第4話 もう一人の囚われた子
「短時間であれば玲華は出てこない。ならば、すぐに部屋に入れば出てこれない」
幼馴染が出てくる条件をそう仮定するのを口に出しながら、ゆっくりとドアを開ける。目の前の部屋の狙いを定めてから一度部屋に戻り、玲華がやってくる時間のリセットを行う。・・・これでリセットを行えてるかは分からないが、念のためという奴だ。それからドアを勢いよく開けダッシュでドアを開けようとする。が
「ここゲームでお決まりの鍵が無いと開けられない部屋かよ・・・」
そうぼやきながら、踵を返して元の部屋に戻る。時間をかければ玲華がでてくる為だ。走ってこないとは限らないし、何よりあんな状態の幼馴染の姿を見たくないという想いがある。
「なら、もう一つの部屋に挑んでみるか」
目の前がダメなら、斜め前にある部屋のドアを目指す。開くかは分からない。玲華を正面突破する事も考えたが、それは残り二つの部屋も鍵がかかっててダメだった時にしよう。
「ここ・・・よし、開くな!」
鍵がかかった様子が無く、ドアノブを捻る事が出来たので部屋に入る。部屋の内容としては俺が目覚めた部屋と同じ、簡素な作りで客を迎える気のない客室だ。
「・・・そうだ。写真に手鏡」
部屋にいれば良いのか、俺が目覚めた部屋限定で玲華が登場しないかは分からない。だが探索しない事にはこの場所から脱出できない。そう一人気丈に振る舞いながら探索をする。先ほど試したナイトモードでの写真撮影と、手鏡を利用して。
「・・・なんだこりゃ?」
ナイトモードで撮影された写真には、壁に書かれた文字は『鏡を見せるな』だった。・・・見せるな?俺自身の容姿の確認をした時は特に問題無かったが・・・俺じゃないのなら誰に?玲華にか?そう考えながら、鏡越しに部屋を見て回る。だが変化は見られなかった。
「何かに使うかじゃなく、見せるな・・・見たらダメな奴がいる?」
鏡がダメっていうとヴァンパイアだ。アイツは鏡には映らない性質がある。それを指摘されると本性を現し、襲ってくる可能性がある・・・と考えるべきか?先ほどはゲーム脳が吹っ飛んだが、まるでゲームみたいな状態だとゲーム脳で思考するしかない。
「部屋であれば来ないっぽいな・・・」
玲華が来ない事に大きく息を吐き、安堵する。それならとスマホを取り出してメモ帳を起動させ、壁に書かれた文字を記入していく。鏡を見せるなと、目に映るものが真実とは限らないをメモに記入し、保存しておく。忘れはしないだろうが、万が一に備えてだ。
「ここ、Dの部屋と呼称するか」
このスマホ、メモ帳を利用して簡単な地図にしてしまおう。何階かは分からないが、どこにいったか分からなくなるよりはいいだろう。閉まっていた部屋をCに、俺が目覚めた部屋はAと呼称していく。
「あ、また日記だ」
おそらく、玲華の日記だろうなと考える。さっきヒントが書かれてたから、読まないという訳にはいかない。・・・玲華の感情を覗き見る感じがして良い思いはしないが、脱出したいから申し訳なく思いながら拝読する。
『白金君は凄いなーって思う。誰に対しても優しく、そして男らしい見た目で女の子からモテモテだ。だからと言って陰で女の子を食い物にするクズ男って訳じゃなく、一定の距離を保つ誠実さも併せ持つ、理想的な男の子だ。そんな中、私は幼馴染なので他の女の子より距離を詰める事が出来る。幼馴染の特権だ、ブイ。でも、それを面白く思わない女の子もいる。陰で色々言われてるようでげんなりしちゃう。でも白金君の事は異性として好き。だから簡単には諦められないよ』
「・・・記憶が無いが、俺、玲華に何したんだ・・・」
日記はここで終わっている。日記で玲華の好意を明確に知ってしまった。幼馴染であるが、それ以上に異性として好きと、そして諦めないという強い意思を感じられる。だからこう思ってしまう。好意を反転させる程、酷い事をしてしまったのかと。
「もし日記に酷い事をしたのが書かれてて、それの内容次第ではケジメ、つけるか・・・」
そう考えながら、今度はAの横の部屋、Bの部屋と仮定した部屋に向かう。ここもDの部屋と仮定した部屋同様、ドアノブが動くので部屋に入る事が出来た。そして酷く動揺する。俺と玲華以外にも、ここに囚われている見覚えのある女の子がいた。
「白金君?」
「
「白金君もここに?」
「あ、あぁ。そうなんだ」
何故かここに、ピッチリと制服を着た、サラッとした黒い長髪に整った顔立ち、理想的なスレンダー体型な同級生の
「高峰さんはなんでここに?」
「清水さんに追いかけられたからよ」
「追いかけられた?」
「そうなのよ!包丁を振り回しながら私を追い掛け回したのよ!思わずここに隠れてやり過ごせたけど、清水さんの豹変っぷりに怖くてここで隠れてたの」
「・・・?そうか。大変だったんだな」
高峰さんの言葉に違和感がある。俺が目撃した時の玲華は包丁の切っ先を向けてはきたが、振り回して追いかけてくるという事は無かった。ただその現場を見てないし、包丁を持って迫ってきた恐怖で見間違えた可能性は否めない。
「とにかく、玲華を元に戻して、ここから脱出しよう」
「・・・そうね、1人よりは2人の方が視点が増えて良いわね」
「だろう?よろしく頼む」
「ええ、お願いします」
「じゃ、探索しようか」
「清水さんは大丈夫なの?」
「たぶん部屋にいれば大丈夫。それにドアノブを抑え込めば部屋には入ってこれないから。だからこの部屋の探索を頼む」
経験が少ないが、部屋で活動していて侵入は無かった。それに少なくとも俺がドアノブを抑え込めば部屋に侵入される事は無いと思い、安心させる為にそう伝える。それを聞いた高峰さんは探索を開始した。その間の俺はと言うと、ナイトモードの写真撮影の為にスマホと、手鏡で鏡越しでの変化を確認しようと出そうとして・・・手鏡は出すのを止めた。
「これ、もしかして出したらダメか・・・?」
ナイトモードの撮影じゃなくメモ帳を起動させて確認する。『鏡を見せるな』・・・玲華は追いかけてくる関係上、逃げる選択肢しか無いが、この鏡を見せるなは高峰さんにも適用されるのだろうか・・・?なんだろうか、協力者を得たのに、不安を拭えないこの感じ。
不可思議な場所から脱出したい のんびりした緑 @okirakuyomu
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