ココロはどこへ

星夜とわ

ココロはどこへ

「ポチャン」。僕のココロが落ちた音。たしかどこかの水たまり。いつもの学校の帰り道、いつものように水たまりを飛び越えた。でも心は水たまりに落としてきた。だからポチャン。それから僕は何も思わなくなった。だってココロがないから。落としたから。別にどうだっていい。やっぱりココロがないから。

でも、困ることもあるみたい。自分の感情を何にするのか。今までは大丈夫だった。多数決で決めてたから。いや、多数決とはちょっと違うのかな。説明するとね、周りの人達で一番多い感情に僕はなるってこと。例えば、学校の給食でデザートが出たとき。その時は周りの人は嬉しがってる人の方が多かった。だから僕も嬉しがった。そうやって決めれば迷うことは無い。だから大人数の場で困ることは無い。

でも、妹といるときは違う。だって多数決が使えないから。そういう時はたいてい笑顔にしてる。そうしたら妹も笑ってくれたから。そんな風にできるからココロが無くても僕は生きていけるし、そのほうが楽だった。


今日も学校に行った。今日はずっと笑顔だった。みんながニヤニヤしながら僕に話しかけたから。何を言ってるかはどうだっていい。クラスの大半がニヤニヤしてた。あとは困った顔が数人と泣きそうな顔が一人。だから笑顔。だけどダメだったみたい、みんなが僕の表情を見て急に「気持ち悪い」と言った。嫌そうな、不気味なものを見ているような表情をした。だから僕も嫌そうな表情をした。でもそれも間違いだったのだと思う。あいつらに何かされることが増えた。他の人はされてない。それでよかったはずだったのに。僕は少し間違えた。だから最初に戻るために、僕はみんなと同じになるために、ココロを捨てたのに。だって同じようにしていれば、みんなとまた同じになれる。僕は変わってなどいない。みんなが変わっただけなのに。

僕はあいつらの言っていることを聞き取れた。「お前は人形みたいで気持ち悪いんだよ」。そうか、そうだったんだね。じゃあ感情を捨てたのは間違いだったんだね。

僕はなんだかわからない。でも後悔はしてなかった。


僕はココロを拾いに行った。あぁ、ここにたどり着くのにひどく時間がかかってしまったね。僕はそっと水たまりに足を入れて、ココロを拾う。水たまりに長くいたココロは氷のように冷たかった。


ココロが戻ったからみんなのところに行こう。これで今度こそみんなと同じになれる。これでいいんだ。そう思いながら僕は軽い足取りで家に行った。家に着いた。いつもの家だ。でも、妹は泣いている。慰めたくて触れようとした。だけど、どう触れたらいいかわからない。そっか、これが感情。だってココロがあるもの。僕は次に学校へ行った。泣いている人が一人。あとは動揺、少しの喜び。泣いている人、泣かないで。やっぱり伝えられない。ココロがあるから。


さて、僕はどんな表情をしたらいいのかな。泣いている人は二人で驚きは多い、喜びは少ない。いつものようにやるのならば驚いた表情にする。だけど今はココロがある。さぁどうしよう。

うん、そうだね。今までの人生で考えてみよう。僕はきっとみんなの常識を理解できなかったんだ。多いほうが勝ち。そんなのは違う。たった一人でよかったのにね、もう遅い。ごめん、本当にごめん。

…あぁ、そうか。これがココロなんだね。僕は間違えてしまったのかもしれないね。だって僕には気が付けなかったことがたくさんあったのだから。

僕は今きっと、悔しくて、悲しくて、寂しくて、嬉しくて、幸せな顔をしている。

だってココロがあったのだから。

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ココロはどこへ 星夜とわ @hosiya_tomomi

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