第41話 局激
東京都千代田区霞が関
中央合同庁舎第3号館 魔法対策庁
日本国の中枢である国会議事堂、そこから東に300メートル、徒歩5分の位置に、中央合同庁舎第3号館はあった。ここには、国土交通省、海上保安庁、そして魔法対策庁が入居している。
関東管区本部長の内海は、緊急の要件で呼び出しを受けて来庁していた。普段内海は相模原に居て、月に一度報告の為、ここに来るが、緊急の呼び出しは滅多にない。内海は緊張しつつも長官室へ入る。そこには魔法対策庁でもっとも高位な役職である、魔法対策庁長官、海老名 義樹(えびな としき)が待っていた。
「すまんな内海君。急に呼び出したりして。そちらの状況はどうだ?」
「はい長官。3月末となり、ガイマの出現件数は徐々に増えているものの、今の所は被害無し、おおむね例年通りと言えるでしょう」
魔法対策庁長官は、魔法対策庁・中央機構を取り仕切り、主に人事、予算編成、官僚や政治家との折衝など、高位の仕事を受け持つ。関東総本部・第2中央機構、関東管区本部長の内海は、日本全国の実行部隊の指揮を執る、いわば現場指揮官のような立場だ。
その内海に、緊急の呼び出しがあるとすれば、それは確実にガイマ関連、それも海外である可能性が高い。長官は話し始める。
「君の直感で、今年はガイマ関連で大きな事件が起こる可能性が高いと言っていたな。今の所スタンピードの兆候は出ていないが、君の勘はある意味当たっていたといえるかも知れん」
「それはどういう事でしょうか?」
「詳細はそちらに説明してもらおう。彼は海上自衛隊、2等海佐の井坂さんだ」
そう言って長官は、隣に座っている壮年の男を指し示した。
「どうも初めまして。井坂と申します。こちらの資料をお渡しします。ではさっそく説明を。こちらはアメリカ第7艦隊の情報となります。3週間前、アメリカ軍の艦艇が不審な海中移動物体を発見しました。速度約16ノット。全長は200メートル、幅80メートル。探知位置はグァム北200キロ。北マリアナ諸島となります。米軍艦艇は探針音波を出して相手を追跡しましたが、海中移動物体は急速潜航。それと同時に探知が不可能となりました」
「それはまさか、ガイマでしょうか?」
「その可能性が非常に高いと判断しています。形はウミガメのような形状で、既存の潜水艦であのような形はありません。また、ビンガーを吸収することが可能。となれば、魔力障壁を展開して音波を吸収したのではないかと推測できます。不明移動体は北方向を指向していたため、米軍は北に哨戒線を形成して調査に当たった所、2週間前に小笠原諸島、母島近海にて再び発見。不明移動体は浅い所を移動していたので、哨戒機の熱源探知装置にかかった形です」
「グァムから北へ…… では海中を移動するガイマは、日本へ向かっていると?」
「そこまでは分かりません。ですが2度の発見とも、針路は北を指向していました。母島から東京までは約1000キロです。そのまま北方向に16ノットで移動したとして、およそ1か月で東京近海に到着します。つまりあと2週間ほどで日本近海に到着する可能性が高いと考えられます。すでに海上自衛隊では、南に哨戒機を飛ばして探索していますが、今の所ガイマの発見に至っていません」
「内海君。我々中央機構の魔法情報部は、これまでの情報を精査し、この日本に接近するガイマはレベル6のガイマである可能性が高いと見ている。つまり…… 激甚(げきじん)局撃級ガイマである可能性が極めて高い」
「激甚局撃級ガイマ……」
井坂2等海佐の説明を引き継ぎ、発言した長官の言葉を聞き、内海は戦慄を覚える。「激甚局撃級ガイマ」これはかつて、関西を襲撃したことがあるガイマと同級の存在である。魔法庁が発足し、本格的に動き出した2005年。9月にその化け物は現れた。
最初の襲撃は、高知県、徳島県、和歌山に対するウイング・サーペントの空襲から。自衛隊及び魔法対策庁は即座に臨戦態勢。懸命な索敵により、ウイング・サーペントを放った母艦とおもしきガイマを、和歌山県沖で発見。
その母艦ガイマは「サイクロプス・シーサーペント」と名付けられた。全長180メートル 胴体は直径20メートルの巨体で。体内にガイマを搭載し、遠距離から攻撃をしてくるガイマであった。
事態を重く見た魔法庁は、関西の魔法少女全員と、関東からも6名の魔法少女を派遣し、当時の魔法庁が投入できる全戦力を関西にかき集めた。その巨大ガイマとの戦闘は3度に分かれる。
まず1回目は、瀬戸内海侵入阻止のための鳴門防衛作戦。魔法少女と自衛隊の防衛線戦で、ウイング・サーペントの猛攻を撃退。2回目は、海上自衛隊のみの攻撃による大阪上陸阻止作戦、大阪湾海戦。そして3回目が、六甲アイランド上陸阻止作戦。
結果的に、サイクロプス・シーサーペントは、六甲アイランドに上陸して大暴れ。魔法少女8名で攻撃したものの、途中で魔力が尽き後退。その後、自衛隊の護衛艦が陸上のサイクロプス・シーサーペントを攻撃して撃破に成功した。実にアスロック3・ハープーン18・艦砲120発を当てての撃破であった。
当然のことながら、その戦闘で六甲アイランドは壊滅し、六甲大橋も崩落した。そして現在でも六甲アイランドの復興はほとんど進んでいない。避難が迅速に済んだおかげで、民間人の死者が少数だったことだけが救いだ。
この大型ガイマ出現は、当時の日本及び世界全体に大きな衝撃を与えた。魔法庁の予算が倍額になり、審議中であったリニアキャノンの着工が決定されるほどに。当時は内海も関西に来て、尼崎に司令部を置いて指揮していたので、激甚局撃級ガイマの恐ろしさはよく分かっていた。
この戦いの後、新たにガイマのレベルの追加が行われ、当時最大レベル5の強さを持つガイマ。それを上回るレベル6、レベル7が新たに制定された。レベル6は、激甚局撃級ガイマ。レベル7は、激甚本撃級ガイマと呼称する。サイクロプス・シーサーペントは、レベル6、激甚局撃級ガイマに指定された。
激甚局撃級ガイマ・激甚本撃級ガイマ。これらの名前の由来は災害対策基本法の激甚災害(げきじんさいがい)制度の予算区分から来ている。災害の規模により、激甚災害の財政支援の大きさが異なっており、激甚災害は2種類となる。
・激甚災害 (通称・本撃)
・局地激甚災害 (通称・局撃)
この内、激甚災害は支援対象地域を限定しない「本撃」と、地域単位で指定する「局激」に分かれる。ガイマは災害と認定されており、今回サイクロプス・シーサーペントが起こした災害は「局激」に指定されたために、呼び名・等級が激甚局撃級ガイマとなった。それを上回る被害を産むレベル7の激甚本撃級ガイマは、幸いなことに、まだ世界で確認されたことは無い。
「まだ日本に来ると確定したわけでは無いが…… 内海君。今のうちに関東総本部でも迎撃態勢を取ってくれ。予算措置や交渉など、こちらでも可能な限り支援することを約束しよう」
「海上自衛隊は、試験艦あすか及び護衛艦の出撃準備を行っています。試験艦あすかはご存じの通り、実験として魔力レーダーを搭載しており、魔法庁とのデータリンクも可能です。兵器は残念ながら魔法対応ではありませんが、前回よりマシな戦いができるはずです」
長官と井坂2等海佐の発言を受け、内海は深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。もし激甚局撃級ガイマが日本に上陸しても対応できるよう。全力で準備を致します。よろしくお願いします」
それからいくつかの確認をしてから、内海は長官室を退室。話し合いが少し長引いたため、時間は昼を回っていた。内海は、共に来た次官を引き連れ、まずは昼食を摂ることとした。
中央合同庁舎第3号館には、うどん屋とそば処。それと50種類の弁当が食べられる、お弁当専門のフードコートがある。内海はそば処で食事をすることに決め、食券を購入した。このそば処は、旨い関東だしの蕎麦やうどんを出す店で、値段もリーズナブルで、ワンコインで満足できる食堂だ。注文したのは丼セット700円。ドンブリとかけそばのセットだった。
内海と次官は食後に、テーブル中央に置いてあるやかんから、蕎麦湯を注ぎつゆを割り、最後にお茶代わりに飲んでから席を立つ。居心地の良い店内を出て、駐車場の車に乗って、中央合同庁舎を出て相模原市に向け走り出した。内海は覚悟を決めた目で、誰に話かける訳でも無く呟いた。
「さて、関東総本部へ帰るか…… 帰ったら忙しくなるぞ。覚悟しておけよ」
アストライオス・リブラ ~男の娘になった俺は、魔法少女になって横浜の平和を守ります!~ FUJI MAMORU @FUJIMAMORU
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