第3話 道具の活用

パスワード画面を突破し、スマホの中身を確認していく。これが幼馴染のものだと思うと、覗いて良いのか迷う所だろうが、なぜあの凶器を持ってこっちにやってきたのか分からない以上、覗いたって良いだろう。と心の中で免罪符を作っていく。


「おいおい・・・何も無いのかよ」


圏外である為、通信を使ったものが全般的に使えないのは分かってはいたが、まさか何もないとは思わなかった。時計機能も停止しており、異常性があるスマホと言わざるを得ない。写真フォルダの中身も、メモ帳の中身といったものが一切ない。ただ起動するだけの道具。


「・・・いや、そうでもないな。メモ帳といった基本機能はあるな。写真を撮る事も出来る。あとライト機能」


メモやライトはともかく、写真は何に使うのやらとゲーム脳で思考する。・・・そういえば写真撮影で攻撃という変わったものがあったな。印象的だったから覚えてる。あれは確か写真に魂が閉じ込められ、一時的に肉体と魂が切り離されるという魂への攻撃といったエグイものだったような。


「とにかく撮ってみるか」


じっとしていても状況は変わらない。そう思って部屋を撮影する。理由としてはなんらかのギミックが起動したとき、変化した場所が無いか記録しておく為だ。変化前と変化後の比較を行えるようにいくつかのモードに切り替えて撮影していく。


「・・・なんだこりゃ?」


フォルダを確認したらおかしな事が発生していた。それは部屋の様子が目で見るのと写真撮影をした結果の様子が違うからだ。目視でならただの不気味な部屋だが、写真に写った部屋は目の前のベッドが視認出来ないほどに暗闇に覆われており、壁に蛍光塗料で塗られたように文字が書かれている。


「目に映るものが真実とは限らない?」


壁に書かれた文字をそう読み上げた。確かに部屋全体は明るく照らして壁紙や家具をくっきりと視認できる状態ではあるが、写真だと暗闇でそうじゃなかった。これは確かナイトモードで撮ったものだ。


「ナイトモードでの撮影、重要だな」


ナイトモードで写真を撮る。ここではそれを活かして目視では分からない物を見極める必要がある。となれば、手鏡で見るとどうなるのかと思い、鏡越しで部屋を見てみる。しかし


「・・・ただ反転しただけだな」


何かを映し出す訳では無く、ただ鏡に反射して反転した世界を映し出すだけで、目視だと差が現れず何も変化が見られない。普通に撮った写真と比較してもだ。ナイトモードではそもそも周りが映らないから変化が分からない。

鏡は特に関係ないのだろうかと思うが、こういうのは持っておけばいつか使う時が来る。


「この部屋と廊下だけと思いたいけど鏡や窓ガラス、無いもんな」


現状では唯一、自身の姿を映し出す鏡が無くなるのはマズい。何の変哲もない鏡で合っても、使い道が無いわけでは無い。そう思いながら鏡越しに何かが映り込む気配がないか確かめてからポケットに仕舞い、ポンポンと優しく触った。


「現実逃避は止めて、動くしかないよなぁ」


頭では分かったのだが、それはそれとして懸念している事がある。


「また、追いかけられるのかな」


包丁を持った玲華がまた追いかけてくるのか、そう考えると気が滅入ってしまい、ベッドに寝ころび、手で目を覆いながら思考する。そして壁に書かれた文字を反芻する。


「目に映るものが真実とは限らない・・・一度、玲華を写真撮影してみるか?」


力で勝てるのが分かった以上、撮って部屋に即座に逃げ込めば行ける・・・走ってきたり待ち構えてなければ、だが。先ほどは接近する際は歩いていたから、すぐに部屋に逃げ込めた。


「試すか・・・」


そう考えてベッドから降り、ドアノブに手をかけドアをゆっくりと開ける。ギィィと音をたてながら廊下の状況をナイトモードで撮影や手鏡越しで確認しながら、今一度確認する。


「特に変化はないと・・・来たな」


廊下の先から、また足音がする。今度はしっかりと姿を目視で確認し、姿の輪郭がはっきりと把握できるようになった。包丁を持った玲華の姿だ。先ほどと変わらず歩いてきてる。これなら撮影してすぐに逃げ込めるかもしれない。


「玲華!はいチーズ!」


近づいた所でそう叫んだ。思わずといった様子か、玲華はその掛け声に合わせて無表情ながらにピースをして写真撮影のポーズをとった。

その隙を突いてまた部屋に戻って先ほどの様にドアノブを抑え込み、侵入を拒む。


「さて写真はっと・・・え?」


抵抗が無くなった事で撮った写真の確認をするが、そこには笑顔でピースをしている玲華の姿があった。変わらず包丁は持っているが、持っていないもう片方の手でピースをしている。頬は紅潮し、目も優し気な物であり、花で例えるのなら満開に咲いた笑顔と言った感じだ。だが先ほど見た玲華は無表情だったはずだ。


「・・・玲華の身に何かが起きてる?」


目に映るものが真実とは限らない。壁に書かれた文字は玲華の身に何かが起きてるのを示唆しているのだろうか?そう思考しながら、今後の事を考える。


「・・・次、近くにある部屋に入ってみるか」


どういうルールか分からないが特に待ち伏せと言った物が無く、部屋にいる限りは玲華は侵入してこない。ならば、廊下に居続けるのが問題。そう仮定し、次の部屋を目指す。


「・・・やっぱり可愛いよな」


玲華との過ごした記憶が無い。だが、この写真に写った笑顔の玲華の頭を撫でながらそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る