第2話 日記

「なんでだよ・・・なんでなんだ・・・」


ドアにへたり込みながら、現実逃避するように玲華のかつての姿を思い出す。

俺の幼馴染で・・・幼馴染で?


「あれ、変だな。思い出せない」


ゲームに例えるのなら、スチルや記憶のテキスト欄の前面に靄がかかるように、幼馴染以上の事が思い出せない。先ほどまでの無表情は覚えてるが、笑顔がどんなんだったとか、怒った顔、悲しくて泣いてる顔。そう言った表情を思い出せない。


「恐怖のあまりに記憶がぶっ飛んじまったか?」


そう自身に悪態を付きながら、改めて目覚めた部屋の様子を確認していく。


部屋の中央には俺が寝てたベッドに、カーペットが敷かれており、部屋の端にはタンス、椅子やランプといった簡素な家具が置かれている。ここも先ほど廊下の周りを見たように窓ガラスが無くて外の景色が認識できない。

天井のランプからは光が漏れており、そこから部屋全体を照らしているが照明器具の電源を操作するものが無く、まるで光源ではないのに照らしてるかのような不気味な感じがする部屋だ。


「これ客室だったら迎える場所として最低だろ」


こんな場所に招いた存在にそう毒突きながら、一つ一つ調べていく。幼馴染の存在が気になる所だが、安堵できる事がある。それは力で勝てるという点だ。包丁が気になるが防御できるものを用意する事が出来れば、それでガードして逆に組み伏すか逃げるかが可能なはずだ。


「これは・・・日記?」


タンスの中に入っていたノートのページを流し読みしながらペラペラと捲っていると、日付が目に入ったのと、その内容からして日記という事が分かった。ただ誰の日記なのかは分からない


「こういうのってヒントがあったりするんだよな・・・」


ゲーム脳どころじゃないと思いつつも、気持ちを落ち着かせる為に、現実逃避をしたいが為に日記を拝読という逃げる選択肢を選んだ。それに脱出のヒントが書いてある場合、これを見逃してしまうと永久に分からなかったり、罠を踏んだりしてしまう事を考えれば見るしかなかった。


「頼む、ヒントが書いていてくれ」


そう思いながら誰かの日記を最初から拝読した。


『今日、幼少期から一緒に遊んでる白金君と一緒の高校に入学した。

元から男らしかったけど高校に入ってからというものの、白金君はどんどん男らしさに磨きがかかっていく。

王子様系と言えば良いのか、俺様系と言えば良いのか。語彙力を持ち合わせてない私は何と表現すればいいのやら。とにかく男らしくてカッコイイのだ。

そんな彼と幼馴染だなんて誇りに思う。

彼と恋人になれたら良いのにな、なんて思いながらスマホのパスワードを4桁入力してく。パスワードは2129

私と彼の誕生日を合わせた数字。キャー!』


「これ、玲華の日記か・・・」


日記はこれで終わっていた。それはそうと、まさか幼馴染の日記を読むことになるとは・・・しかし、これで見ると俺の事を好意的に見てくれてるのが分かってこんな状況なのに思わず嬉しく感じてしまう。恋人になれたらなんて、あんな可愛い女の子にそう思われてたなんて俺は幸せ者だな。

・・・こんな感情を抱くのも、あんな無表情で迫ってくる幼馴染を否定したいからそう思ってしまうんだろうなと独り寂しく感じる。好意を反転させる程、いや殺意を抱かせる程の卑劣な事をしてしまったのだろうか?幼馴染との過ごした記憶が思い出せないので言い訳が出来ないのも歯がゆく感じる。


「しかし2129か・・・」


謎の解決が先と頭を軽く振り、先ほどのスマホを起動させてパスワード画面で日記に書いてあった4桁の数字を入力していく。そしたら驚くほど簡単にパスワード画面を突破出来た。


「おい玲華。流石にこれ変更しとけ」


今ここにはいない消えたと思われる記憶の玲華に向かってそうぼやいた。


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