第2話 片目隠れの幸薄桃髪ぱっつんミディアム越ヶ谷さんの孕ませたい安産型ダイナマイトボディ
「クソッ! あのアホ上司め。俺に残業押し付けて先に帰るんじゃねーよ!」
翌日の仕事終わり。
俺は流れるようなICカードさばきで無人改札を出ると、そのままの足でコンビニへ。
「もし、俺以外のヤツに買われちまったらどうするんだ!」
あのコンビニに客がいることなんてほとんどない。だから、えち番くじが売れることなんてあり得ない。
とは言え、可能性はゼロではない。
ゼロではないからこそ、アホ上司から擦り付けられた仕事を無理やり後輩に擦り付けてまで、コンビニに急ぐ必要があるのだ。
ガー……ドカァン!!!!!!!
「ぐべぇッつ!?」
トラップがあると分かっていて、あえて引っかかりにいくとはドMも呆れる愚行。
猿も木から落ちると言えばまだ体裁は保てる。でも、常連も時には時間差で開く自動ドアに激突し膝から崩れ落ちる――とは、字面も含め弁解不能の情けない話だ。
「きゃあ! お、お客様。大丈夫……でしょうか!?」
「い、いででで」
顔は火を噴きそうに痛くて恥ずかしいが、耳は至って正常。
だから顔を見なくとも、その透明感漂うか細い声で今夜の出勤はダイナマイト越ヶ谷さんだと気付く。
「このドア、少し……その、反応が悪いらしくて……次からはお気を付けくださいね?」
「あ、ああ」
「あらっ? あなたは――」
片目隠れの幸薄(こうはく)桃髪(とうはつ)ぱっつんミディアム。
そんな典型的な陰キャアクセル全開な彼女のつぶらな瞳が俺の輪郭を捉えた途端――頭に疑問符を浮かべる。
なんでこの人、常連なのに顔をぶつけているんだろう? そんな顔だ。
「遅くまでお仕事ご苦労様です」
しかしいざ出てきたのは、伏し目がちながらも俺を優しく労う言葉と模範的なお辞儀。
「へ?」
「私、あなたのこと知っています。厳密に言えば響子さん……いえ、高畑さんから聞いた話ですが。いつも深夜までお仕事頑張っている社畜のお兄さんがいるって」
「ま、マジ?」
「ええ。まじです」
マジか。やっぱり常連ともなると、従業員同士で客の情報を共有しているんだな。
まぁ、社畜のお兄さんはどうあれ、変態紳士とか、おっぱいチラ見さんとか、不名誉なあだ名を付けられていなくて良かった――と思ったのも束の間。
(待てよ。今、越ヶ谷さん、
身体を張ったリアクションによって得る、思わぬ収穫。
これは後々のフラグとして使えそうだ。
「お仕事、頑張るのも結構ですが、ちゃんと休息を取らないとダメですよ? 身体が資本なんですから」
「そ、そうだね。ありがとう」
「では私はレジに戻りますね」
高畑さんと比べると越ヶ谷さんはかなり身長が低い。こうして向かい合うと見下ろす形になるほどだ。
だからこそ、アンバランスな巨乳が制服越しに際立つわけだが――それよりもダイナマイトなのは今、リアルで目にしている光景!
ふりっ、ふりっ、ぷりっ♥
尻(ケツ)! ダイナマイト級のミニスカ越し肉厚(にくあつ)尻(ヒップ)!!
わざとか無自覚かは知らないが、デカ過ぎるケツを左右に激しく揺らしレジへと向かう後ろ姿がマジで誘っているかのようにエロいんだ。
(肩幅よりも少し広い骨盤――。ああ言うのを、俗に安産型って言うんだろうな。くぅっ! マジで孕ませたいドスケベボディだぜ!)
などと妄想を膨らませつつ、俺はビール片手にえち番くじのテーブルに目を向ける。
(良かった。まだ完売はしていない)
でも、残りの枚数は分からない。減っているかもしれないし、減っていないかもしれない。
そのため、直接彼女に問うて確かめてみる必要がある。
「いらっしゃいませ。商品、お預かりしますね」
「あと、肉まんをひとつ」
「かしこまりました」
「それと、タバコを」
「いつものマイルドヘブンですね」
「ついでに、えち番くじを一回」
「はいは――え?」
流れるようなレジさばきから一変、フリーズする越ヶ谷さん。
「だから、えち番くじを一回引きたいんだけど……」
そして、たっぷり一分間。
まるで雪が解けるようにして、ようやく時は動き出す――。
「えええええええええええッッッッ!?」
「ちょ、声が大きいって。今、何時だか分かってる?」
「ど、どうして私のシフトの時に引くんですか!」
「だから声、大きい。と言うか、そんなにデカい声出せたのかよ」
「も、申し訳ございません……つい」
えち番くじと聞いた途端、越ヶ谷さんはあからさまに動揺しモジモジし始める。
(ああ、何と言うか……)
縮こまり、チラチラと上目遣いでこちらを窺う今の彼女は、いい意味でどうしようもない嗜虐心に駆られる。
イジって遊びたい。反応が見たいと言う欲望がフツフツと掻き立てられる。
(ゴクッ)
だからここは多少強引に行っても問題は――。
「そもそも俺は越ヶ谷さんのシフトの時を狙って引くわけじゃないよ。昨日、高畑さんの時にだって引いたし」
「響子さんの時も……? じゃああなたは昨日、響子さんとえっちなことを――」
「話によると、えち番くじが売れ残ると店長から文句を言われるみたいだね」
「え、ええ」
「だから俺は少しでも売り上げに貢献したいと思ってるんだ。でも越ヶ谷さんはえち番くじを売ってくれず、わざと売り上げに貢献させてくれない。こっちの方がよっぽど問題だと思うけど」
「わ、わざととか違いますっ。そういう意味で私のシフトの時に引くのかと聞いたわけじゃありませんっ」
「じゃあどういう意味?」
「だって私なんかからくじを買ってもつまらないと思って……。私、その、響子さんみたいに男性を惹き付ける魅力、ないから……」
「……ッ!」
ああ、出たよ。
自分で自分の身体のエロさに気付いていない典型的な陰キャ女パターン。
(こっちは何度妄想でその安産型ドスケベボディを孕ませたと思ってんだ!)
ただ、今の越ヶ谷さんの発言で俺はあるひとつの結論に至る。
(自分に魅力がないと思い込んでるってことは、まだあの身体には男の手垢が染み込んでいないって証明。つまり、越ヶ谷さんはまだ――)
にやり。
そうだ。ここは合法えち番くじを使って、越ヶ谷さんの魅力を身をもって気付かせてやろうじゃないか。
あわよくば、垂れ流すだけだったスケベな妄想が現実になる可能性も――。
よし、そうと決まればゴリ押しだ。こういう女はひたすらゴリ押しで畳みかけるが吉。
「俺は越ヶ谷さん、とても魅力的な女性だと思うけどな」
「ぇひゃぃひッ!? と、突然何を言いだしているんですか!」
「ここに通っているのだって、越ヶ谷さんに会いたい一心なんだぞ」
「そ、そうだったんですか……? 私、てっきり響子さんのおまけ的な存在かと――」
「そりゃ高畑さんは高畑さんで魅力的だと思う。でもな、越ヶ谷さんには越ヶ谷さんの魅力もあるんだぞ」
「私の魅力……そんなものがあるなんて。例えば、どんなところですか?」
「……」
もちろん、孕ませたい安産型ヒップのドスケベボディ!
なんて即答するのもいいけど、初めから飛ばし過ぎるのももったいない。まずここは焦らすようにして揺さぶるのだ、越ヶ谷さんの女心を。
「それは、えち番くじが証明してくれるさ」
「も、もうっ。イジワルです」
「はははっ」
ほら、食い付いて来た。
こうなれば、こっちが主導権を握ったも同然だ。
「では、試しに引いてみてください」
七百五十円を支払い、えち番くじを一枚引く。
めくった先に記載されていた文字は末端賞のI賞。
「I賞は何を貰えるの?」
「おしゃぶりですね」
「おいおい。俺に幼児退行の趣味はないぜ?」
「違いますっ。私がお客様にするんです。おしゃぶり……」
「えっっっ!? と言うことはまさか」
「はい。そのまさかです」
エッッッッ!推しの巨乳店員がいる深夜の寂れたコンビニには秘密のえち番くじが売ってるって本当ですか? モブ俺製作委員会 @hal-ford
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