第14話 確証のない事実

「来たよ…………って、何してんの!?」

「ん? あー、何って、準備だよ」

彼女は彼女の背丈の半分ほどもあるリュックに、薬草やらガラス瓶やらを詰め込んでいる。

「何か、旅とかするの?」

「うん! ソーカについていくの」

「えええええっ!?」

ちょ……え?

突然のことに言葉を失ってしまう。

「別にいいじゃん。減るものでもないでしょう?」

「え、えぇ…………」

今度は困惑のあまりに言葉を失ってしまった。

着いてくるというのは、僕にとって別に悪いことも嫌なこともない。

「だけど、なんで着いてくるの?」

彼女は一瞬動きを止めた。

「私、お母さんの病気を治したいの。ロックルに妹の風邪を治す薬草を買いに行ってたのは本当なんだよ? でも、本当はお母さんの病気を……サクラギ病を治せる薬があったらいいなだなんて考えもあったんだよ」

「そうなんだ…………」

「……お母さんはさ、ソーカみたく優しいから、私の前では平気を装ってはいるけど、かなり無茶をしてることは分かってるんだよ」

彼女の口から出たその言葉はいつもよりも重く、それ相応の覚悟を持っての発言であることを僕に察せさせた。

「……私は、ソーカについて行って、サクラギ病を治す薬を見つける。だからついていく。どうせソーカも、それも旅の目的の一つだったりするんでしょう? 師匠を殺した病気の原因の解明だったりがさ」

「よく分かってるじゃんか。……分かった。いいよ、一緒に探そう」

そう言って手を差し伸べる。彼女はそれを強く握り返した。

「……ありがとう。あ、お母さんには今から伝えるけど、一緒に来てくれないかな?」

まだ伝えていなかったと内心思いつつ、それを了承する。

ミラクサの後を追い、階段を上り、奥の部屋に入った。

「…………あら? ミラクサ……それに、ソーカ君……だっけ?」

今日もベッドの上に座っている女性。今日はテーブルの上には皿の上にキュールが数個乗っていた。

「お母さん、ちょっと暫く家を空けるよ。ソーカと旅に出てくる。いつ戻ってくるかは分からないけれど、必ず戻ってくる。だから心配しないでよ」

「そう、分かったわ……」

思っているよりも、淡白な返答が返ってきたので僕を含め、ミラクサも驚いていた。

「……なに? 止めるとでも思った? ……それが無駄であることを私が一番分かっているわ。だってミラクサ、貴方の母なんだもの」

「……お母さん……!」

目の前で涙ながらに抱擁を交わす親子。この状況での自分の存在が場違いの様にも思えたのだけれど、それは自分の涙で誤魔化した。

「……じゃあ、お母さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい。リーハには私から伝えておくわ……」

ミラクサが部屋から小走りで出ていった。僕もそれに続く。

「あ、ソーカ君はちょっと待ってくれない?」

「……はい?」

僕は彼女の母に呼び止められた。近くの椅子に座るように促され、腰掛ける。

「ソーカ君、魔法ができるんだってね。ミラクサから聞いたわよ」

「いえいえ、そんな……」

「謙遜はいいわ……それを認めてくれないと、お願いができないから」

「……お願い……?」

「ええ……」

女性はそのまま続ける。

「ソーカ君、娘……ミラクサに魔法を教えてくれないかしら」

「魔法を……? それは全然構わないですが」

「本当? それは良かった。断られたらどうしようかと…………」

「断るだなんて、とんでもない…………」

ミラクサの母はにっこり微笑んだ。

「……優しいのね、ソーカ君は……。ミラクサから聞いていた通りだわ」

「ミラクサから何か聞いていたんですか?」

何を言われたのか、何故か少しだけ、焦燥を募らせてしまった。

「ええ、色々とね。ミラクサが楽しげに話していたから……」

「そ、そうですか……」

少し俯く僕。今度はどこか、それが照れ隠しであるかのようにも思えてしまう。

「……ソーカ君、ちょっと聞いてほしい事があるの。ミラクサのことなんだけど……」

そう言って、女性はさらに話し始めた。


「ミラクサはね、ソーカ君と同じくらい優しいのよ。それも、優しすぎるくらいにね」

「それは、とても理解しています。僕も今まで沢山彼女の知識に助けられてきましたから……」

「そう、そうだったわね……」

ミラクサ母は少しだけ、嬉しそうな表情を浮かべた。

「でも、その知識って、何時、何故付けたのかは聞いてないわよね?」

「そうですね……」

よくよく考えてみれば、僕は彼女のことについてあまり知りはしなかった。ただ、知識が豊富であることと、妹がいることと、ミラルルに住んでいることくらいか……。

「……ミラクサはね、私がこんなになってから変わってしまったのよ」

そう話すミラクサ母の表情は悲しげなものであったと思う。

「……昔は優しく活発な子でね、確かに好奇心旺盛ではあったのだけれど、今の様に生物だとかに知識がある子でもなかったのよ。でも、私が病気に罹ってから、膨大な量の本を読むようになった。それも、この村の本は勿論、この大陸に存在する本の半分くらいは読んでいたと思う」

「そんなに……ですか?」

「ええ、『私がお母さんの病気を治すんだ』って言ってね。性格も相まってもう周りなんか見えないくらいに。今でこそ、本は読んではいないけれど、もうそれは読む本がこの村にないからであって、この村がもっと大きくなって、本が沢山入ってきたらまた昔の様に噛り付いてしまうでしょうね……ッ!」

ミラクサの母は深く咳込んだ。恐らく……というか確実に病気によるものだろう。

「大丈夫ですか!?」

「ゴホッ!…………ええ、なんとか……でも、ミラクサが戻ってきたときまで生きていられるかは分からないわ……」

「そ、それは……」

「だから、ソーカ君。あの子がこれから先、生きていけるように魔法を教えていて欲しいの。あの子が、自分で自分の身を守れるように……」

ミラクサのお母さんは僕の手を、弱弱しく握った。

「あの娘を…………ミラクサを頼んだわ……」

それは、幼いとは言えないけれど、まだ未熟ではある僕にとって、重すぎるものであったと後から思う。

誇張すると、親代わりに面倒を見てくれとでも取れるかのような願い。ただ、目の前の女性の様子から、それを断ることはできなかったのだ。

縛り。これは、そう表現するのが正しいだろう。

「……分かりました」

僕は席を立つ。

「……最後だけど」

扉を開けたところで女性は一つ口にした。

「私は貴方の母ではないのよ。だから、貴方のことは何も知らない。だけど、一つ貴方にも言っておきたいの……」

「何でしょうか」

「貴方……ソーカ君。君は、自分だけに厳しすぎるのよ……だからって、何かやれとも言わないし、それが悪いことだとも思わないけれど、心の奥に留めて置いて欲しいわ」

「……分かりました」

「それじゃあね」

そこまで会話を続けた後……いや、そこで会話が終わり、僕は扉を閉じた。


結局、最後の言葉が何を言っているのか、僕は良く分からなかった。正直、言葉の意図さえ見えては来なかったし、それが悪いことではないのならと、あまり気にも止まらなかったのだ。

そうしてミラクサの家を出る。

「…………おや」

出会う。いや、出会ってしまうという方が、僕としては良かっただろう。

「酷いですね。人の顔を見てする顔ではないですよ、それ。僕とあなたが出会うのはこれで二回目でしょうが、そこまでの顔をされる筋合いはないはずなのですがね……文字通り、私の顔に悪いものでもツいていますか?」

「いやいや、ラルフさん。それは気のせいではないでしょうか」

「あら、そうでしたか?」

ラルフさんは顎に手を添えて考えた。

「いやはや、それより名前を憶えていてくださるなんて、光栄ですよ」

「名前を覚えるなんて普通のことですよ。それより、そのカバンは……」

「ん、あぁ、私、この村を離れることにしたのですよ。私の旅もまだ終わってはいないのですから」

「そうなんですね」

「まぁ、貴方方二人もそういうことなのでしょう。私と同じ様に、また旅を始めるようですね」

「そうです。僕たちはクラウディアに向かうのですが、ラルフさんは?」

ラルフさんは再び顎に手を添えて考える。

「…………そうですね、今度は別の大陸にでも渡ってみましょうかね」

淡々と言葉を重ねるラルフさんに一つの疑問を覚える。

「そんな簡単なことなのですか?」

「え……まぁ、それが叶わなかったらそれはまたその時ですね」

面食らったような、泡を食ったような、そんな感情を抱いてしまった。


旅というものは、そんなに簡単なものではないと、幼い頃に考えていた。

つまり、それは憧れであるのだと、頭に語彙が増えた今では理解ができるのだけれど、ただ目的のないということと何も考えることもないということでは、全く違うものであるという見解を自分は持っていた。

だからこそ、ラルフさんのその発言は深い疑問、否、不快感すら覚えた。 

「……旅とは、そんなもので本当に良いのでしょうか。僕はそうは思えません」

そんな嫌味疑問に関して、またアルフさんは言葉を返した。

「…………です」

「……は?」

「旅の本質というものは放浪だと思っているわけです。ただ、これは私の主義主張でしかないので、世界の中にはきちんと目的をもって旅をしている人間……つまりベルキュートのような人物もいます。ただ、何も考えずに千鳥足で世界を周るというのも私は楽しいと思っている……ただそれだけですよ。べつに、理解してもらおうだなんて、私は思ってなんかいません」

薄っぺらい。ただ、何処か本質を突かれているかのようで。僕はただ、否定したい気持ちがあっても、それに何かを言い返すこともできなかった。

だって、その発言の中身は、僕であって、僕でない気がしたから。

それを否定したら、僕の半分は、僕でなくなってしまうような気がしたから。

「…………それでは、最後に私の得意をお見せしましょう」

すると、彼は僕の目の前に掌を突き出す。

「よっ!」という掛け声とともに、いや、何処からともなく赤い花が出てきた。

「えっ!」

今まで後ろで何も口を挟むことが無かったミラクサから驚嘆が漏れる。

いや、それより、何だ、今の。

「わぁ! 凄い凄い!」

目を輝かせて跳ね回る彼女に、ラルフさんはその花を差し出した。

「え! くれるんですか?」

「いえ、手向けですよ。ちなみにこれは『』と言うもので……。貴方が興味を示したあのステッキも、に使うものなのですよ。ではこれで」

そう簡単に言い残し、僕たちがこの村にやって来た方向に去っていってしまった。


それから、村長の家を含めて、色んな村人たちにミラクサが旅に出ることを伝えて回った。

そうして、

「――じゃあ、僕たちも出ることにしようか」

「うん!」

村の外に一歩踏み出す。

「――ねぇ、ソーカ君」

「ん、どうしたの?」

歩みを続け、村から離れつつあるその間に彼女は僕に話しかけた。

「どうして、ラルフさんに対してあんなに嫌な顔をしていたの?」

そうか、僕は本当にあの時、嫌な顔をしていたのか。

少し考えて、どうにも纏まらない思考を吐き出してみる。


「畏怖、嫌悪、不快…………? ……いや、どれも違うか。なんだろうな、僕はあの人の雰囲気に関しては嫌いだとかは思っていない。逆にそれをかっこいいとさえ思えてしまうくらいなんだけれど……」

「じゃあ、何で……」

「……その雰囲気と『』という存在が混ざった時に、最悪な印象になってしまったのさ」

何処か理解できていない彼女に、逆に僕は質問してみたのだ。

「……あの人、僕がゴーレムの魔法を作っている間何をしていたの?」

「え? うーんと…………あ、そうそう。私はあまり見て無かったからわかんないけど、村の子供たちと遊んでいたみたいだよ。多分あれがまじっくだったんだろうなー」

貰った赤い花を見つめながら彼女はそう言った。

「……そうなんだ」

「それで、それが何か関係あるの?」

「いや、ただ単に気になっただけさ」

「何それ! 私も教えたんだから教えてもよくない?」

「わ、わかったよ……」

軽く声を荒げながら詰めてくる彼女を宥めるように、僕は謝意も込めて話すことにした。

「ミラクサは、なぜあのタイミングでゴーレムが起動したのだと思う?」

「なんでって……確か、ソーカは村長の家での説明のときには『地震で誤って起動してしまった』と言ってたよね?」

「あぁ、確かにそう言ったね、あの場では」

事を良く呑み込めない彼女は首を傾げた。

「どういうこと? つまり他に理由があるの?」

「只の可能性の噺だよ。よく考えてみたら、村長の家で起きた地震の後直ぐには、ゴーレムの大規模魔力は、魔力探知には引っ掛からなかったんだ。つまり、その地震ではゴーレムの起動には至らなかったということになる」

「確かに、あそこまで大きなゴーレムが起きたら物凄い膨大な量の魔力反応があっても可笑しくないね」

「では、いつゴーレムは起動したのだろう」

ミラクサは歩きつつも、過去の記憶を辿っているようだった。

「……何時って……村長の家を出た時じゃないの? 確か、地震は出た後も起きたよね?」

「そう、地震は起きた。ただ、それがゴーレムが起動した原因ではなかったんだ」

「え、どういうこと?」

「ゴーレムの魔力が探知に引っ掛かったのは、地震が起こる直前なんだよ。だから、起動があとの地震によるものだなんて、あり得ないのさ」

僕の頭の中で纏まっていた時系列は彼女の頭では中々纏まらないようで、理解に苦しんでいるようだった。

「…………つまりどういうこと?」

「地震は、ゴーレムの起動の原因ではないってコトさ」

それをまるっきり信じたミラクサは、それを理解したのならば、出てきて当たり前の疑問を口にする。

「……じゃあ、どうして起動したの?」


「…………ラルフさんだよ」

「は?」

正直、これをあの村に住んでいる人間に話すというのは少し気が引けるものだった。

少なくとも、彼に好印象を持っている人間にとって、これはネガキャンと呼ばれるものに他ならなかったから。

「……ちょっと待ってよ!」

そう言って、今度もまた、全く理解できない彼女は僕に助けを求める。

「どうして? あんなに良い人がそんな事する訳ないじゃん! ましてや、自分も死ぬかもしれないんだよ?」

「そう、皆そう言うんだよね。自分が好印象を持つ人に対しては。何度も聞き覚えのある言葉だよ。『』という言葉は」

「ちょっと、何言って……」

「僕があの人のことを良く思えない理由その一だよ、それ」

そこまで言うと、暫くだんまりしてしまった。かと思えば、良く聞く概念を持ち出してきた。

「じゃあ、根拠はあるの?」

「根拠か……あるにはある。ないにはないね」

「訳わからない……」

「……わかった。じゃあ、解説タイムと行こうか」

そうして、また僕の長話が始まる。


「ラルフさんは、元からあの場所にゴーレムが存在したことを知っていたんだと思うよ。ただ、なぜそこにあるのかは分からなかった」

「ちょっと待ってよ」

また彼女は僕の話を遮る。

「何だよ。人が折角話をしているというのに」

「だって、今冒頭だけ聞いてたけど、断定じゃない。それって、根拠がないんだから事実では……」

「はいはい、そこら辺も後から話をするから」

そう返すと、やっと本当に黙ってくれた。

「まー、知ってたわけだってところだね。そして、何だろう何だろうと思っていたところで村長の家で噴火と身を守る術の話を聞いた。それで、あのゴーレムの役割を悟ったんだよ」

「へぇ」と、興味の無さそうな、いや、納得がいかなそうな相槌を打つ。

「わかってるよ、、でしょ? それにそれは根拠ですらないことも分かっている。まずはそれが、根拠足りえる話をしよう」

そう、話に段落をつけてみる。我ながら、少しかっこいいと思えてしまった。

「ラルフさんは、そこから村長の家を出て、ゴーレムの起動に向かった。何のために? それは、僕にゴーレムを倒させるために、さ」

「はぁ? どういうこと? なんであんな化け物がソーカに倒せるっていう保証がラルフさんに合ったのよ」

「会った時から、僕の実力を見透かしていたんだと思うよ? あの時から、僕を見る目って他と違ってた気がするから」

「……まぁ、視線って一番本人が分かるものだって言うからね。ソーカがそういうのならそうなんだろうけど」

「うん。それで、彼は僕がゴーレムを改良して、噴火から守る術としてきちんとしたものを作るところまで読んでいたのだと思うよ」

「それが本当ならば、もう未来が見えるレベルじゃない」

「うん。つまり、彼は村のために、自分と村が壊滅するリスクを天秤にかけながらも、ゴーレムを起動したんだ」

「へぇ、まぁ、理解はできた。それで、その根拠は? 今度はラルフさんがそれをやったっていう根拠を教えてよ」

「それはね…………」

「それは…………?」

僕は少しだけ長く溜めた。

「彼が僕たちより早く村長の家を出たってことだよ」

「……え? それって、宿に戻るって言ってた時のこと?」

「そうだね」

「それって、根拠なの?」

「確実なものかと言われたら、決してそうではないかもね」

「何それ、じゃあ、今のはバカみたいな話だったの?」

「……そう言われたら何も返すことはできない。村長の家からゴーレムが埋まってた場所まではかなり距離があるから、村長の家を出て、二回目の地震が起きるまでにゴーレムの起動ができたかと言われるとだんまりしちゃうかな」

「……何となく分かった。理由としての辻褄はあってるからね」

「そう、そうなんだよ。そこなんだよ。だから、気持ちが悪いとさえ思えてしまったんだ。根拠がないというのに、理由としては頭の中で構築されきっているんだ。ただ、もうそうとしか呼ぶことが出来ない、そんな一推測がね」

「…………」

「で、もう一つ気持ち悪いと思ったのは、の雰囲気さ」

「…………なるほどね、ラルフさんは、そんなめちゃくちゃな妄想でさえ、事実であると思えるほどの人間性ってやつ?」

「そう」

彼女はまた深く考え込む。そうして、彼女の答えを出した。

「……理解した。でも、私は十中八九、違うと思うな。絶対、じゃない。でも、結局妄想でしかなくて、村長の家とゴーレムの場所の距離という矛盾点がある以上、それを否定できてしまうのだから」

確かにそう、ごもっともである。

でも、僕はその距離の移動を可能にする方法を一つ思いついていた。

それも、アストラルでの一件が絡みつくような、方法が。

「あ、でも、あの人が使っていた『まじっく』というものを使えばそんなこともできるのかもね」

「あ、確かに……」

……でも。

「……でも、あの人が使ってた『まじっく』という術は、魔法じゃない。少なくともあれから……その花からも魔力は感じないんだ」

僕が指を指した赤い花は綺麗に咲き、今でも自分がこの物語の主人公であると言わんばかりだった。

……流石にこれは誇張過ぎるか。

「え、そうなの?」

「え、うん」


ラルフという謎の人間。

彼の纏う妙な雰囲気。

良い人なのか、悪い人なのか、良く分かりもしない。

ただ、アストラルの一軒の犯人ではない。それだけは何故か、確信できた。

ただ、彼の、自分は死なない存在であるかのような、そんな様子に当てられて。

今でもどこか、彼の掌の上であるかのような、そんな感覚を拭うことは、暫くできなかった。

もう、進んで二度とは会いたくなどない。僕にそう思わせた人間だった。

「…………あ」

「どうしたの?」

今になってやっと、彼の向かった方向からは他大陸に出られないことを思い出した。

「……ねぇ、確かレルバからって、アストラル以外への渡り船はでないよね?」

「……確かに。出るならキーシャからだけだね」

もう、今回はこうやって大事なことに気づくのが時間が経ってからだ。

ラルフさんとゴーレムに関しても、僕は魔法陣の作成中に気づいたんだ。

もう、どうしてこんなに事が遅いんだろう。

……まぁ、あの人ならどうにかなるか。

そう、彼女の持つ花を再び見つめながら考える。

もう僕たちは、ミラルルが振り返っても距離が離れているおかげで僕の目が捉えるには小さすぎて見えなくなるほどのところまで来ていた。

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