第43話温泉地のルール
「ここかなぁ? アテナー! ギン爺ー! いるー?」
温泉の近くに作った拠点で一泊した翌日、私は拠点の入口から聞こえる大声で目を覚ました。声のした方に視線を向けると、昨日出会ったユナと一緒に初めて見る爺さんがいた。
誰かと思ったらユナじゃんか、昨日の今日で訪ねてくるなんて元気だなぁ。
『おはようユナ、遊びにきたの?』
「うん、それもあるけど、お爺ちゃんがアテナに挨拶したいって言うから連れてきたんだ」
「お初にお目にかかりますドラゴン殿、私は近隣の町の長を務めているテルメンです。先日は孫がお世話になったようですな」
謎の爺さんはユナの爺さんで町の町長だったみたい。どうやら保護者が様子を見にきたようだ。
まあね、帰ってきた孫娘が得体の知れないドラゴンと仲良くなったとか聞いたら心配にもなるよね。町長なら町の危機でもある。ここはひとつ、私が善良なドラゴンだってのを証明しなきゃ。
『ご丁寧にどうも。私はアテナ、貴方の大切なお孫さんはもちろん、人も町も私から襲うつもりはないから安心してちょうだい』
「おお……ユナから聞いた通り〖念話〗で人語を操るのですな……! そのような力あるドラゴンのアテナ殿が、このような田舎になにゆえ訪れたのでしょうか?」
テルメンは私の〖念話〗に驚きつつも、探るように質問してくる。人好きのする笑顔とは裏腹に、私を警戒しているように感じる。
う~ん、友達の家族に警戒されるのは嫌だなぁ……よし! ここは一つフォローしておこう!
『まあ、暴れないとか口で言ったところで信用できないよね。でも信じてほしい、私は自分やお供のギン爺に危害を加えられないかぎり、決して人を襲う事はないわ』
「それを聞いて安心しました。私の町は人口が少なく、ユナには友達と呼べる人間がいないのです。どうかユナと仲良くしてやってくだされ」
『ええ、そのつもりよ』
昨日出会ったばかりだけど、私は天真爛漫で可愛いユナを妹のように思ってるからね。もちろん仲良くやっていきたい。
「ところでアテナ殿、この土地にはどれくらい滞在されるご予定ですかな?」
『そうね、私の気分次第だけど、暫くはいる予定よ』
「それでしたら、この土地で過ごす間は守っていただきたいルールがあります。温泉は町の住民も使う事がありますので、使用は夜だけにしていただけると助かります。町の住民が驚いてしまいますので……」
そりゃあこんな大きなドラゴンと亀がいたら驚くよね。普通に討伐依頼とか出されそうだ。
「それと、アテナ殿の存在を完全に隠す事はできないため、名を上げたい輩が挑んでくると思われます。そこはご容赦ください」
『主様、ドラゴンを討伐した者は〖
名を上げたい挑戦者か、確かにドラゴンは珍しい魔物だし、そういう輩も出てきそうね。どこにでも命知らずのバカってのはいるものだ。
『問題ないわ。身にふりかかる火の粉は払うまでよ。でも、さすがに命を狙ってくる人間の安全は保障できないわよ』
「それは問題ありません。アテナ殿のお好きなようになさってくだされ」
町長はすんなり納得した。どうやら同じ人間同士でも、外部の人間の面倒まで見る気はないようだ。
「本日はお時間をいただきありがとうございますアテナ殿。これで私たちは失礼させていただきます」
「じゃあねアテナ! また遊びにくるねー!」
そう言い残して町長とユナは帰っていった。
私としても現地の住民に迷惑はかけたくない。こうしてルールを教えてくれるのはありがたいよ。
『ホッホッホッ、可愛いお友達ができましたな主様』
『そうね。楽しい湯治になりそうだわ』
フェリシアの件で傷ついた心を癒すために訪れた温泉地で素敵な友達ができたわ。傷心の私の心にはユナの明るさが良く効くのだ。
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