ユニークスキル「くさい息」持ちな幼馴染少女を利用する復讐者さんが自爆して責任とらされる話
朽木貴士
第1話
ユニークスキル。
それは、この世界において非常に希少な能力である。それこそ、1000万人に1人居るか居ないかというレベルの。
何故それほど希少なのか? 単純な話だ。
ユニークスキルは、そのどれもが常軌を逸した性能を誇るからだ。
故に、世界はユニークスキル持ちを優遇する。しかし鍛錬などによって後天的に獲得出来るノーマルスキルと違い、ユニークスキルは先天性である。
持って生まれる異能、神からのギフト。だからこそ、そんな良いこと尽くめに思えるユニークスキル持ちの中でも、自分の境遇に不満がある者も、中には居るのだった──。
◇◇◇
「来た!! レイラ、いつもの頼む!!」
「うぅ〜〜、分かってるわよ!!」
『異形』としか言い表せない姿をした怪物が、おびただしい数の群れを成して、2人の男女に迫ろうとしていた。
それを前に、レイラと呼ばれた黒髪赤目の少女は躊躇う素振りを見せながらも、金髪碧眼の少年の指示に従い怪物の群れの前に一人躍り出た。
そして胸を大きく膨らませながら深く息を吸い込むと、ぷはぁ~! と勢い良く吐き出した。とても、ただの息とは思えない色をしている。黄色と、緑と、紫が混ざり合ったような混沌とした吐息である。
「よし! ロックウォール!」
それを見るや、少年は手に持っている緑色の宝玉が先端についている黒い柄の両手杖を振るい、呪文を唱えた。
すると異形の群れを囲うように、10mほどはある高い岩の壁が瞬く間に隆起する。
「パラライズ!! ウィンド!! くたばりやがれぇぇええ!!」
間髪入れず異形たちに麻痺の魔法をかけ動きを止めた所で、更に風の魔法でレイラの吐息の向きを操作する。
即席の牢獄に、混沌とした色のソレが充満する。次の瞬間には、もう異形の群れは死んでいた。どいつもこいつも鼻を押さえながら、白目をむいて泡を吹いている。そう。これこそが、レイラのユニークスキル『くさい息』の力であった。
「ぃよーしっ!! 今回も無事勝ったな!! やっぱ俺とお前のコンビは最強だぜ!! なぁ!」
「あ、あぁうん……。うぅ〜……」
「あぁ? どうしたんだよ。そんな苦い顔して。無事勝てたんだから、喜べよ。すげぇ力じゃん『くさい息』。よっ!! 悪臭プリンセス!!」
「それが嫌なんだってばァァァ!!! なんで私のユニークスキル『くさい息』なのよォォォォ!!!」
うわーん!! と溜め込んでいたストレスが爆発するように泣きじゃくるレイラ。とは言え、そこまで悲愴感は感じさせない。やはり、根っこが明るい性格だからだろうか。そう、例え彼女が泣いていても、昔から不思議と周囲は暗くならずに済むのである。
「ってぇ! ちょっとディート! 何なのよその顔の周りに纏わせてるミニ竜巻はァ!!?」
この切り替えの早さも、彼女の特徴であった。早くも泣き止み相方である少年、ディートの行動にツッコミをいれた。
「え? いや、だって、臭いから……」
「このバカ!! アホ!! 鬼畜! 悪魔!! 幼馴染にまでこんな扱いされるとか、泣きたくなるんですケド!!?」
「いや、さっき泣いてたじゃん」
「うっさいわねぇ!! また泣いちゃうわよってこと!!」
「えぇ〜、んな横暴な。クセェもんはクセェんだからしょうがないだろ〜? ユニークスキル持ちってことで待遇は良いけど嫌煙されてたお前とパーティ組んでやっただけありがたいと思えよなぁ〜。お前のアレ、範囲内なら敵味方どころか自他すら問わずなんだからさぁ。俺が居なきゃ一生使えなかったじゃん」
そう。彼女、レイラのユニークスキル『くさい息』は、敵味方も自他も問わず、効果範囲内にいる全てを滅ぼす吐息。そんなんでどうやってこれまで生きてきたのか? 単純な話だ。
スキルを使うぞ!! という意識をした状態で息を吐くと凶悪な吐息(ブレス)系能力である『くさい息』になるが、普通に呼吸しているだけなら『くさい息』にはならず、ただの臭い息になるのだ。故にディートは顔の周りに小さな竜巻を纏わせることで臭いが自分の鼻に届かないようにしていたのだ。
そして、これこそが彼女のストレスのもとである。ユニークスキル『くさい息』を持って生まれてしまった彼女は、どれだけ口内を清潔に保とうが、絶対に息が臭くなってしまうのだ。
そう。ユニークスキルとは、選ばれし者に与えられる神からの祝福(ギフト)でもあるが、モノによっては所持者へ不幸を与える呪いでもあるのだ。
「ゔっ……それは、そうだけど……そうだけどさぁ!! もうちょっと、優しくしてくれたって良いじゃあん! あからさま過ぎるんだよ〜!」
「じゃあ何か? お前は俺にまで王宮や街の奴らみたいに、引きつった笑顔で接して欲しい訳? 俺は嫌だぞ。そんなの。めんどくせぇ」
「うぅ〜、確かにディートにまであんな風にされたら、私本気で悲しいかも……」
「だろ? だから良いんだよこれで。な? ほら、行こうぜ。今日は盗賊退治のクエストも受けてきてるんだからさ」
「え゙ぇ゙っ!? き、聞いてないんだけど!? 例え盗賊であっても、人にこの力は使いたくないよ!!」
イヤイヤ! と首を左右に振って拒絶するレイラ。
「……。そこをなんとか頼むよレイラ! お前だけが頼りなんだ。俺の力だけじゃ、あいつらは殺せない! お前の力が必要なんだ!!」
真剣な表情とトーンで、深く頭を下げてレイラに頼み込むディート。
「な、なんで、そんなに……?」
「今日、退治のクエストを受けてきた盗賊な。『嘲笑う道化団』なんだ……」
「えっ……!? それって、ディートのお父さんとお母さんを、殺した……?」
「あぁ……。もう、逃がしたくないんだ。一刻も早く、一秒でも早く、あいつらを一匹残らず殺し尽くしたいんだ。なぁ……頼むよ。レイラ」
「ディート……」
俯き、表情に影を落とすディートを見て、レイラはたまらず彼を抱きしめた。
「うん……。そう言うことなら、私やる。ずっと、探してたんだもんね」
「ごめんな……。レイラ」
「ううん、良いの。ご両親には、私もお世話になったし。それに……大好きなディートがそんな顔してると、私まで辛くなっちゃうもん……」
小さな声で、言葉を漏らすレイラ。
「えっ、なんか言ったか?」
「あっ!? い、いや、なんでもないの!! 気にしないで!」
ばっ! と距離をとって、バタバタと紅潮した顔の前で手を高速で交差させるレイラ。
「……そっか。ともかく、ありがとうレイラ。おかげで、やっと父さんと母さんの敵(かたき)が討てる」
「……うん。頑張ろうね、ディート」
無言で頷くディート。
「よーっし! じゃあ行こう! もしかしたら逃げちゃうかもしれないからね!!」
うおー! とディートに背を向けて、やる気を漲らせるレイラ。
それを、ニヤリと笑いながらディートが見つめる。
彼は、レイラの言葉を聞き逃してなどいなかった。全てを知っていた。
レイラから向けられる好意にずっと昔から気付いていたのだ。その上で、気付かないふりを続けていた。
彼女の想いを受け入れてしまったら、自分は彼女を復讐のために利用出来なくなる。そう全ては、この日のために。
両親が殺されたのは、ディートがまだ6歳の頃だった。それから、12年。ずっと探し続けて、やっと見つけた敵(かたき)。逃す訳にはいかない。復讐しない訳にはいかない。
でなければ、彼の胸に燃え盛るドス黒い炎は、消えやしないのだ……。
◇◇◇
「あぁ? なんだガキ共。ここを何処だと思ってやがんだぁ? つか、それ何やってんだ? なんかの遊びか?」
洞窟の入り口に立っているスキンヘッドで頭を縫っている眼帯の大男が、顔の周りに小さな竜巻を纏っている2人の子供を見下ろす。
「ご機嫌よう、オッサン。よく分かってるよ。とりあえず死んでくれ」
「あぁ? 何言って……くっせぇ!? ゔおぇ゙!? あ、あが、が……」
バタリと、泡を吹きながら倒れる大男。もう、息はしていない。
「うぅ〜。なんだかんだ、ちゃんと言われたの初めて……きつ〜……」
「頑張ってくれ。あとは、この洞窟の中に『くさい息』を放ってくれれば良い。それだけで、俺の復讐は終わる。辛いのは、一瞬だけだ」
「うぅ〜、分かってるよぉ。ええい! 乗りかかった船って言うしね! いつも通り、こっちに飛び火しないように頼んだわよ!?」
「分かってる」
顔の周りに纏わせた小さな竜巻を霧散させ、再び杖の宝玉を光らせながら
風の魔法『ウィンド』を発動するために魔力を高めるディート。
「行くわよ!!」
「あぁ! ウィンド!!」
レイラが『くさい息』を吐き出すのと同時、その背後から強風を吹かせ、自分たちにまで悪臭が来ないようにしつつ、洞窟の中へ『くさい息』を送り込む。
──うぎぁぁぁあ!! くっせぇ! なんだこれ!?
──なんだどうした!? うわぁ!? くっせぇ!! ゔぉえ゙!!
──なんだこのう◯ことゲロとゾンビの腐った肉の臭いが混ざったみてぇな臭いはぁぁあ!?
──こんなの肥溜めの中に顔面突っ込んだほうがまだマシじゃねぇかぁぁ!!
ぎゃあぎゃあと喚く声が、洞窟の中から漏れ出してくる。
そして同時にドサッ、や、バタッ、といった何かが勢いよく倒れる音も。
「うぅ……! ねぇ、もう良い!? もう泣いて良いよねぇ!!? 私の息、肥溜めの中に顔突っ込んだほうがまだマシって言われたんですケド!!? 汚物と腐ったお肉の臭いが混ざったみたいな臭いって言われたんですケド!! ねぇ!! 私の息そんな酷かったのォ!?」
ブワッ!! と涙をボロボロ零しながらディートの肩を鷲掴みにしてガクガクと揺さぶるレイラ。
「あっちょ! まだ風纏ってなっ! おおおぇっ……!」
「酷かったんだぁぁ!! 風で防がないと吐き気を催すくらい酷かったんだぁあ!! うぅ……。酷いよ……。こんなの、あんまりだよ……。もう、お嫁にいけないじゃん……」
よよよ、と力なく倒れ伏せ、スンスンと鼻を啜りながら涙を流すレイラ。
「ゔっ……。わ、悪かったよ……。色々解放されて冷静になった今だから分かるけど、俺、かなりヒデェこと言ってたよな……」
「そうだよ!! この鬼畜!! 悪魔!! あんぽんたん!!」
「あぁ〜……だ、大丈夫だよ。どうにかなるって多分。お前ほら、息がめちゃめちゃ臭いこと以外は完璧じゃん。めっちゃ可愛いし料理も上手いし家事も出来るし優しいし。嫁の貰い手くらい現れるって!」
ディートがレイラを慰めようと思いつくまま褒めちぎると、レイラは俯きボソッと呟いた。
「……とって」
「なんて?」
今度は本当に聞き取れなかったようで、ディートは反射的に聞き返してしまった。自分の運命を決定する選択だとは思わずに。
「責任とってって言ってんの!! そんな風に言ってくれるなら責任とって!! 大体ディート以外の誰がこんな私を受け入れてくれるって言うのよ!! もう決定だから!! 言っとくけど逃さないからね!? もし逃げたらユニークスキル持ちとしての権力振りかざして指名手配するから!!」
ふん!! と腕を組んで顔を逸らすレイラ。
「うそー!?」
END
ユニークスキル「くさい息」持ちな幼馴染少女を利用する復讐者さんが自爆して責任とらされる話 朽木貴士 @kuchiki835
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