!私の力をマホウのステッキに乗せて、キラキラを貴方に届けます。ーーそれでは、また。
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