第13話 頼むから、負け続けるのだけはやめてくれ。


 兄と姉が戻って来てから一か月後、朝のウォーキングをしていると、兄とオーランドが木剣で訓練をしているのが見えた。

 歩きながら観察していると、完全に兄が優勢でオーランドは手も足も出ないと言った感じだった。


 推測だが、兄は剣術の職業を取っているのではなかろうか。

 それだとまだ職業を取っていないオーランドが勝てるわけもない。


 そんな風景を見た日の夜。さぁ寝ようという時間に、扉がノックされた。

 次いで俺の返答を待つことなく、人影が滑り込んできた。

 すわ襲撃か! と思い結界を自分の周りに張るが、ランプに照らされたのは良く見知った顔だった。

 

 よく考えれば襲撃ならノックはしないか、流石にテンパった。


「どうしたんだオーランド、こんな夜更けに先触れも無く」

「うっ、ごめんなさい、考えてたら寝れなくて……」

「……取り合えず座って」


 少し大きめのソファーにオーランドを座らせて、その隣に腰を下ろす。


 それから暫くの沈黙があり、オーランドがポツリポツリと話し始めた。


 話の初めは、兄が王都から戻ってきたところだった。

 王都の話をせがんだオーランドに、勿論兄は喜んでそれに応えた。

 その中で、偶に近衛に剣の稽古をしてもらったという話を聞き、自分も兄と訓練したいと申し出たらしい。


 うん、実にオーランドらしい展開だ。そして、朝の光景から、何に悩んでいるのかもある程度絞れた。


「俺も剣士の職業を取りたいけど、レベルを上げるには麻雀しないといけない。でも麻雀はよく分かんないから……マクレンド兄さんに教えて貰おうと思って……」

「麻雀の先生に教えを乞うのではダメなのか?」

「今更最初から教えてくれって、なんか恥ずかしいし。オーリスは絶対に嫌だし、ダニエル兄さんに勝ちたいのにダニエル兄さんに教えてもらうのも違うし、だからマクレンド兄さんしかいなくて」

「お姉様は?」

「あんまり話した事ないから、なんか」


 成る程、男の子心で消去法をして行った結果、俺しか残らなかったって事か。

 んー、フィノリナの件で少しだけ慣れたから、麻雀の基礎とか自分で考えないといけないとことかは教えられるけど、問題は……。


「職業を取る事、お父様には言った?」

「言ってない……」

「じゃあ先にお父様に職業取りたい話しをするのと、麻雀してポイント貯めてからお父様に話すの、どっちがいい?」

「うーん……取っていいって言われたのに、麻雀出来なくて取れなかったら嫌だから、麻雀先がいい」

「分かった。じゃあ明日の夕食後においで」

「いいの!」

「取り合えず基礎だけね」

「ありがとうマクレンド兄さん!」


 オーランドはそう言うと直ぐに部屋を出て行った。


「現金なやつだな、あいつ」




 翌日の夕食後、さっそくオーランドがやってきた。

 取り合えず役もうろ覚えだったので、そこから始める事になった。

 

 全自動卓を借りるとオーランドが麻雀の勉強をしているのがばれそうなので、部屋にあった麻雀牌とマットのセットを使う。

 

 先ずは山を積んで、1人分の手配を配る。


「じゃあこの配牌から、どんな役になりそうか、一覧を見ながら探してみて」

「うーん、これかこれ、あとこれ」

「じゃあ折角だから一番高い奴にするか。じゃあ山から牌を引いてそれに近づけてみて」

「うん」


 山を1人で使うので、王牌に和了牌が無ければ役が完成するだろう。


 実際山を1つ消費した時に和了った。

 

 それを何回か繰り返し、次はコッチが指定して役を作ってもらう。

 取り合えず、役を覚えるまではこのミニゲームみたいなのをやるか。


 2日後、今度は今まで和了った役の大体の点数を覚える。

 ミニゲームは同じで、和了った時に何点か質問する。

 勿論点数票を見ながらだ。覚えるのは、もう本人にやってもらうしかない。


 流石にこれだけだと飽きるだろうと思って、2人で手配をトレードしたり、飽きないように工夫してみた。


 それを一週間続けて、なんとか普通に麻雀が出来るようになったので、後は面前重視にするか鳴き重視にするかの大体を決めて、レート戦に放り込んだ。

 麻雀はミスっても運が良ければ勝てるから、先ずは麻雀で勝って楽しい、和了牌が来て嬉しいを覚えさせれば、その後は自然と自ら麻雀を覚えて行くだろう……たぶん!


 初っ端からずっと勝てなかったら、それはそれでテコ入れが必要だけどな!


 


 それから一週間、勝ったり負けたりで、負け続ける事態になっていないようで一安心だ。

 

 今日もオーランドとそしてオーリスが夕食後にやって来て、麻雀の話をしている。

 どうも最近のオーランドの様子がおかしいことに気が付いたオーリスが、こっそりオーランドの後を付けたら、俺とコソコソやってるのを見つけたらしい。

 やましい事はしていないが、オーランド的には恥ずかしかったようで、顔を真っ赤にしてストーカー! と叫んでいた。


 ただまぁ見つかってしまった物は仕方がないと、3人で一緒に麻雀の勉強をしている。


 オーリスもさることながら、オーランドも地頭が良く、既に役と点数計算を覚えて牌効率の話をしている。

 覚えてというか、流し聞きしていたところを復習して、というのが正解か。


 この会合を見逃す兄ではないが、オーランドにNGを喰らって締め出されてしまった。

 こっそりと、兄を越えるのが目標だから、そこに兄が居ては本末転倒、弟に目標にされて良かったね、というニュアンスの事を伝えたら、兄も兄でずっと目標で居て貰えるように頑張ると張り切ってしまった。

 ……すまんオーランド。


 そんなわけで、兄と姉が帰って来た効果なのか、以前よりも家族と接する事が増えた今日この頃。


 漸くある程度のポイントが溜まったので、オーランドとオーリスを伴って父親に直談判に来た。


 先ずは、オーランドが兄を越えるために剣術を取りたいと熱心に父親に伝え、次いで俺があの勉強嫌いのオーランドがここ最近夕食後に頑張って麻雀の勉強をしていると伝えた。

 オーリスも最近はオーランドと前より仲が良くなった事をアピールし、職業取得を虎視眈々と狙っていた。


 父親はそんな子供たちに苦笑いしながら、「じゃあ今度1人ずつ相談しながら職業を取ろうか」と認めてくれた。


 後日、夕食後に飛び切りの笑顔で職業を取れたことと、麻雀の御礼を言われた。

 ちょっと照れ臭かったが、皆との距離が近づいて、転生したマクレンドからアリトスハインド家の一員に近づけた気がして、なんだか心が温まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

麻雀RPG~段位戦のポイントが経験値になる世界~ 金鈴令 @kanasuzurei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ