第9話「至福の一服〜ブラックパープルメンソール」

高校の屋上。

いつものわたしの特等席。

天気の良い日中の一服は格別だ。

タバコスティックを吸い込み、空に向かって盛大に煙を吐き出した。アイコスの煙で雲を作ろうと思った。でも、無理だった。

スマホにメッセージが入った。

細山田のオッサンの予約。

メッセージを返信した。

ただ一言。

『···だる』

すぐに、スマホに着信があった。

店からだ。

わたしは電話に出た。

「どうしたの、サクラちゃん?」

顔見知りの電話番が言った。

わたしはサクラじゃなくて、美桜だ。

「バ〜カ!」

送話口にそう告げて、屋上から下に向かってスマホを放り投げた。

予想以上のクラッシュ音。続けて、罵声が聞こえた。

「誰だ! こんな物投げたのは!」

あの声は、不自然な髪型の教頭だ。おそらく、ヅラ。

わたしは屋上の手すりから顔を出すと、教頭と目が合った。

「2年B組坂本美桜で〜す!」

ありったけの大声で自己紹介した。

「きみは授業中に屋上で何やってるんだ!」

大声に対する大声。校舎から、教師、生徒がモグラ叩きみたいに顔を出す。

わたしは手すりから顔を出したまま、タバコスティックを吸い込み、盛大に煙を吐いた。

教頭がワ〜ワ〜と下から叫んでいる。モグラたちもザワザワ騒いでいる。

「うっせぇ〜ぞ! ヅラ!!」

わたしがそう叫ぶと、一瞬、完全に静まり返った。教頭が逆上した。ヒステリーを起こしている。

メッチャウケる。

タバコスティックを吸い込んだ。

煙を一度口の中にとどめて、外の空気を吸いつつ、ゆっくり煙を飲み込むように肺に入れた。

至福の一服だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『ダイバー/ブラックパープルメンソール』 宮本 賢治 @4030965

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画