第3話 必殺殺し
【ひっさつ...?】
奥義を放とうとする私と身構えるデビリアの間に、男が割って入る。
放つエネルギーは私達よりも遥かに大きい。
「くっ!」
彼我の距離では放つ前に止められる。
素早く距離をとり、剣を構え直す。
(遅かった...!)
1対1の状況のうちに厄介なデビリアを倒せば、人間同士で対話が出来る、説得が上手くいかずとも時間を稼ぎ応援が間に合う可能性があがる。
そこに望みを掛けた作戦だったが、男が前に出てきてしまった。
こうなってしまっては今の状況は詰みに近い。
一対二の人数不利。両者共に私との実力差はほとんど無く、片方は戦闘すら行っていない十全なコンディション。
必殺奥義は使えても1回、必殺奥義を使わず勝つ希望は...持つだけ無駄だろう。
悪魔を守るように絶妙なタイミングで出てきた男は恐らくこちらの考えを見抜いている。
時間稼ぎは更に難しくなったと見ていいだろう。
この状況を打破するためには、彼らの攻撃を掻い潜りながらデビリアを必殺奥義にて撃破しなければならない。
しかし、時間がかかる奥義を使える隙を晒すのかどうか。
考えてばかりでも仕方ない─
相手が動き出そうとしている。
「なぜ邪魔をするのですか」
理由は明白だが、あえて時間を稼ぐために問いかけを投げる。
「こいつを殺されると困るんでな」
「なんで出てくるのよ。こんな奴に殺されるわけないじゃない!」
デビリアも望む援助では無いのか。男に食ってかかる。時間稼ぎには成功しそうだ。
警戒をしながらも、息を整える。
隙が出来れば奥義を放つ準備を整えながら。
〜〜〜〜〜
「殺される訳ないじゃない!」
「そんな訳がないだろう。必殺の奥義だぞ?」
吠えるデビリアを宥めるクルス。
「フラムさん、だったか」
なおも吠えるデビリアを無視し、フラムに話しかけるクルス。
「必殺の奥義なんだ、確実にコイツを殺せるよな?」
「─発動すれば倒せなかった敵はいません」
ほら、とデビリアの方を向いて自慢げな顔をするクルス。
「なんでアンタがそんな顔をするのよ。発動前に潰せばいいのよ。魔王様もそうしてたわ」
それを聞いたクルスが呟く。
「発動前に潰す...?」
クルスのエネルギーが途端に大きくなる。
「そうか...エネルギーの大きさからもしや、とは思っていたが。やはり欠陥があるのか...」
臨戦態勢に入ったと感じたフラムはすぐさまエネルギーを高め、奥義を放つ準備をする。
(隙など探していられません!このエネルギーの大きさはまずい!)
「欠陥かどうか試してみますか?死んだ後に後悔しても遅いですがね!」
「受けよ我が必殺の奥義─」
挑発するように宣言し、高まっていくフラムのエネルギー。
デビリアは予想外の大きさに焦り始める。
「ちょ、ちょっと!今すぐ止めてクルス!」
デビリアは限界ギリギリで止める余裕がない。
しかし、そんなデビリアの言葉を聞いてもクルスはその場に立ったまま動こうとしない。
あんな安い挑発に乗るつもり!?とデビリアは叫んでいる。
「挑発?─あぁ、確かに挑発かもな。必殺と言いながら、必ず殺す事が出来ない技なんて、俺にとっての挑発だよな。
いくつもの会心の技を、涙を飲んで
グングンと上昇していくフラムとクルスのエネルギー。
「フラム。俺は必殺技は使わない。あんたを殺したくないからな。
だが、俺の没殺技でアンタの必殺を否定する」
「何言ってんのよ!殺される〜っ!」
デビリアがクルスの肩をガクガクと揺らしている。
しかし、フラムのエネルギーは無情にも最高点に到達してしまった。
(勝った...!)
「
フラムが烈気を持って剣を振る。
するとフラムの目の前に、光り輝く剣を象ったエネルギー体が現れた。
再び剣を振る。
光の剣は分かたれ、2つに増える。
再び剣を振る。
4つに増える。
剣を振る。
剣を振る。
剣を振る。
剣を振る。
剣を振る。
剣を振る。
剣を振る。
剣を振る。
幾度も繰り返す。
その全てが目に見えぬ程の神速を持って行われ、デビリアとクルスの前には壁のような程の密度を持った光の剣の群れができていく。
「喰らいなさい!」
その掛け声と共に大きく剣を振り、群れは二名へと向かっていく。
向かっていく最中にもフラムの剣は止まらない。
ますます増えていく光の剣。
視界のほぼ全てが光で埋まる。
デビリアは頭を抱えて、影に逃げようとするが。
光に照らされて影が消えた。
ならばと、飛んで逃げようとするも、別れて追いかけてきた光の剣を見て慌ててクルスの近くに戻った。
「どうすんのよこれ!もう終わりじゃない!」
涙目になりながらクルスの足に縋り付くデビリア。
「魔王様ーっ!」
「─没殺技...」
喚くデビリアとは逆に、クルスは冷静だった。
「数による空間制圧。ひとつでも当たれば消し飛びかねないほどのエネルギー。追尾も妨害もあり。おまけに、魔を払う力もあるなこれは」
「フラム。良くこれほどの技を作ったとは思う。間違いなく、アンタが普段相手する奴らには必殺なんだろう」
(デビリアの反応もそうだが、魔王も発動を止めた程らしいからな)
「でも、俺はそこでは納得出来なかったんだ」
「没殺技、
ルクスの没殺技は必殺技ではない。
必殺技を生み出す過程で諦められた、必殺技候補達である。
しかし、必殺技候補ということは。
それは間違いなく、何らかに対しての必殺ではあるのだ。
つまり、何が言いたいかと言うと。
「俺はこういう技じゃ無理だと思ったんだ」
ルクスが前に出した手の平に光球が現れる。
濃密なエネルギーの塊。
それをルクスは?
殴った。
光球からエネルギーが弾き出され、向かってくる光の剣とぶつかり爆発を起こす。
「っ!?」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る─
止まらないラッシュ。
もはやデビリアの目にはクルスの残像のみしか見えない。耳には連続する打撃音と爆発音しか聞こえない。
もはや発生した衝撃で吹き飛ばされるのを必死に耐えている状況だ。
「くっ!まだだ!」
フラムは防がれたのを見て、全てを振り絞り剣を振る速度を早くする。
それを見たクルスは再び手を前に出す。
光球が10個に増えた。
殴る振る殴る振る殴る振る殴る振る殴る振る殴る振る殴る振る──
もはや戦場は煙が舞い、目視でお互いの姿を確認することは出来ない。
感じるエネルギーを頼りに一心不乱に剣を振り、光球を殴る。
やがてどれほどの時間が経ったのか...
「ハッ...ハァッ...ハァッ─」
音が鳴りやみ煙が晴れ現れたのは、剣を杖に片膝を着いて、肩で息を鳴らすフラム。
「ふぅ─」
手から多少の血を流しながらも余裕のある表情のクルス。
「──────」
気絶したデビリア。
三名の状況は出揃い。
「必殺奥義、ただの奥義に変えておいてくれ」
呑気にそう言うクルス。
「えぇ、そうしましょう...」
(生きていたら、ですが...)
エネルギーを使い果たし、バタリと倒れるフラム。
決着はついた。
これにて必殺殺し完了。
必殺技を開発したが、ぶつける相手がいない ミトコンドリア大王 @dejin042
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