第42話 休息(1)

 朝になった。

 窓を開けて朝の空気を取り入れ、明るい日差しを浴びると、部屋の雰囲気は良くなった。

「おはよう」

「おはようございます、ルミナ」

 リフィトリアの表情も軽くなったようだ。

 その後は食堂で朝食を取りながら、今後の予定を練った。

「これからどうする? ダスラはまだまだ見られるところが多いけど、他の遺跡に行ってもいいし、戦利品の確認をするのもアリかな。ゆっくり見る時間なかったし」

 あんなことがあった後で、また地下水路に潜るのは中々辛いだろう。

 とはいえ、金貨五百枚も払って手に入れた情報と手段をあの一件だけで捨てるのはトレジャーハンターとしては惜しく感じる。

「そうですね、私は――」

 リフィトリアは食事の手を止めて考えるようにした後、言った。

「少し休みたいですね」

 なんとなく疲れた笑みを見せたリフィトリア。ダスラでの潜水のため、準備から数えるとかなり長いこと頑張ってきた。今必要なのは休息かもしれない。

「そうだね、それもいい。トレジャーハンターって大当たりを引いた後は、大体遊び呆けて散財するんだよ。馬鹿みたいな宴会したり、無茶な賭け事したりね。まあ、落ち着いてから後悔したりするんだけどさ」

 刹那的に、享楽的に、そして命懸けで生きるのがトレジャーハンターたちだ。

「賭け事ですか、面白そうですね。ルミナもそういう遊びを?」

「まあ、何度かね。主にやりたがったのはメイベルとライラだったけど」

「では、私にも教えてくださいな」

「いいけど、わたし別に上手じゃないよ」

「安心してください。負けても破産することは無いと思いますから」

「ははは……」

 随分とスリルのなさそうなギャンブルになりそうだが、息抜きにはいいだろう。

「じゃあ、しばらく休もう。どうせならバロウズに行こうか。あそこが一番豪華だし」

 景気づけをするのに、ダスラのような場末の賭場は似合わない。

 支度を整え、二人はバロウズへ向けて出発した。



 再びの馬車旅を経て、その日の日没頃にバロウズへ到着した。

 きらびやかな街。もう夜へ向かう時刻だが、まだ多くの人が出歩いている。


 部屋荷物を置いた後、ルミナたちは賭場へと向かった。

 射幸心を煽る鮮烈な赤の絨毯、強烈かつ過剰な照明。夜を跳ね返すような、大人たちの遊び場。

「リーフはこういうところには来たことないんだよね」

「あまり興味がありませんでしたから。学院の同級生にはそういう遊びをしていた人もいましたけれど、私は全く。ですから、案内はルミナにお任せしますね」

「まあ、お金持ちの方が興味ないのも当然か」

 周りを見るとよく分かる。

 一目見て社会的に上流階級にいると明らかな人たちは遊び方も落ち着いていて、立ち振舞に品がある。

 一方で、興奮して歓喜の大声を上げたり、逆に膝をつくほど落胆したりと感情表現の豊かな層の中には、服装をみるだけで同業者と分かるような人もいる。

 リフィトリアとルミナの組み合わせは、極めて奇異な存在だった。

「あれはルーレットですね」

 リフィトリアは台の一つを指差した。

「やってみましょう。お金はどうしたらいいのですか?」

 ルミナの案内で、リフィトリアは金貨をチップに換え、ゲームに挑んだ。

「ちょっと、それどんだけ換えてきたの……?」

「金貨五十枚分です」

 そう返事をしながら、金貨五十枚分のチップを一つの番号に全賭けした。

 ルーレットが回り、玉が投入される。ルミナが何か言うまもなく賭けが締め切られ、そして当然のようにリフィトリアの予想は外れた。

「あら」

 チップが根こそぎ回収され、リフィトリアがルミナの方を振り返った。

「これでおしまいですか?」

「……そう。今ので金貨五十枚なくなった」

「あははっ、なんとも呆気なかったですね」

「笑い事じゃないけど」

 現役時代であれば発狂ものの事態だが、リフィトリアと一緒にいると驚くこともない。ただ、ため息が出ただけだった。

「トレジャーハンターの楽しみ方じゃないね」

「皆さんはどう遊ぶのですか?」

「探索の儲けを丸ごと突っ込んで、増えるか無くなるかでひりつきながら遊ぶ」

「ルミナさんもそんなことを?」

「いや、メイベルとライラが……そんでわたしが呆れて、ファランが怒るの」

 リフィトリアはクスクスと笑った。

「それは面白そうですね」

「今だからそう思えるけどね。当時はホント大変だったよ」

 その日の宿代まですっかり失ったときは、さすがのライラも反省していた。当時は呆れ返って言葉もなかったが、今では大切な思い出の一つだ。

「同じ楽しみ方はできそうにないですね」

「わたしたちの目的は息抜きだし、これでいいよ」

 その後もリフィトリアの興味が向くまま、いくつかのゲームに挑んでは、勝ったり負けたりした。トータルでは大損していたが、これでいいだろう。

 お金で解決できることはリフィトリアに任せる、そうでないことはルミナの出番。これが今の方針なのだ。

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2025年1月11日 07:21
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親の七光り冒険記 加藤 航 @kato_ko01

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