第44話とある冒険者の挑戦(とある冒険者side)
俺の名前はクラトス、依頼を受けて人の手伝いや、魔物を討伐して素材を売り生計を立てる冒険者だ。
北の山脈に幼いドラゴンが住み着き、腕に自信のある冒険者たちは北の山脈を目指している。そんな噂を耳にした。
幼いとはいえ、なぜ危険なドラゴンの住処を目指すのか、それは高額で取引されるドラゴンの素材もあるが、本命は討伐する事で取得できる
だが、俺の目当ては金になるドラゴンの素材である。病気の妹を治すには普通に働いてたんじゃ手が出ないほど高額な薬が必要だからだ……!
しかし、俺も冒険者の端くれではあるが、ソロで活動しているから仲間もいなければ中堅ほどの実績しかない。
正直、幼いとはいえドラゴンに挑むには力不足は否めない……だが、早く薬を手に入れなければ妹は助からない。一攫千金を得るには命を懸けるしかないんだ……!
そう決意した俺は妹を一人残し、北の山脈に向かった。
◇◇◇
ドラゴン討伐を決意した俺が北の山脈麓の町に到着すると、町にはこの近辺で有名な高ランク冒険者たちが集まっていた。
この錚々たるメンバーが集まる理由など、ドラゴン討伐以外にはないだろう。
くそっ、ライバルが多い、金のためにここまでやってきたが、俺にチャンスなんてあるのか……?
「おっ、クラトスじゃねえか、お前もドラゴンを狙って北の山脈まできたのか?」
「ジェイソンさん、あんたも来てたんだな。ああ、俺もドラゴンを狙っている。どっちが先にドラゴンを狩るか競争だな」
声をかけてきたのは俺の住む町で一番の腕利き冒険者パーティーのリーダー、ジェイソンだった。
この人には以前から世話になっている。
「競争ってお前一人でか? 噂によると住み着いたドラゴンはかなりの大物らしいぞ。お前の腕で大丈夫か?」
「何! 俺の聞いた話では幼いドラゴンと聞いたが……」
噂ではドラゴンにしては小型な事から子供のドラゴンだろうって話だったんだが、どういう事だ?
「それがよう……今までドラゴンに挑んだ冒険者はみんなやられちまったらしいんだ……」
「マジかよ……全滅か?」
「いや、全員じゃない、生き残りもいる。戦いを挑んだ者はみな殺されたが、逃げ出した奴には攻撃をしなかったそうだ」
「くそっ……そんな強いドラゴンだったのかよ……子供のドラゴンだって聞いたからここまできたってのに
……!」
確かに噂は流れてるのに討伐されたって話はきかなかった。それは隠れるのが上手くて発見できないからと思ったんだが、単純に強かったのか……。
だが、それじゃあソロの俺にドラゴン討伐なんてできるのか……!
「そこでだ、俺らも戦力を上げるために仲間を探しててな。クラトス、お前さんなら信用できる。俺らと一緒にドラゴンを討伐に行かねえか?」
俺が悩んでいると、ジェイソンさんがパーティーに勧誘してきた。
「本当か! そいつぁ渡りに船だ。よろしく頼むよジェイソンさん」
「ああ、よろしくなクラトス」
地元の最高ランク冒険者パーティーであるジェイソンさんの仲間に入れてもらえるのは本当に助かる。これで希望が見えてきたぞ!
こうして俺はジェイソンさんのパーティーに入れてもらい、一緒にドラゴン討伐へ向かう事となった。
◇◇◇
「見えてきたぞ。情報によると、あの洞窟がドラゴンの住処らしい。気を引き締めろよ」
北の山脈を進む事暫く、ジェイソンさんがドラゴンの住処と思わしき洞窟を発見した。
こんな麓の町から近い場所にいたのか、これで町は襲われていないのか?
「ちっ、先客がいやがる……よし! まずは様子を見るぞ。みんなドラゴンの戦い方をしっかり見ておけ」
俺が考え事をしていると、ジェイソンさんから指示が飛ぶ。
そうだ、今は余計な事を考えている場合じゃない。しっかりドラゴンを観察しなければ……!
指示通りドラゴンの様子を観察する。だが、すぐに戦いは始まらない。どうやら会話をしているようだった。
「会話している? あのドラゴン、人語を操れるのか? 思った以上に厄介だな……」
ジェイソンさんが呟く感想が聞こえる。
強い魔物には人間の言葉が話せる者がいると聞いた事がある。あいつがそうなのか……?
「動くぞ! なにぃ……ッ!」
向かい合っていた冒険者がドラゴンに攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、体が真っ二つに分かれて地面に転がっていた。一瞬で冒険者を殺したであろうドラゴンは振った腕を戻し、倒れた冒険者を見詰めている。
どうなってんだ……あのドラゴンはただ腕を振っただけだぞ。どうしてそうなるんだよ……!
動揺する俺をよそに、冒険者を倒したドラゴンはこちらに顔を向ける。
まずい、気付かれたか!
『そこに隠れてるのはわかってるわよ。あんた達もやるの?』
なんだこれは……直接頭に声が聞こえてくる? ドラゴンが俺たちに話しかけているのか……?
「逃げるぞ、あれは俺らじゃどうしようもねえ。命あっての物種だからな……」
「わかった、ジェイソンさんたちは逃げてくれ。俺は残る」
「バカ野郎! ありゃあ正真正銘の化物だ! 殺されるぞ!」
「俺にはやらなきゃならない理由がある。逃げるわけにはいかねえんだ……」
そう、理由があるんだ。妹の薬代を稼ぐまで帰る事はできないってな……。鱗の一枚だけでも手に入れるまで帰れないんだよ……ッ!
「グルルォオオオッ!!」
「ひぃ……ッ! 俺らは逃げるからな! お前も無理するなよ!」
忠告に従わずなかなか出てこない俺たちに痺れを切らしたのか、ドラゴンが怖ろしい咆哮をあげる。それを聞いたジェイソンさんたちは一斉に逃げ出していった。
心配かけてすまないジェイソンさん。いよいよとなったら逃げるから、やれるだけやらせてくれ……!
俺は震える足を叩いて奮い立たせ、ドラゴンの前へと歩みを進めた。
『あら、あんたは逃げないのね』
「ああ、俺にも引けない理由があるからな……」
ドラゴンは俺の様子を見るように話しかけてきた。
さぞ滑稽に見えるだろう。何しろ俺ときたらブルっちまって、足がガクガク震えてるんだもんな。
『無駄な殺しはしたくないから一応聞いとくけど、あんたはなぜ私を狙うの?』
「妹の病気を治すには高額な薬が必要だが、俺にはその金がない……」
『ふ~ん、それで私の倒して大金ゲットってわけね。わかったわ』
ドラゴンはそう言って自分の爪を折り、俺へ放り投げた。
「えっ、もしかしてくれるのか?」
『さーね、私は伸びすぎた爪を捨てただけよ。欲しいのなら持っていったら?』
ドラゴンの爪は最高級の武器の素材になる。売れば数年は遊んで暮らせるほどの大金が手に入るだろう。
こんな高価な物をくれるってのか!
「ありがとう! この恩は必ず返す!」
『そんなのいいわよ。あんたの実力じゃ危険だからもうこない方がいいわよ。妹さん、助かるといいわね』
「恩に着る……ッ!」
こうして俺はドラゴンから爪を受け取って地元に帰り、素材を売る事で妹の薬を買う事ができた。そして、薬の効果で妹の病気は徐々によくなっていった。
妹の病気が治って本当によかった……あのドラゴンは妹の命の恩ドラゴンだ。
しかし、あのドラゴンはいったい何だったんだろう。人の言葉を理解する知力に圧倒的な武力を持っていた。
でも、あのドラゴンはいい奴だった。確かに自分を狙ってきた冒険者を沢山殺したかもしれないが、それは襲われたから反撃したにすぎない。事実あのドラゴンは戦わなかった俺を襲わなかった。それどころか、妹の話しを聞いたら自分の爪を渡してくれる優しさまで持っていたしな。
ありがとうドラゴンさん。例えあんたが返さなくていいと言おうが、必ず恩は返すぜ。今は無理だろうが、いつか必ずな。
次の更新予定
転生したらトカゲだった~進化を重ねて最強のドラゴンになれ~ ギッシー @gissy
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