第11話

電車に揺られ桜の葉園の最寄り駅に着くと、もう辺りはすっかり真っ暗だった。園へ帰る途中に久しぶりに寄り道をする。


『白砂公園』


桜の葉園から5分ほど離れたところに、緑に囲まれた高台に小さな広場がある。広場へ続く階段を登り、ベンチとは言えない古びた木製の椅子に腰掛けた。



「やっぱり綺麗……」


広場からは街が見下ろせ、今日も闇夜の中ネオンや街灯が光り輝いている。


園に顔を出した日は家に帰るまでの間、よくこの “白砂公園 “に寄って夜景を見ていた。早く帰って家にいる時間が長くなればなるほど義母に怒られるから、可能な限りここで時間を潰すようにしていた。


誰もいない夜の公園。寂しいはずのこの場所は何故か心を落ち着かせた。


「みんな元気かな…」


虚しく漏れた独り言。久しぶりにここに来たせいか、父、母、美希の宮内家の皆の顔が浮かぶ。けれど、すぐに首を振って自分の考えに嘲笑した。


意味のない問いかけだ。

いくら私が父、母、美希のことを想っていたって、きっと母達にとっては煩わしいだけなんだから。


桜の葉園での暮らしはすごく居心地がいい。

園で過ごしたこの2週間は心穏やかな時間だった。涼子先生は優しく、滝先生や北山先生といった職員の方達もよくしてくれ、花梨ちゃん達も私を慕ってくれている。


でも、今日は笑い掛けてくれたけど明日は?明後日は?その次は?いつまでみんなは私を必要としてくれる?


こんなこと考えちゃ駄目だって分かってるのに、どうしても考えてしまう。


それに──…


涼子先生はずっといてくれていいって言ってくれたけど、18才を過ぎてまで桜の葉園にいる子供なんていない。来年には出ていかなきゃ。



「……また、一人か」


いつもと変わらない綺麗な夜景を見つめながら、誰もいない夜の公園にひとり呟いた言葉だけが響く。





「あんたなんかっ、産むんじゃなかった!」


ママ…ごめんなさい。


「貴方なんて引き取るんじゃなかったわ」


お母さん、お父さん……ごめんなさい。





腰掛けた椅子に膝を抱えて顔を埋める。そして、震える身体を強く強く抱きしめた。


生きていくことにどれだけの意味があるんだろう。こんな私に価値なんてあるかな……


夏を迎えたはずなのに、今夜の風は少しだけ肌寒かった。

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