第39話 鉱山用作業ゴーレムの作り方

「さっそく借りた魔導書を使ってみようかな」


ゴーレム生成の魔導書を広げ、作業用ゴーレムの作り方を確認する。

前に作った基本的なゴーレムと原理は同じだ。うん、これなら簡単にできそうだ。


素材となる土と石はそこらじゅうにいくらでもある。手のひらに魔力を集中させ、イメージを形作っていく。

でも以前に作ったゴーレムとは細部が違うみたいだ。

関節の強度をより高めたり、作業用の手足の構造を最適化したりするようになっている。


とりあえず10体作ってみようか。

さらに魔力を込めると、地面から土と石が浮かび上がり、次々と人の形を作っていく。

腕や脚の関節部分には特に念入りに魔力を流し込む。重いものを持つと関節が壊れやすいからね。


「……よし、できた」


整然と並んだ10体のゴーレムが完成する。

それを見たドレアムが少し目を見開いた。


「もうできたのか?」

「そうだけど……遅かったかな?」

「作業用のゴーレムは普通のゴーレムとは違う。儂様でも1体作るのに3日はかかるのだぞ。並の術師なら7日はかかるだろう。それを一瞬で、10体も同時とは……。ふん、さすがはハイエルフの子供ということか。魔力量が桁違いだな」


ドレアムは髭を撫でながら続ける。


「それに魔導書に目を通しただけで内容を理解するとは。普通は魔導書を読み込み、理解するだけでもそれなりの期間を要するものなのだがな」

「前に一度ゴーレムは作ったことがあったからね。基本は変わらないから、そこまで難しくはなかったよ」

「……それができるのは、ゴーレム生成魔法の基礎を理解している者だけだ。魔導書に書かれている内容を真似するだけの術師ならいくらでもいるが、基礎を理解して織る術師など何人いることか……」

「レイは魔法が大好きだから、いつも魔法の研究をするか、魔導書を読んでいるもんね」


メリアがなぜか自分のことのように自慢げに言う。

ドレアムが偉そうに鼻を鳴らした。


「ハイエルフなど高慢ちきばかりと思っていたが……なかなか見所がある小僧のようだな」

「ええと、ありがとうございます」

「ふん。褒めたのではない。当然のことだからな。その当然をやってない方が愚かなだけだ」

「あ、でも、一つわからないところがあったんです」

「ほう、なんだ」

「ここに、ゴーレムに魔法を使わせる方法が書かれていたんだけど、これの意味がわからなくて……」


魔導書に書かれた見慣れない文字をドレアムに見せる。

彼はすぐにわかったようだった。


「ああ。魔石だなそれは」


魔石というのは、目に見えない魔力が固まって物質化したもの魔石らしい。たまに鉱山から採れることもあるという。

とはいえドレアムでも今は守っていないらしい。かなりレアな素材のようだ。


「今は手元にないが、見つかったら一つ譲ってやろう」

「いいんですか? 貴重な物なのにありがとうございます」

「ここの坑道を掘るために使うのだから、儂様のためでもある。それでより良い鉱石を掘ってくれるのなら、儂様にとっても利益になるからな」


それにしても、魔法を使えるゴーレムか。

どんな魔法を覚えさせようか想像が膨らむな。


「鉱石サーチの魔法とか使えたら便利そうですね」

「ほう、良い考えだな。腕力を上げて採掘力を上げる方法も悪くない」

「移動速度を上げる強化魔法とかもいいですね」

「なるほど。それなら複数の魔法を組み合わせてもいいかもしれんな」


ドレアムと話し合っていると、新しいアイデアがどんどん浮かんでくる。

これはますます楽しみになってきた。



空間魔法でコアルームに戻ると、さっそくダンジョンコアで坑道のマッピングを始めた。

モニターに坑道のマップが表示されていく。その中の一点をドレアムが指さした。


「ここを見ろ」


ドレアムは鉱夫特有の荒れた指で、地図の一点を示した。

その目は長年の経験から培われた確信に満ちている。


「この辺りに良質な鉄鉱石の鉱脈がある。この層に沿って掘り進めれば、効率よく採掘できるだろう。特にこの赤く示した部分は、上質な鉱石が眠っているはずだ」


モニターの地図を見つめるドレアムの表情には、ただ偉そうなだけではない、鉱脈を見抜く職人としての誇りが垣間見えた。

俺はさっそく、その部分に印をつけていく。


「なるほど。じゃあまずはその方向に向かわせましょう」


アイテム生成魔法でツルハシを作り、ゴーレムたちに装備させる。

10体作ったうち、8体を採掘チームに、残り2体を運搬担当に振り分けた。

コアを通じて作業内容を指示すると、ゴーレムたちが整然と並んで進み始めた。


やがて採掘チームのゴーレムが指定した場所に辿り着き、掘削を開始した。

巨大な体で振るうツルハシが、岩盤を力強く砕いていく。

響き渡る金属音と共に坑道が少しずつ広がっていく様子は圧巻だった。


「なかなかいい動きをするようだな。だが、これだけでは足りないぞ」


ドレアムがにやりと笑う。


「落盤対策も必要だ。見ろ、ここの坑道がどう補強されているか」


確かに坑道の壁や天井は、木の枠で一定間隔に補強されている。


「補強用の木材はあるか?」

「それならゴブリンの居住区に森があったはず。あそこのならすぐに持ってこれるんじゃないかな」


さっそくモニターをつないで、ゴブリンの長老に話をする。

説明をするとすぐに快諾してくれた。


「我らの居住区には豊富な森林がございます。すぐにでも伐採して運び込みましょう」

「ありがとう、助かるよ」


しばらくして、ゴブリンたちが伐採した木を運んできた。

それをアイテム生成魔法で補強作業用の木材に加工する。

加工したものは、ドレアムの坑道にある資材置き場に保管することにした。

ここに材料さえあれば、あとはドレアムのミニゴーレムたちがひとりでに持っていって、必要な場所に補強作業してくれるという。


実際に見ていると、小さなゴーレムたちが器用に木材を運び、坑道の壁に骨組みを組んでいった。

その手際の良さに感心する。


「そうか。他にもゴブリンたちにできる作業があるかもしれないな」


坑道での作業は力仕事だし危険でもあるから、ゴーレムたちが適任だ。

統合したダンジョンコアのおかげで、ゴーレムや土妖精たちも俺のコアで管理できるようになっている。

でもゴブリンたちにも、ダンジョンを巡回する以外にも手伝ってもらえることがありそうな気がする。


自動化できる作業はまだまだありそうだ。

あとでじっくり考えてみよう。様々な種族の得意分野を活かせば、もっと効率的な運営ができるはずだ。




鉱石掘りの工程が整ったので、次は精練場にやってきた。


ダンジョンの中央に作られた精練場は、広々とした空間になっていて、どの坑道からでもアクセスしやすい位置にある。

その中ではドレアムの作業用ミニゴーレムや土妖精たちが黙々と鉱石を溶かし、鉄に加工していた。

ドレアムがいなくても自動で作業が進んでいく。


ただ、ドレアムのミニゴーレムたちの大きさには驚いた。小柄なドワーフの半分ほど、せいぜい1メートル弱くらいしかない。

小さな体で一生懸命に鉱石を運ぶ姿は愛らしいけど、いつも偉そうにしているドレアムらしくない気がする。

ドレアムなら大きければ大きいほどいいとか言いそうだなと思っていたら、彼は少し気まずそうな表情を浮かべた。


「大きなゴーレムを作るには、大きな魔力が必要になる。ドワーフは体が頑丈な種族でな、エルフのように魔力に優れているわけではない。それでも、ドワーフの中では儂の作るゴーレムが一番大きいのだがな」


ドレアムは認めたがらなかったけど、どうやら魔力量では俺の方が上らしい。

まあ、エルフの中でも王族のハイエルフだから当然かもしれない。

その代わり、ドレアムは一人でも鉱山が掘れそうながっしりとした体つきをしている。強化魔法で補っている俺とは大違いだ。

それこそが種族の違いというやつなんだろう。


炉の前で忙しそうに動き回る妖精たちを見ながら、気になっていたことを聞いてみた。


「ゴーレムは自分で作れるけど、土妖精はどうしたの? 召喚したとか?」

「土妖精はドワーフとは友好的な種族でな。契約したのだよ。まあ、儂だからスムーズに契約できたのだがな」


ドレアムは得意げに髭をなでる。

妖精たちは黙々と精錬用の炉に薪を入れ、火を整えていた。


「他の妖精どもと違って無駄なおしゃべりをしないところがいいな。代わりに良質な土を与える契約だ。土妖精どもは土に含まれる魔力を食糧にしてるからな」

「この妖精たちはレプラコーンって呼ぶこともあるよね」

「ほう、坊主は物知りだな。鍛冶妖精というやつだ」

「さすがレイはいつもいろんな本を読んでるもんね」


精練場では、鉱石の精錬と同時に土妖精たちのための良質な土も生み出されているようだった。

一石二鳥の仕組みになってるみたいだった。

こういってはなんだけど、ドレアムはもっと大雑把な性格かと思っていたけど、こうしてみると坑道内の設備はどれも効率的に配置されていた。

色々と参考にできることは多そうだ。


感心していると、運搬用ゴーレムが掘り出したばかりの鉄鉱石を運んできた。

指定の場所に鉱石を置くと、また坑道へと戻っていく。

自分が作ったゴーレムが、ちゃんと指示通りに動いているのを見るのは不思議な気持ちだ。

まるで子供の成長を見ているような、そんな温かい気持ちになる。がっしりした体つきのゴーレムなのに、なんだか愛らしくも感じてきたな。

持ち込まれた鉱石をドレアムが手に取って確認する。


「ふむ、状態は悪くないな。あとは精錬か」

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