天動、我を軸として

憑弥山イタク

天動、我を中心として

 陽が沈み、月が昇る。

 月が沈み、陽が昇る。

 世に云う地動説が、この世に於ける真実であるならば、月も陽も、昇る、沈む、という言葉は適さない。陽と顔を合わせるか、或いは月に背を向けると云う方が正しいのではないのだろうか。

 沈み、昇る。それ即ち、天動説の許容である。星々と共にそらが動き、それに伴い月と太陽が動く。故に、地平線から陽や月が昇り、また沈みゆくと云える。

 広大な大地と海を併せ持つこの世界が、太陽の周りを回っている。そう考えただけで虫唾が走る。それではまるで、自分よりも明るく、自分よりも大きな誰かの周りを飛び交う、鬱陶しい夏の虫のようである。

 私は誰かの周りにたかる、醜く矮小な羽虫ではない。

 私こそが、この世界の中心である。

 考えてみよ。貴様等は誰かに集る羽虫か?

 否。貴様等も中心である。何人たりとも折ることの許されぬ、唯一無二の中心である。

 空を見よ。その太陽を、月を、星を見て、己の立つ大地が動いている実感があるだろうか?

 大地ではない。太陽が、月が、星が動いている。そう感じているのではないのか?

 自覚を持つといい。

 我々は、常に中心に立っている。

 常に、この世界の中心に居る。

 太陽の周りを取り巻く脇役Aではなく、動き続けるそらを眺める、唯一無二の主演なのだ。

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天動、我を軸として 憑弥山イタク @Itaku_Tsukimiyama

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