第31話
とある日のホームルーム終了後、先生が「六波羅、高橋、小林。ちょっと来てくれ」と俺たちを呼び出した。
特に呼び出されるようなことはしていないはず。お互いに心当たりがないことをアピールするように首を傾げながら前に向かう。
「3人に学校のパンフレットのモデルをやってもらいたいんだが……どうかな?」
全く想像していなかった角度からの質問に3人で顔を見合わせる。
「わ、私達3人でですか?」
「正確には他のクラスからも集めているから10人くらいだろうな。先生のノルマは3人なんだ」
「や、ノルマとか素直に言っちゃうんですね」
小林がクスクスと笑いながら言う。小林の態度からして案外乗り気のようだ。
「それで、受けてくれるかー?」
「はい! 私やりまーす!」
理栗がにこやかに承諾したので断りづらい。小林も「ん」と言いながら頷いたので、俺も断る理由がなくなった。
◆
撮影の日の放課後、会場になっている教室に理栗、小林と三人で向かう。
「小林が断らなかったの意外だよね」
歩きながら小林に話しかける。
「や、これは私の出番だよ」
「そ、そうなの? 目立つと思うけど……」
「や、私なんてどうせ一番後ろでしょ。引き立て役だよ、引き立て役」
小林はドヤ顔でそう言いながら理栗と腕を組む。
「小林ちゃんはセンターだよ! 可愛いんだからさ〜」
捻くれた小林の考えをほぐすように理栗がニコニコしながら小林の頭を撫で回す。
「ぬわっ……わ、私と高橋は背景要員だから!」
「え〜もったいないよ〜。ツーショット撮ってもらおうよ、ツーショット」
実際、画になる理栗がセンターで後は真面目そうな普通の外見の人で固めたい、という大人の意図が透けて見える気もした。
美男美女で固めるのも昨今の風潮的に良くないというのもあるんだろう。
そんなことを考えながら会場に到着。撮影スタッフの人が数人で機材のセッティングをしていて普段の教室とは雰囲気が違っていた。
頭にバンダナを巻いた女性が近づいてくる。
「モデル役の生徒さん? 撮影用に少し髪の毛とか整えさせてもらってるの。いいかしら?」
どうやらスタイリストの人まで来ているらしい。学校の顔になる役なのだからそれなりの予算もついているようだ。
プロにセットしてもらえるからなのか、理栗は嬉しそうに「お願いします!」と言い、及び腰な小林を連れて部屋の隅にある簡易的な化粧ブースに向かっていった。
◆
男子はほとんどやることはなく、髪の毛を少しセットする程度だが、女子は少しだけ気合が入っていた。
時間をかけてヘアセットと化粧をしてもらった理栗と小林が俺の方にやってくる。
2人ともがナチュラルメイクを施されていて、いつもより可愛くなっていた。普段から気を使っていそうな理栗に比べると小林の上がり幅が大きく、つい目を奪われる。
「ん? どうした?」
小林が不思議そうに俺を見てくる。
「なっ、なんでもないけど!?」
「いやはや……コレは恋をしている人の目つきですかな?」
理栗がニヤニヤしながら俺を肘でつついてくる。小林は俺と理栗を交互に見て徐々にジト目になっていく。
「あー……そういうことね」
「いや、そういうことではないよ!?」
なんかとんでもない方向に誤解されてそうなんだけど!?
◆
教室での授業風景の撮影は小林の予測通り、俺と小林は最後列に配置された。最前列という普段の席替えなら絶対に行きたくない場所が一番映えるセンターと化していて、メインヒロインである理栗が座ってカメラを向けられていた。
授業風景の撮影が終わると数グループに別れて校内の様子を撮影する時間になった。1年生組は俺達の3人だけらしく、連れてこられたのは校舎がしっかりと画角に収まる校門。
そこに俺を中心に3人で並ぶように指示をされた。
「……これ、すごく主役っぽくない?」
未来を見据えるように若干視線を高めにして、空を見上げながら両隣の2人に尋ねる。
「や、なんなら表紙行きまであるよね、この構図」
「ちょ、ちょっと緊張するね……」
俺たちがボソボソと話をしているとカメラマンの人が「小林さーん、視線上げてー!」とリクエストしてきた。
「はっ……はい!」
小林は慣れないながらも顔を上げて空を見つめた。
「や……これさ、何か後でご褒美あるのかな?」
表情だけは前向きな小林がものすごくネガティブな事を言いだした。
「まぁ……確かに。受ける前に聞いとけばよかったね」
「や、どうせないんだろうから事前に確認してもモチベーションは上がってないんだろうけど」
「小林さーん! 笑って笑って〜! 六波羅さ〜ん! 笑い過ぎ〜!」
カメラマンがまたリクエストをだしてくる。チラッと左を見ると理栗が心底嬉しそうに笑っていたし、右を見ると小林がぎこちなく笑っていた。
◆
撮影の仕上げは校内での自然体な様子。廊下の窓際に三人で立ち、笑顔で雑談をしているという『なわけない』写真を撮ることになった。
自然な笑顔を撮るために適当に雑談をしていてくれ、と言われて三人で窓際に立つ。
「や、案外難しくない?」
「わかる」
「んー……確かに」
カメラを向けられ、大人達にジロジロと見られながら自然に笑えと言われても中々厳しいものがある。
「セクシー俳優ってこんな気分なのかな? 普段見せないところを見られながら撮影されてるって」
小林がニヤリと笑ってそう言う。
「セクシー俳優?」
理栗が首を傾げてそう言う。
「む……これで自然な笑顔を狙ってみたんだけどダメだった」
「無理だと思うよ!?」
「AV男優とAV女優を上品に言い換えたところが笑いどころだったんだけどね」
それで笑うメインヒロインはもうメインヒロインじゃないのよ。
AVという単語で場の空気が終わりつつある。
ふと小林の言動を思い出し、両手をチョキにしてクイクイっと指先を曲げるジェスチャーをしてみた。
「ふふっ……三人でそれしてる写真はダメでしょ……」
小林は笑いながら同じようにピースサインを作って指先を動かした。
「私も混ぜて〜!」
理栗もクイクイっと指先を動かす。
三人でふざけていると、カシャカシャとカメラで撮影が始まった。ものの数十秒で「オッケーでーす」と声がかけられ、三人で驚きながら固まってしまう。
これで撮影は終わりかと思ったのだが、様子を見ていた教頭がゴニョゴニョとスタッフと話し始めた。
少ししてスタッフの人が俺たちに話しかけてくる。
「すみません、最後に男女でツーショットを撮らせてもらってもいいですか? 他のグループで撮り忘れがあったみたいで。小林さんと六波羅さん、どちらでも大丈夫ですよ」
小林と理栗が顔を見合わせる。朗らかになっていた空気が嘘のように張り詰めた。
お互いに苦笑いをしながら、手を腰のあたりで上げようとして引っ込めてを繰り返していて、譲り合っているのかなんなのかよく分からない。
これじゃ埒が明かないな……
「あ、あのー……じゃあ両方撮ってもらっていい感じの方を使ってもらうでもいいですか?」
「はい。いいですよ!」
俺の提案通りに方針が決まるとササッと小林が離れていき、理栗が俺の隣に立った。
「晃平は小林ちゃんとが良かった?」
理栗が周囲に聞こえないよう、前を向いたまま小声で話しかけてくる。
「べ、別に……」
「そうですかそうですかぁ」
理栗の声は明るいが、表情が気になる。
チラッと横を見るとカメラマンに「高橋くーん! 前前!」と注意されてしまった。
◆
ツーショット二組目は小林と俺。
「や、地味メン2人で撮っても画にならないっしょ」
小林が俺にだけ聞こえるように毒を吐く。
「言えてる」
少なくとも小林は地味メンこと、地味なメンツではないのだが、本人がそう在りたいらしいので何も言うまい。
「はーい! 2人とも笑って笑ってー!」
小林といると安心するのだが変に気取ってしまい表情が固くなる。
「ちなみにさっき見てたけど腰から上が撮られてた」
小林はそう言いながら画角に入っていないであろう腰の位置で手の甲をちょん、とつけてきた。
「じゃあそれ写らないじゃん」
「ん。写らないけど、確かにこの瞬間はくっついてた、と記憶にだけ残しておこう」
小林が前を向いてにやりと笑う。相変わらずな行動に俺までニヤけてしまう。
「あ、あのー……2人とも……」
カメラマンが戸惑いながら機材から顔を離して俺たちに声をかけてきた。
「ど、どうしました?」
「なんか……悪巧みしてる笑い方に見えちゃうから、もっと顔を上げてみようか!」
「あ……」
小林と目を合わせてニッと笑う。そのまま前を向いた瞬間「いいね〜!」とカメラマンが言いながらカシャカシャとツーショット写真を撮り始めた。
モブキャラに転生したので推しのモブキャラダウナー美少女と仲良くしてます 剃り残し@コミカライズ連載開始 @nuttai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。モブキャラに転生したので推しのモブキャラダウナー美少女と仲良くしてますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます