第12話 おれんじのにおい
軽く計算したところ、全然いけそうだった……。
どうせなら全部レベルマックスにしたい! と再計算したところ、23350ポイント必要だった……。
意外といけるぞコレ!
現在約11300ポイント残っているから、だいたい12000ポイント稼げば足りる!
つまり、去年と同じレベルで麻雀のポイントを積み重ねて行けば、1年後にはポイントがたまっている計算になる。
……チート無しだと、ポイント100倍で3つ目から更に条件がキツくなるんだよな、一応中級迄でいいのもあるけど、うん計算するのは止めておこう。なんか自分がものすごくズルい人間に思えてくる。
まぁ実際ズルみたいなもんだけどな! その分主人公の手助けを頑張るから、許してください!
さて、いったい誰に許しを乞うたのか分からないが、麻雀やってくか!
それから2か月後、屋敷がなんだかバタバタしているので、お付きの侍女さんに聞いてみたところ、なんと一番上の兄と姉が家に帰って来るらしい。
俺が転生してからは、この家に居なかったからそもそも存在すら忘れていた。
えーっと、記憶を遡ると……。なんで居なくなったのかは分からないが、兄は兄弟好き好きみたいな感じで、よく構われていた記憶が出てきた。
姉は俺と同じくよく図書室にいて、隣り合って本を読んでいた記憶がある。
えーっと、年齢は兄が10歳で姉が9歳か。この年齢で戻ってきたって事は、礼の試練に向けての準備期間に入るからかもしれないな。
そんなこんなで2人の帰宅当日、俺達は玄関でお出迎え準備だ。
こうして皆で玄関で待っていると、辺境伯を出迎えたあの日を思い出す。まぁ今回は帰って来るのが家の人間なので、皆緊張せずにリラックスモードだけど。
まだかなと思った瞬間、扉が開いた。
先に入って来たのは、肩まである黒髪青目の父親似の兄で、次いでダークブラウンの長髪を燻らせながら真っ直ぐと茶色の目で当たりを一瞥して目線を下げた美少女の姉だ。
「お帰りダニエル、パロマ」
「只今帰りました父上、母上、そして可愛い兄弟たちよ!」
「ただいま」
「ダニエルは相変わらずだね、3年も居ないと懐かしくなってしまうよ」
兄と姉は順に父母母と抱擁し、此方にやってきた。
「おかえりなさいお兄様」
「ただいまマクレンド! 3年も会わないうちに随分と背が伸びたね! それにそんなにハキハキしゃべって! 兄は、兄わぁああ! その成長が見られなくて悲しい! さぁお兄ちゃんとぎゅっとしようねぇ」
「うぐぅ」
ぎゅっとされて思ったよりも力強くてうめき声が出てしまった。
……記憶にある兄よりも、なんか激しさが増してるんですが、なんだこれ?
記憶を見て薄々は感じていたけど……コイツブラコンだ!
俺との抱擁を終えた兄は、弟達と同じような会話をしている。
「はぁ」
そちらを、我ながらきっと微妙な顔をしながら見ていると、前からため息が聞こえた。
そちらに目線をやると、同じく兄の奇行を見てため息を吐く姉が居た。
「おかえりさないお姉様」
「ん、ただいま。またあの人がちょっかい掛けてくると思うけど、私よりはマシと思って頑張って。私は王都でずっと一緒だったからもう慣れちゃったけど……」
ブラコンシスコン兄と王都で二人……あの甘やかしを一身に受けていたのか。
「お疲れ様です」
「ん」
思わず出てしまった本音にコクリ頷かれ、軽くハグをする。
そして漸く兄との接触が終わった弟たちの元へと、姉は去っていった。
一通り挨拶が終わると、兄と姉は父に王都での事を報告するようにと言われ、一緒に執務室へと去っていった。
それを母たちも、自分達も聞きたいと追いかけ、弟3人がその場に取り残された。
「……僕、疲れたから部屋に戻る」
先程よりも髪の毛が散乱しているオーリスが、疲れた顔つきで呟いてフラフラと去っていった。
「んー、俺は外で素振りしてくる!」
対してオーランドは元気だ。しかも有り余ってらっしゃる。
ビュンと走って去ってしまった。
「……取り合えず部屋に帰るか」
結局どうして2人が王都にいたのか知らないし、侍女さんに教えて貰おう。
「マクレンド様は未だ幼かったですから、ご存知でらっしゃらなかったかと」
部屋に帰り、侍女さんに部屋着に着せ替えられている最中に、2人はなんで王都に居たのか、説明を聞いたかさえ覚えてないと告げると、こう返っていた。
「実は、ダニエル様と皇子殿下が同い年でして、殿下の遊び相手として、また麻雀を切磋琢磨する仲として選ばれたのです。そのため王都の前領主様のお屋敷に滞在なさっていました」
へぇ! 兄はずっと皇族の相手をしに王都に行っていたのか。
家の特性から考えると、王族と密な関係になるのは悪い事でもないだろうしな。
……家に処されるようなことを考えていなければと前置きが付くが。
「パロマ様は1つ年下ではございますが、あの方は聡明でいらっしゃるので、殿下に一緒に麻雀をしないかとお誘い頂いたのだとか。……これは内緒ですが、どうやら元気なご令嬢の相手に疲れていた殿下が、楚々として立っておられたパロマ様を誘う事で、自分はこういう女性がタイプである、ガンガン来るなと牽制したのが始まりだとか」
姉……可哀そう。
姉は多分ただの引っ込み思案なだけだと思うのだが……。
それを皇子に利用されて殿下の麻雀仲間にされてしまうなんて。
なんか、前世の社畜時代を少し思い出して変に共感してしまい、一層心に刺さってしまった。別に麻雀云々の話ではなく、上司に巻き込まれて精神を削られたことがある身として、その不条理さの嘆きを想像してしまう。
このままだと自分も鬱モードに入りそうだし、さっさと思考を切り替えよう。
ふと思ったんだが、殿下の麻雀仲間ってなんか面白いな。
中世のバリバリ皇帝の血が入った皇子と麻雀仲間……今更だけど、こうファンタジーが汚されていくってのは失礼だが、なんか、こう、異物感が凄い。
まぁそれはおいといて、姉には何かしらの労いの物を上げよう。
「リラックスできるにおい袋か、リラックスできる香りの整髪剤か……リラックス効果のある実用的な物をお姉様にプレゼントしたいから、用意してもらえる?」
「畏まりました。では早速行ってこようと思うのですが、この後はどのようにお過ごしになられますか?」
「いつも通りかな」
「麻雀でございますね、畏まりました。では行ってまいります」
「お願いします」
本当は自分で選べれば一番いいのだが、この間みたいなことがあっても大変だし、お店に詳しいわけでもないのに加えて、やっぱりこういうのは同姓のチョイスの方が良かったりするからな。
というわけで侍女さんにお買い物を頼んで、俺は麻雀! なんか屑っぽいな。
翌日の夕食後、侍女さんに買って来てもらったふわりとオレンジ系の甘くしかしスッキリとした匂いのハンドクリームを持って姉の部屋へと訪れた。
勿論部屋に行っても大丈夫かどうかは侍女さんを通して確認済みだ。
物は昨日のうちに買ってきてもらっていたが、流石に疲れているだろうと思い今日の夜にした。
部屋に入った俺は、白を基調としたシンプルな部屋に置いてある、緑の意匠がこらされたソファーに座った。
対面に座る姉に、さっとプレゼントを差し出す。
「夜分にごめんなさい。昨日お姉様の話を聞いて、お疲れだろうと思って買ってきてもらいました」
「開けてもいい?」
「勿論です」
「……わっ! これ、王都でも流行ってたハンドクリーム、良い匂い。とっても嬉しい、ありがとうマクレンド」
「気に入って貰えてよかったです」
全く知らなかったが、どうやら流行っているブランドの物だったらしい。結構無口な姉がこんなに勢いよく話している記憶は俺には無い。どうやら結構喜んでもらえたようだ、侍女さんグッジョブ!
「私の話って、殿下の虫よけの話?」
虫よけって! 流石に明け透けすぎないか! 他の令嬢に聞かれたらブチギレるんじゃなかろうか。
「たぶんそうです」
「確かに最初は、なんだコイツ私を巻き込むなって思ったけど、交渉して王城の書庫に入らせてもらったから、むしろラッキーだった」
「王城の書庫!」
「フフ、マクレンドも本好きだもんね、本当に沢山の本があった」
それは普通に羨ましい! 羨ましいが、流石に殿下の相手をしないといけない事を考えると、素直に羨ましいと言えない!
その後は王城の書庫の話で少し盛り上がり、これ以上は夜が遅くなりすぎるという時間に解散になった。
思ったよりも姉が楽しそうに王都で過ごしていたのを知れたので、俺が心配しなくても平気そうだったのは良かった。あの感じなら、もし何かあっても両親に相談するだろう。
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