不可思議な場所から脱出したい

のんびりした緑

第1話 見知らぬ部屋と包丁を持った幼馴染

ふと目を覚ますと、そこは見慣れた自室では無く見知らぬ部屋だった。


「ここは……どこだ?」


頭痛を覚えた事で手で頭を支え、微睡みながら目を覚ましたのだが、突然の出来事に目をパチクリとさせ一気に覚醒した。ただ思考が追いつかない。本当にここはどこだ?


「えっとあっと……そうだ!周りのものは!?」


逸る気持ちが、自室に置いてあった物が無いか確認する。携帯機やパソコン、衣類やゲームといった私物を探すが、あるのはスマホと手鏡だけだった。しかもこのスマホ、俺のじゃないから起動できてもパスワード画面を突破出来ないから何にも使えない。当然のように圏外で通話とかも期待できない。見覚えはあるんだが、誰のだったか・・・


「ここは何なんだよ……」


私物が無い、自室じゃないと言う突然のホラー展開に気が狂いそうになる。落ち着かせる様に手元にあった手鏡を見て身嗜みの確認や名前を思い出せるか確認する。


「身嗜みは問題無し。服装は何故か制服。俺の名前は白金結城しろがねゆうき。」


よし、こういう時、名前が言えるのは良かった。名前を奪われて言えない思い出せないってのはゲームでもよくある展開だ。ゲーム脳とは思ってしまうが、こんな摩訶不思議な出来事が起きれば普段しない、出来ない思考もしてもおかしくは無いだろう。


「ここから脱出しよう。……出来ればホラー展開は無しにして欲しいが」


トラップが仕掛けられてるんだろうかと他人事の様に考える。……夢だとしたら、こんな事を出来るのは誰かと考える。思いつくとしたら夢魔サキュバスだが、それなら既に襲いかかってると思うから違う。それならナイトメアとかか・・・?


「とにかく部屋から出よう」


ギィィと音をたてながらドアを開けて、廊下に出た。廊下を照らす照明に、ここ以外にも複数の部屋があり、在りきたりの洋館を思わせるような風貌だ。ただ窓ガラスが無く、外の様子が確認できない点を除けば、だが。


「ますます脱出ゲームの舞台な感じがしてきたな……」


そう考えていくと別の逸る気持ちが溢れるのを感じる。脱出ゲームの主人公になったと思えばこの状況、夢だと思いながらでも攻略していけば良い。ならばとゲーム脳をフル稼働させながら、周りの状況を確認する。


「……ん?」


ふと、タン、タンと廊下の先から足音がしており、こちらに近づいてるのかどんどん音が大きくなってきている。誰かが来てる。


「なんだ、清水玲華しみずれいかか」


本来なら警戒して部屋に隠れたりするものだろうが、そうしなかった。出来なかったと言うべきか。

制服を着て校則通りにスカートの丈が長く、柔らかい黒髪で癖毛が特徴的な、素朴に感じる幼馴染である玲華の見慣れた姿だ。夢の中でも幼馴染の姿が出てくるとは、変わった夢だなと笑い飛ばす。


「よ!玲華!お前もこの夢に捕まったか?」


距離2メートルといった所で玲華は止まるので冗談を飛ばした。が、玲華は無言で反応しない。それどころか、近づいた事で分かったが、玲華はまるで人形のように無表情で、手に持ってる物を視認してしまった事で思わず確認した。


「な、なぁ……その包丁……なんだよ……」


俺の問いかけに玲華は応えず、表情を変えず、包丁の切っ先をコチラに向けてきた事で俺は俺自身の浅はかな考えをした事に後悔した。後ずさりに反応するかのように玲華は距離を詰めてくる。


「……おいおい何だってんだ!?」


包丁の切っ先を向けられた事で、距離を詰めてきた事で俺は思わず先程にいた部屋に逃げ込んだ。ドアを閉め、自身の力で抑えこんだ。これで超常的な力を持っていたら呆気なく開けられるというのに、本能的に自分の力で抑え込んだ。


「こ、こう言う時、鬼役って意味不明なくらいに力が強かったりするけど、そうじゃないみたいだな……!」


ただ見た目通りなのかドンドンドンドンって扉を叩く音がし、こじ開けようとドアノブが動くも両手で抑え込み、開けさせるのを阻止する事が出来たからだ。しばらく続いた後、ドアノブにかかる力が弱まり、扉を叩く音が鳴り止んだ。


「なんだってんだ……なんだってんだよ……」


鼓動が聞こえるほどに心臓がバクバクして鳴り止まない。いくら夢とはいえ、先程の一幕で呑気に脱出ゲームと考えていたゲーム脳が一気に吹き飛んだ。


「ゆ、夢だよな……夢と言ってくれ……!」


これは夢だ、夢だから覚める。そう思いながら自身の頬を抓った。だが現実は無情で痛覚があった。痛覚があるという事は、ここは夢ではなく、現実だ。


「包丁を持った、幼馴染の姿をした何かから逃げろっていうのかよ……!?」


ただの脱出ゲームでは無く、ホラー鬼ごっこの脱出ゲームという事実に俺は絶望した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る