第40話 上級アイテムの生成
次はゴーレムたちが持ってきた鉄鉱石の製錬を始めることにした。
といっても、製錬作業なんて詳しいことはさっぱり分からないんだけど。
「製錬ならここにいるミニゴーレムたちに任せるといい」
ドレアムが精練場の様子を見渡しながら説明を始めた。
「まずはあそこの製錬炉で鉄鉱石を溶かす。その後で精練炉に移して不純物を取り除く。そうやって純度の高い鉄を作り出していくのだ」
「なるほど、よくわからないけど炉で鉄鉱石を溶かして、それをさらに燃やして純度を上げるってことですか?」
「まあそんな感じだな」
「なんで製錬と精錬って同じ言葉なの……わかりにくい……」
メリアが文句を言っている。
でもその気持ちは俺もよくわかる。自分でも言っててたまに混乱しそうになるし。
そんなことを言っている間にも、炉の前ではミニゴーレムたちが黙々と作業を続けている。
「純度を上げるための精練を行う火は、ダンジョンの魔力を使って付けているのだ。今までは儂の力を使っていたが……」
ドレアムの言葉が終わらないうちに、レプラコーンたちが精練炉に火を灯し始めた。
それは真っ赤な美しい色の火で、なんというか、荒々しい火というより、芸術品のようにさえ感じられた。
炎も透き通っているようにさえ見えるほどだ。
「アタシの魔法の火とも違う色だね」
「僕が使う魔法とも違うよ」
「当たり前だ。精練の火は普通の火とは違うのだからな。鉱石から不純物を取り除き、純度を高めるための特別な火だぞ」
ドレアムは腕を組んで続ける。
「坊主のコアに登録されたことで、土妖精どもはお前の魔力も使えるようになった。あの火は、不純物のない魔力のみで灯された土妖精特有の魔法の火なのだ」
説明を聞いている間にも、鉄鉱石が真っ赤に溶けていく。
ドロドロに溶けた鉄は、見ているだけで皮膚が焼けそうな熱さだ。
ゴーレムたちが製錬炉の釜を持ち上げ、不純物を取り除く精練炉へと流し込んでいく。
めちゃくちゃ熱そうだし、めちゃくちゃ重そうだ。人の手でやる作業じゃなさそうだな。
炉に火が灯ったことで室内の気温もどんどん上がっていく。煙は部屋の天井に造られた穴から外に出ていくおかげで煙ることはなかったけど、熱までは流石に無理みたいだ。
とても立っていられる温度ではなくなったので、俺は水魔法と風魔法を利用して空気の膜を張った。
膜の内側は適温にしたおかげで自分とメリアは涼しかったけど、ドレアムは何の対策もせずに平然としている。
「儂らは毎日鍛冶をしているのだ。この程度で熱さなど感じんよ」
豪快に笑うと、ドレアムはドロドロに溶けた鉄の中に自分の指を突っ込んだ。
「ええ!?」
「うわー熱いー!」
俺とメリアが同時に悲鳴を上げる。
でもドレアムは平然とした様子で、溶鉄の状態を確認していた。
「ふむ。温度も悪くない。この分ならいい鉄ができるだろう。やはり小僧の魔力だといい影響が出るようだな」
「あ、熱くないの?」
「さすがに少し熱いがな。すぐに離せば火傷するほどではない」
「火傷なんかじゃ絶対済まないと思うけど……ドワーフって頑丈なんだなあ……」
「アタシだったら絶対無理……」
軽くドン引きする俺とメリアだったけど、とにかく鉄の状態は問題ないみたいだった。
精錬した鉄を型に流し込み、長方形のインゴットに成形する。
これが冷えて固まったものをドレアムの工房に送るようだ。
これで定期的にドレアムのもとへ送る体制が整った。
よし、じゃあそろそろ次は上級アイテム生成を試してみよう。
さっそく出来立てのインゴットを使って、鉄の剣を作ることにした。
魔導書を広げ、丁寧に魔力を込めていく。
もちろんただの鉄の剣じゃない。魔力によってエンチャントが施された特殊な剣だ。
やがて完成した剣は、刀身が淡い輝きを放っていた。
「よし上手くいったみたいだ。耐久力も切れ味も上がってるはず」
まあ、それでもただの鉄の剣だけど。
ドレアムが黙って剣を手に取った。その表情には何か言いたげな色が浮かんでいる。
「どうしたんですか?」
ハッとしたように振り返ったドレアムは、慌てて取り繕った。
そして近くにあった鉄のインゴットに向かって、その剣を振り下ろす。
シュン、という音とともに、まるで紙を切るように鉄の塊が切り裂かれた。
その断面は鏡のように滑らかだ。
「うわっ、ドレアムって剣の腕もすごいんだね!」
メリアが目を輝かせる。
「……ふん。まあな」
ドレアムは胸を反らす。
「儂様は鍛冶の腕が高く、さらに剣を持って戦うこともできる。なぜなら儂様だからだ」
相変わらずの偉そうな態度に、思わず苦笑してしまう。
「だがこれは剣の腕だけでは出来ん。得物も相応の業物でなければな。これはまあまあの剣のようだ」
鏡のような断面を調べながら、ニヤリとした笑みを浮かべる。
「もちろん儂様のほうがもっとすごい剣を作れるがな」
「また始まった」とメリアが小さく笑みを浮かべ、俺たちは思わず苦笑を浮かべあった。だんだんドレアムの性格もわかってきたな。
よし、次は上級武器に挑戦してみよう。
でも魔法書をみと、必要な素材を用意するのが難しそうだった。
ミスリルやオリハルコンなんて俺は持ってないし、さすがのドレアムも持っていないらしい。
「コア、この周辺に特別な鉱石はある?」
『探知範囲内をスキャンします』
しばらくして、コアが答えを返してきた。
『特別な鉱脈は確認できません。通常の鉄鉱石以外の反応はありません』
うーん、さすがにそう都合よく見つからないか。
でもそういえば、鉱石の場所はサーチできるって言ってたっけ。
コアの探索範囲には限りがあるから、それより遠くまで調べれば何かあるかもしれない。
さっそく試してみよう。
魔力を周囲に広げ、できる限り遠くまで意識を伸ばしていく。
しばらくしてあまり感じたことのない反応を感じた。
「うーん、だいぶ下の方に、普通とは違うものがあるような気がする」
「……ちょっと待て坊主。儂様がまだ教えてもいない鉱石サーチの魔法を使ったのか? どうやった?」
「鉱石サーチの魔法はわからないけど、魔力を広げて周囲の状況を確認しただけだよ」
「……ふん。簡単にいいおって」
ドレアムは不機嫌そうに髭をいじった。
見つけた鉱石はかなり深い場所にあったけど、場所さえわかれば掘るのは難しくない。
ワープゲートを開いて近くまで移動し、そこから掘り進めればいいんだからね。
普通に掘り進めていけば数年はかかるような距離でもこうすれば簡単だ。
「やはり空間魔法は便利だな。儂様も欲しくなってきたぞ。早く魔導書をみる日が楽しみだ」
ドレアムが唸る中、調査を進めていくと、その鉱石は魔力を帯びた銀の鉱床だと判明した。
岩壁から放たれる淡い光は、普通の銀とは明らかに違う。鉱脈全体が魔力に満ちているのが肌で感じ取れるほどだ。
「よし、掘ってみよう」
ゴーレムがツルハシを振り上げ、渾身の一撃を放つ。
しかし岩肌に当たった瞬間、鉄のツルハシがまるでガラスのように砕け散った。
「はっはっは! 魔法銀というのはそう簡単には掘れんのだ」
ドレアムが声高に笑う。
「やはりまだまだ小僧だな。まずは採掘具に特殊な加工が必要なのだ。ドワーフの技術なしでは一生掘れんぞ」
確かにただの道具では歯が立たないのは明らかだった。
でも、方法がないわけじゃない。
「強化魔法をかければいいんじゃないかな」
「何?」
身体強化の魔法を応用すれば、ツルハシの強化も可能なはず。対象が自分の体じゃなくて鉄の武器になるだけだからね。
魔力の流れを慎重に見極めながら、ツルハシに意識を集中する。素材による性質の違いを把握し、少しずつ魔力を流し込んでいった。
そして魔法をかけた瞬間。
ドーン!
ツルハシが派手に爆発した。
「壊れたちゃったね」
「……やっぱりそう上手くいかないかあ」
まあ最初だしね。
いきなり上手くいくわけない。
幸い材料だけならここにはいくらでもある。
上手くいくまで繰り返せばいいだけだ。
新しいツルハシを作り、強化魔法をかける。
最初は体の強化と同じように魔力を込めてみたけど、また爆発した。
次は魔力の流し方を変えてみる。でもやっぱり爆発した。
だけど何度も何度も試しているうちに、少しずつ原因が見えてきた。
強化に使う魔力が強すぎるんだ。
体への強化ならこの程度の魔力でも問題ない。
でも鉄のツルハシはそこまでの魔力に耐えられないんだ。
だから耐えきれずに爆発していた。
魔力を弱めに込めてみる。
すると、ツルハシが爆発することなく、かすかな輝きを帯び始めた。
「バカな……。この短時間でもう武器強化の魔法をモノにしたというのか……?」
「よし、これを使ってみて」
強化したツルハシを受け取ったゴーレムが、再び魔法銀に挑む。
振り下ろしたツルハシの先端が、今度は鉱石にしっかりと食い込んでいった。
どうやら魔法銀は単に固いだけじゃなくて、魔力によって保護されていたみたいだ。
魔力で強化したツルハシは、その魔力の膜を壊せるようになったんだろう。
ゴーレムが掘り出した鉱石を手に取り、ドレアムは苦々しいような、それでいて満足気なようにも見える表情を浮かべた。
「これはかなり状態のいい魔法銀だ。不純物も少ない。これがあれば、かなり強力な装備やアイテムが作れるだろう」
鉱石の状態は俺には全く見分けがつかないけど、あの気難しいドレアムがここまで言うんだ。きっと相当いいものに違いない。
徐々にだけどアイテムを作る環境が整ってきた。
ゴーレムたちの採掘も順調に進んでいる。
ゴブリンたちと協力して木材を調達し、土妖精たちと共に精練作業を行う。そしてドレアムから新しい技術も学べる。
この調子でダンジョンをさらに拡大していけそうだ。
少しずつだけど、理想のダンジョンに近づいている気がした。
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最強社畜のハイエルフ転生~生まれ変わったらダンジョンの管理人になったので今度こそ理想のゲームを作ります ねこ鍋@最強エルフ転生 @nekonnabe
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