12/25 クリスマス
『
中央には鎮座するのは、真っ赤なリボンがいくつも飾られた大きなモミの木と、モミの木を守護するモミの木の三分の一ほどの大きな精悍な雪だるま。
モミの木を囲うように置かれているのは、様々な色や形の箱や布にラッピングされたクリスマスプレゼントと
柑橘系とベリー系の果物がふんだんに使われたフルーツタルト。
ビターチョコレートと赤ワインが使われ、真ん中に丸々一個の栗がいくつも並べられた、ブッシュ・ド・ノエル。
層になったパスタ、チーズ、牛肉、トマトを重ねて焼き上げた、ラザニア。
グリンピース、エビ、アサリ、イカと米を炊き込んだ、パエリア。
N字型に結んだ形状の柔らかい触感と塩味が特徴のパン、ブレツェル。
揚げたタラとポテトチップスの組み合わせのフィッシュアンドチップス。
ソーセージ、ざく切りしたキャベツ、ジャガイモ、タマネギ、ブロッコリーを煮込んだ、ポトフ。
赤、黄、緑、紫、青と、
粉雪の精霊と火の精霊たちが協力して放つ、ほのかなれど広範囲を照らす光が、クリスマスパーティーの飾りつけや食事や吟華たち五人を温かく、優しく彩らせる。
「
「「「かんぱーい!!!」」」
「よし。ではでは。俺は『
野良同様に人化していた翠は、乾杯酒である『和干菓子国』から持って来ていた松酒を一気に飲み干しては、常より増してだらしない笑みを浮かべながら、頼りない足取りで、料理が並べられているテーブルへと近づいて料理を盛沢皿に盛ってのち、
「ぎんふぁさま~。ふまいですう~」
「よかった。いっぱい食べてね」
キッチンに立った翠が料理で両頬を思いっきり膨らませながら、両腕を高く上げて大きく振りながら言った。
吟華は微笑んで言った。
「はい~~~」
「すまぬ。吟華。始まって早々にはしゃいでしまった」
「ううん。クリスマスパーティーだよ。いっぱいはしゃいでほしいよ」
「そうか。わかった。では、翠。柳青。言葉に甘えて、存分にはしゃぐがよい。伶。世話をかける」
「「はい!」」
「いいえ、とんでもない事です」
「野良さんも存分にはしゃいでほしいな~」
「我はよい。吟華。では、お互いの国で起こった出来事を一月から順に報告し合おうぞ」
「え゛!? っと。あの~。仕事の話は後日でいいんじゃないかな~~~」
「何を言う。今日は仕事も兼ねて来たのだ。無論、料理は頂く。本当に吟華は料理が上手いな。彩り豊かで我も心が躍る」
「すいふぁま~~~。おれのちらしずしもたのしみにしていてくりゃさ~~~い」
「よほどこのクリスマスパーティーを気に入ったらしい。あのようにはしゃいでおる翠を初めて見た。吟華。改めて礼を言う」
「うん。楽しんでくれるのはすごく嬉しいよ。嬉しいけど。野良さんも………うん。そうだね。報告は料理を食べながらでいいかな? 翠さんの食べっぷりを見てたら、私もすごくお腹空いてきちゃった」
「ああ。すまぬ。配慮が足りなんだ。では、食べながら報告を交わそう。柳青、伶。すまぬが、翠が何かをやらかさぬか、注意してくれると助かる」
「「はい」」
「伶さん。ごめんね」
「いいえ。野良殿と存分に語り合ってください」
「すみませんねえ。うちの野良様、仕事中毒者でえ。吟華様。野良様との仲を進展させようとこのクリスマスパーティーを開いたんでしょうに」
料理を皿に盛って柳青と共にキッチンへとやって来た伶へと、翠はニヤニヤと笑いながら言った。
「翠殿は野良殿に恋慕の情を抱いてはないのですか?」
「いいええ~。そんな畏れ多い感情を抱きやしやせんよ。俺は、野良様をほんっっっの少し支えられたらいいな~~~くらいの、微助力な緑鬼で十二分です。まあ。俺よりよっぽど頼りになる仲間も加わった事ですし。本当は怠惰に拍車をかけたい処ですが、どうにもそうにもいかないみたいなので。野良様と柳青の目を盗んでは、さぼろうと思っていやす」
「堂々と言う事ですか?」
「………」
呆れる伶から黙々と小さくラザニアを食べ続ける柳青を見下げた翠。緊張してるんだな~と思っては、ちらし寿司も鶏の柚子山賊焼きもすまし汁も完成したので、三人で遊びやしょうと言った。
「俺が作ったちらし寿司をはじめ豪華絢爛な料理を嗜みながら、遊びやしょう」
パチリとウインクをした翠から柳青を一瞥した伶。フルプレートアーマーの口の部分を大きく開けて、三角形に切り取っていたフルーツタルトを一口で平らげたのち、おもてなしすべき客人とはいえ手心は加えませんよと言った。
「ふっふっふっ。俺と柳青ののらくらタッグをご賞味あれですぜ~」
「………が、んばり、ます」
「ふふふ。腕が鳴りますよ」
吟華と報告を交わし合っていた野良は、翠と伶と柳青のやり取りを見ては、微笑を浮かべたのであった。
(………まあ。いっかあ。仕事の話でも、野良さんが楽しんでくれれば、)
〈って、思ってるんでしょう? だめですぜ。吟華様〉
「???」
不意に翠の声が聞こえた吟華は首を傾げた。
翠は離れた処で、ノリノリで伶と柳青と一緒にしりとりと積み木崩しゲームをしていたのだから。
〈もしかして、念話かな?〉
〈へい。お節介を承知で言わせて下せえ。好きだって直球で言わないと、野良様は吟華様の恋心に気付きやせんぜ〉
〈うん。そうだね。でも、いいかなあって。こうして、仕事の話をできるだけで、私の作った料理を褒めてもらえるだけで十二分〉
〈自分を偽っちゃあいけやせんぜえ、吟華様。頑張って言って下せえ。今日を逃せばもう、機会は訪れやせんよ。なんせ、次の守護の任に就く十一年の間、野良様は修行に籠るって言ってやしたから。誰とも面会しない。完全遮断ですぜ〉
〈十一年なんて、私たちからしたら短いから平気だよ〉
〈吟華様。知りやせんよ。次に野良様に会った時、ライバルが野良様の横に立っているかもしれやせんよ〉
〈………宣戦布告かい?〉
〈へえ。柳青に代わって宣戦布告しておきやす。若者の、しかも、柳青の成長は恐ろしいですよ。あっっっという間に、俺を追い越して、吟華様も追い越しやすぜ〉
〈………〉
〈俺のお節介はここまでにしておきやす。そろそろ積み木崩しに集中しないとヤバそうなんで。へい〉
「吟華」
「あ。うん。えっと、次は六月だね。そうそう」
「いや。これを。先に土産は渡していたが。これは貴様だけに我からの土産だ」
「え?」
「松の形をした松脂ろうそくだ。伝統的な形をしたものは先に渡しておいたが、これは我の手作りだ。いつも我を気にかけてくれて感謝をする。貴様のおかげで我は常に背筋を伸ばしていられるのだ」
「………」
「泣き言を溢しながらも、貴様は必死に任務を務めておる。必死ゆえに時々力の抜き方が分からぬ事もあろう。伶が居るゆえ心配はしていないが、これは疲労回復に効くので使うとよい」
「………野良さん。器用過ぎだよ。もったいなくて、使えない」
「莫迦者。いくらでも作るゆえ、使うがよい」
吟華は野良から貰った松脂ろうそくを凝視した。
精巧に作られ過ぎて、小さくなった本物の松にしか見えなかった。
(本当に、野良さんは。すごい。私なんか、足元にも及ばない。だけど、)
涙目になった吟華は真っ直ぐに野良を見つめては、やおら口を開いた。
「野良さん。私は、そなたが好きです」
ガランガッシャンガラララララ。
積み木が盛大に崩れ倒れる音がしたのであった。
「ぼく、緊張して伶さんと話せませんでした。ゲームをしながら、たくさん『洋仁紫国』について話してくれたのに」
「また会う機会があるからその時に話せばいいさ。ねえ。野良様」
「ああ」
「ぼく、いっぱい勉強して伶さんに『和干菓子国』の事を話します」
「おう。その意気だ。ねえ、野良様」
「ああ」
「野良様。クリスマスパーティー楽しかったですねえ。来年は『和干菓子国』でやりやせんか? って。ああ。できやせんか。野良様は修行で山に籠るんですもんねええ」
「ああ。ゆえに、山に籠る前の花見に誘う」
「おもてなしをいっぱいしやしょうね」
「ああ」
「花見。あと三か月ですか?時間が足りません。早く『和干菓子国』に戻って勉強しないといけません」
「まあまあ。今日はゆっくり眠るのが仕事ですぜ、柳青」
「でも………はい」
「野良様もその間にゆっくりと。ですね」
「ああ」
「ああ。俺は料理にゲームに腹いっぱいでもう眠いのなんのって。野良様。柳青。一緒に夜寝しやしょう。『和干菓子国』に着いたら、牛車のぎーちゃんが教えてくれやすから」
「はい」
「ああ」
(はは。野良様も柳青も心此処に非ず。ですねえ。いや~~~青春ですねい。まあ、俺もしっかり者の二人のおかげで青春真っ盛りですけどねい)
『洋仁紫国』のクリスマスパーティー会場にて。
「吟華殿。今日は、いえ。明日まで付き合いますよ。松酒と金柑唐辛子を嗜みましょう」
「うん」
料理もプレゼントもきれいさっぱりなくなったここは、野良たちから土産に貰った伝統的な形の松脂ろうそくの灯火によって厳かに照らされていた。
「伶さん。野良さんに告白したよ」
「はい」
「来年の三月。花見までに返事をするって」
「はい」
「………私。どうしよう。もう。感極まっちゃって。身体が大きく膨らんで破裂しそう」
「止めてください」
リンリンリンリン。
仕事を終えたサンタクロースとトナカイの帰還する鈴の音が華やかに響いたのであった。
メリークリスマス。
(2024.12.25)
りゅうりゅうりゅうアドベントカレンダー2024 藤泉都理 @fujitori
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