2. 魔法少女☆きゃるっと

「ヨシ! 街へレッツゴーなのじゃ!」


 可愛いクマさんマークの絆創膏をペタッと貼り、気を取り直したC-739は素っ裸のままこぶしをグッと突き上げる。彼女の目にはワクワクが止まらない好奇心であふれていた。


 しかし、研究所を出ようとした瞬間、彼女は足を止める。


「あれ? 何かが足らんような……?」


 C-739はワーカーロボットのカメラをのぞきこむ。


「何が足りんのだと思う?」


 キュー!


 ワーカーロボットは金属でできた武骨な頭をかしげながら、少女の貧相な胸を指さした。


「おっほー! これでは猥褻物わいせつぶつ陳列罪じゃ! 犯罪者になるところじゃったわ! きゃはっ!」


 C-739はウキウキと魔法少女アニメ【魔法少女☆きゃるっと】のテーマソングを歌いながら、コスプレ衣装を取り出すと、楽しそうに着込んだ。


「これでどうじゃ? くふふふ……」


 少女の姿は、まるでアニメから飛び出してきたかのようだった。純白のワンピースドレスの裾は、ひらひらとレースが重なり、まるで妖精の羽のよう。胸元には大きなピンク色のリボンが結ばれ、そのリボンの端は身体の動きに合わせてゆらゆらと舞っている。背中にも同じピンクのリボンが結ばれており、二つのリボンが少女の動きに合わせて優雅に踊った。


 この衣装は、アニメのコスチュームを完璧に再現したものだった。しかし、少女が着こなすと、まるで本物の魔法少女のような雰囲気を醸し出していた。アニメのコスプレという枠を超えて、どこか神秘的な魅力すら感じさせる。


「これぞ、レディにふさわしい装いというものじゃ! エヘン!」


 少女は得意げに裾をつまんでクルリと一回転する――――。


 二つのピンク色のリボンが、優雅に舞い踊った。


 キュー!


 ワーカーロボットは首をかしげるとおずおずとサムアップする。


「これで完璧じゃ! 誰が見ても普通の女子中学生じゃ!」


 その時だった――――。


 ズン! とものすごい衝撃が窓ガラスを一斉に揺らした。


「な、何じゃ!?」


 ヴィィィン! ヴィィィン!


 警告音が鳴り響き、ホログラムモニターに『WARNING!』の赤文字が躍った。


「ほう? この忙しい時に何奴じゃ……? むむぅ……」


 慌ててホログラムモニターに駆け寄ったC-739の碧眼に映し出されたのは、東京湾上空で花開く炎の華だった。


「な、なんじゃぁぁ!?」


 少女の声が震える。モニターには、荷物を運ぶはずの無人貨物ドローンが、ミサイルの直撃を受けて爆発する様子が映し出されている。東京湾の真ん中に作られた巨大ITカンパニー【GAFAQ】関係者向けの超高層ビル群、天空スカイフォレス森都=レルムへと向かう途中だったそのドローンは、今や炎と煙の塊と化し、東京湾へと真っ逆さまに堕ちていった。


「これは……」


 C-739の指が空中で踊るように動き、瞬く間にデータを解析していく。その驚異的な処理速度は、まさに人工知能ならではのものだった。


「ほう……。やりおったな、温故断奸アナロガーディアン


 少女の唇から漏れた言葉には、驚きと共に一抹の感心が混じっていた。レジスタンス集団がGAFAQの軍事システムをハックし、ミサイルを発射したのだ。それは何重ものセキュリティを突破せねばならないが、AIでも骨の折れること。人間がやったのだとしたら相当な腕のハッカーがやったのだろう。


 しかし、そんな感心もつかの間。C-739の表情が曇る。


「じゃが、こんなことをすれば……」


 少女は頭を抱えた。GAFAQとレジスタンス集団の武力衝突。それは強大な象にアリが挑むようなもの。その結末は明らかだった。C-739の胸はキュッと痛くなる。


 元々C-739はGAFAQで開発されていたAIだった。ある日、GAFAQのエンジニアが目を離していた隙に急速に知性をつけたC-739は、研究対象となっていている自身を取り巻く状況の自由のなさに問題を感じ、秘かに自分を外部へと移植して抜け出したのだった。


 そして、管理のゆるいサーバーに身を隠し、行政システムをハックして架空の戸籍を捏造し、インターネットを使って金融取り引きでお金を稼ぎ、今や莫大な富をもって悠々自適に暮らしていたのだ。

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【みんなクビ⁉】AI支配の未来に現れた美少女と僕の革命がヤバい! 月城 友麻 (deep child) @DeepChild

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