第40話 堕ちる


「ちわ~。宅配です」


「どうもご苦労様です……」



 かりんちゃんとラーメン博物館へ行ってから1週間後。俺は玄関で、宅配の兄ちゃんから注文していた荷物を受け取る。ついに来てしまったか。俺はため息をついて、荷物を持ってダイニングへ、そこには、テーブルに転がっているエインセルがいた。



――――んっふっふ。ついに届いたのね!


「あぁ。来てしまったよ。まったくお前という奴は……」



 事の発端は数日前のことだ。新たなる方針に基づいて、本格的にエインセルと今後の行動計画を組み立てている時に、エインセルが要望を出して来たのだ。



――――おおよそサトルの考えていることは分かったわ。私が協力すれば、なんとかこなせそうね。でもさぁ。コレ結構ややこしい作戦よねぇ? 別にいいけど、その場で対応を変える必要もあるから、事態は流動的になる。これじゃ報酬をいつ貰えるか分かんないよ。だからさぁ…… 私への報酬、先払いにしない?


「さ、先払い…… おいおい、また無茶なお願いじゃないだろうなぁ?」


――――そんなのしないわよ。あのさぁ……。嫌ならいいけど…… 夜に遊ぶときにさぁ…… おもちゃ使ってみない?


「なっ、なっ…… バカッ、何言ってんだ! そ、そんな…… 大人のおもちゃなんて…… そんなヘンタイみたいな事できるか!」


――――ちっが~うわよ。そんなイキナリ本格的なことするわけないじゃん。ホラ、あれよ。電動マッサージ機よ。


「あっ、あぁ、電マかぁ…… たしかに、それなら…… いや、しかし……」


――――電マなら、買う時に恥ずかしくないでしょ? それに夜遊ぶ以外にも体がほぐせるし、遊びにも実用でも役に立つわよ。


「そうだけど…… なぁ……」



 そう。エインセルは夜の遊びに、電動マッサージ機を使うことを要求してきたのだ。たしかに、AVなんかでよく見かけるが、あれをなぁ…… あのバイブレーションを敏感なナナの体で…… そんなことをしたら、俺は、俺はどうなってしまうのだろうか? いかん、想像したら体がゾワゾワしてきた。体も熱くなってきた。だ、ダメだ。エインセルの口車に乗っては……



――――これなんだけどさぁ、どう? きっと凄く気持ちいいよ?



 エインセルはそう言って、ナナのスマホに、電動マッサージ機の販売ページを表示した。画像には、オーソドックスな電動マッサージ機のシルエット。先端のバイブ部には、ブツブツ突起。頂点部に長い突起がついていた。ボディ色は黒地に赤ライン。バイブ部分はグレーだ。



【新感覚! 強力電動マッサージ機 按摩無双 新発売!!】


世界中で愛されるエンジェルシリーズの最強モデル、新登場です。


驚異的な14000回転で、どんな体の凝りも1発解消。未知の快感があなたの身を襲います。強力回転に加えて、改良されたハイパーヘッドで、よりダイレクトな刺激が体に伝わります。


高速冷却を実現する、ターボクーラーを内蔵しており、長時間の連続振動にも耐える仕様。


またハイパーヘッド先端の突起を体に押し付けると、ツボ押し効果により血行促進になります。


180段の無段階調整ができるダイヤル式スイッチで、強力なマッサージから、優しいマッサージまで自由自在。切り替え式の「ツボ押しモード」で、按摩気分が味わえます。


電源コードは3メートルと長く、広い範囲でバッテリー切れを意識せず、最後までお楽しみいただけます。


【商品スペック】

■サイズ:30.0cm×5cm/ヘッド部直径60mm

■重量:600g

■備考:AC電源

■付属品:収納ポーチ(白色)

19,980円

送料無料(全国一律)



――――ね? 嫌なら使わなければいいだけじゃない。でも何回かは使って欲しいの。お願い!



 というわけで、結局、エインセルに押し切られる形で、この按摩無双とかいう凄い名前が付いた、電動マッサージ機を買ってしまった。そして本日、それが到着してしまった。というわけだ。


 そして夜になり、俺はジェミニ・クレアトゥール、ナナの姿に変身。寝間着がわりの安物のワンピースを着て、ベットに寝転んだ。エインセルは俺の体内に居る。妖精とはいえ、他人の目線があると集中できないので、夜遊ぶときは、いつもエインセルには体内に入って貰う。もっとも、しっかりと撮影だけはしているようだが。


 俺はおもむろに、強力電動マッサージ機「按摩無双」のスイッチを入れた。振動し始めるマッサージ機。ダイヤル式スイッチは無段階調整できるので、スムーズに振動強度を変化させることが出来る。俺はとりあえず振動するハイパーヘッドを肩に押し当てた。



ブブブブブブブブブブブ……


「んんんっ…… これは…… なかなか……」


――――どうかしら? 結構いい振動がきてるんじゃない?


「んっ。悪くない……わね。振動がダイレクトに……くる。次はツボ押しモードを……」



 俺はもう一つのモード。ツボ押しモードに切り替えた。明らかにさっきより振動が荒くなり、かわりに力強い衝撃が発生した。最初は、先端と太い突起部分を肩に当て、それから下にズラして胸の付近へ



ボボボボボボボボボボボ……


「あっ、んっ、これダメッ ホントまずい!」



 俺は全身を駆け巡る快感に、思わずのけ反って、バイブを手から離してしまう。ちょ~。これマジでやばいよ。敏感なナナの感覚にピッタリ嵌ってしまう。


 お、俺はこんなもので今から遊んでしまうのか? おまけに撮影もされている自覚もあるので、頭に血が上ってフラフラしてしまう。おそるべきツボ押しモード。エインセルめ、なんという電マを選んでしまったのだ。呼吸を整えた俺は、振動する電マを再び掴み、また胸に押し当ててしまった。


 ああぁ。ダメだ。こんなもので楽しんじゃダメなのに…… これじゃ俺は、俺はまるでヘンタイじゃないか!!



ボボボボボボボボボボボ……


「ああっ!」



 その後数時間。俺はたっぷりとマッサージを楽しんでしまった。そうだ、これはあくまでマッサージなのだ。たしかに血行も良くなったし。最後のほうはなんか気が遠くなった様な…… うん。きっとそれは気のせいだ。それから俺は知らない間に、ベットで熟睡していた……






「さてと、昨日はマッサージも十分やったし、リフレッシュした気分で、今日は新しい魔法少女をどうキャラクリするかを考えよう」


――――フフフフッ、昨日はずいぶん頑張ったじゃない。熱い夜だったわ。


「くっ……」



 俺は朝目覚め、男に戻ってシャワーを浴びた後、エインセルと今後に向けての会議を行うことにした。議題は魔法少女ジェミニ・キャスターの設計をどうするかだ。エインセルはお肌つやつやで、機嫌が良かった。冷静な賢者モードになってしまうと、胸の中から恥ずかしさがこみ上げてくるが、仕方がない。これから色々とエインセルに仕事を頼むことになる、これは必要な出費だったのだ。



「ところでエインセル、なんで毎回そんなにお肌つやつやなの? お前、実は妖精じゃなくてサキュバスだったり?」


――――失礼ね。誰がサキュバスよ。あんな下等なのと一緒にしないでくれる? 私は妖精よ。存在としての格が違うんだから!



 事が終わる次の日は、何故かいつもエインセルが元気になるので、実は俺の精力吸収してるんじゃないかと疑っているのだがね。それよりもエインセルの話しぶりから、どうやらサキュバスが実在するらしいことが分かった。まぁ、俺にはどうでもいいことなんだけどね。サキュバスになんか興味ないし。


 というわけで、さっそく会議を開始。これまで温めていた俺の案をエインセルに熱弁した。男のロマンはやっぱりバーニア噴射だよね!



――――ふうん。そういう美学か。胴体やら足やらからロケットのごとく白煙を噴射して、突進からの格闘戦や機動戦。カッコいいとは思うわよ。魔法少女ぽくないけど。


「だろ? 外見は俺に準じた姿にして欲しい。黒髪に瞳はラピスラズリで。黒鎧に銀のラインを入れて、サークレットと髪飾りも銀色、もちろん美少女で。それと指摘の通り、どっちかっていうと特撮ヒーロー寄りだけどさ、たて座のスキュータムだって魔法少女ぽくない格好だろ」


――――ふむ。ノズル状にして色を着けた風魔法を噴出、効率化による高機動化。背中にラプター戦闘機のような、2次元スラスト・ベクトル・ノズル6基。わきの下と両手、両足に小型の3次元推力偏向ノズル。細かい位置調整は必要だけど不可能では無いわね。


「おおー。本当か? さすがはエインセル。魔法はなんでも出来るんだな」


――――なんでもは出来ないけどね。いずれにせよ空中での姿勢制御は、体の周囲を覆う魔力でやってしまうから、推力偏向ノズルは推進でしか使わない。なんちゃって推力偏向制御になるけどね。魔法少女の力の制御は、魔道器の人工精霊がやるのだけど、双子座に設定している計算領域が足りないわね。魔法少女2人分の計算領域を取る必要があるわ。


「2人分の計算領域か。それ大丈夫なの? 他の魔法少女に影響はないか?」


――――問題ないわ。魔法少女の最大人数である88人全員がフル稼働しても、人口精霊は全体の6割しか使用しないもの。かなり余裕を持たせている。もっとも、管理者のリャナンシーに一筆送る必要はある。さすがにコレは勝手には変更できないわ。許可されると思うけどね。


「そうなのか。ククク、どうやら思い描いていた、魔法少女ジェミニ・キャスターができそうだな」


――――出来るわよ。でもナナが死ぬことを前提としたナナシ作戦…… かりんちゃんは随分ナナに懐いていたけど、ナナが死んだら悲しむんじゃないかしら?


「ぐっ、それは…… 出来るだけかりんちゃんには影響が出ないようにするし、フォローもするつもりだ。ナナを生存させると、俺がいつまでも魔法庁に就職できないからな。元々いなかった人物が消えて元に戻るだけだ。エインセルも偽装は続けたく無いだろ?」


――――そうだけどね。まあいいわ。フォローをキチンとするつもりなら。あとは成るように成るだけよ。それで訓練と試験の場所だけど……


「そいつは考えている。魔法庁関東総本部より西へ行こうと考えている。あそこなら監視は手薄のはずだ」


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