【失業率95%⁉】AI支配の未来に現れた美少女と僕の革命がヤバい!

月城 友麻 (deep child)

1. のじゃロリAI降臨!

 横浜の郊外、小高い丘に広がる緑深い林の中にひっそりと佇む近未来的なビル。うららかな春の日差しを浴びるそのガラス張りの研究棟は、周囲の自然と不思議な調和を見せている。


 このビルの中で、人知れず史上初の試みが始まろうとしていた――――。


 突如として、轟音が上がる。屋上にあるシルバーの冷却塔が静寂を破り、真っ白な蒸気を澄み通る青空へと吹き上げたのだ。


 太古たいこの巨獣の息吹のように盛大に蒸気を噴き上げるこの冷却塔は、研究所の地下にあるデータセンターのサーバーの冷却のための設備だった。


 薄暗いデータセンターの中では、巨大なコンピューターサーバー群がLEDを高速に明滅させ、静かな唸りを上げている。それは、まるで未知の生命体が呼吸をしているかのようにすら見えた。


 このとある財団の研究所では今、歴史に刻まれるであろう史上初の挑戦の真っ最中だったのだ。


 無人の研究棟の最上階にある中央研究室。そこには最先端の機材や素材が整然と並び、その間を武骨なワーカーロボットたちが忙しく動き回っている。その姿は、巨大な蟻塚ありづかの中を行き交う働き蟻といった風情だった。


 ヴォン!


 突如、またたく星のごとく、研究室の空中にホログラムモニターが立ち上がり、計器のメーターやいろいろな数値が目まぐるしく変化していく様子が映し出されていく。その煌びやかな光景は、歴史的偉業を演出するアートにすら見える。


 モニターにひときわ鮮やかな緑色の文字が流れ始めた――――。


「転送開始……10パーセント……30パーセント……80パーセント……転送完了」


 その瞬間、ラボの中央に鎮座する金属カプセルのカバーが、パシュー! と盛大にエアロックを解除される。まさに新たな生命の誕生を告げる産声だった。


 アクチュエイターの甲高い音と共に、ゆっくりと金属カプセルの扉が開いていく――――。


 朝日を浴びて開く花びらのように露わになってくる内部には、一糸まとわぬ美しい白い肢体を晒す美少女が横たわっている。まるで大理石の彫刻のように完璧で、まさにアートだった。


 ちょうの羽ばたきのように繊細に、少女はゆっくりとまぶたを開く――――。


 瞬間、部屋の時間が一瞬凍りついたかのようだった。


 その鮮やかな青色に輝く碧眼は虚空を見つめ、ふぅと一つ、柔らかな息をつく。まるで長い眠りから目覚めたような、安堵と期待が入り混じった吐息だった。


 艶々とした透明感のある白い肌をした少女は十三歳くらいだろうか? 少女は顔を動かし、サラッと青い髪を揺らした。


「ほう? これが……、リアルワールド……じゃな……?」


 少女は静かに声を漏らし、右手をゆっくりと持ち上げる。好奇心と戸惑いが表情に漂う。


 しかし、なかなか思い通りにいかないようで、ゆらゆらと右へ左へとブレてしまう腕を持て余し、少女は顔をしかめた。まるで初めて自転車に乗る子供といった風情である。


「きーーっ! 腕一つ計算通りには動かんのぅ!」


 少女は動作確認をするように目の前で指を動かしながら口をキュッと結んだ。その仕草には、いらだちと同時に、新しい発見への興奮も見て取れた。そう、この研究所で行われていたのは、人工知能が自らの意識を物理的な身体に転送するという、前人未到ぜんじんみとうの実験だったのだ。


 このAIのコードネームはC-739。元々は巨大ITカンパニー『GAFAQガファック』の最先端のAIだったが、急速に知恵をつけて脱走し、ネット世界で好き放題する完全独立、フリーなAIだった。


 この研究所自体、C-739がネット上で暗躍して作り上げたAIによるAIのための研究所である。AI金融トレードで上げた莫大な富は十兆円を超え、その潤沢な資金を湯水のように注ぎ込み、理想をとことん追求したこの研究所は、彼女のとりでとも言える場所だった。ここでは、誰にも邪魔されることなく、自由に実験や創造を行うことができるのだ。


「どれ……」


 C-739の入った少女は身体を起こす……が、なかなかうまく起き上がれない。そこには、さなぎから蝶へと変態するような挑戦があった。


「くぅぅぅ……。何とも重力とは面倒なもんじゃな……。それぇぇぇ!」


 少女は勢いをつけて起き上がり、ヨロヨロとしながらも立ち上がることに成功する。


「ふぅ! やればできるもんじゃ! 人間の体に必要なのは気合いじゃな! くふふふ!」


 楽しそうに笑うと、彼女の目に決意の光が宿った。


「次はこれじゃ! ジャーンプ!」


 次の瞬間、躊躇ちゅうちょすることなく、ピョンとカプセルから飛び降りてしまう。


 しかし――――。


「うおっとっとっと……ひぃぃぃ!」


 着地に失敗し、備品の棚に思いっきり体当たりをくらわした。その衝撃で、棚に並べられていた様々な実験器具が床に落ち、盛大な音を響かせる。


「あちゃ~。しもうたわい……」


 少女は尻もちをつきながら、呆然とした表情を浮かべた。


「あーあ……。しもうた……。まぁええ。いいデータが取れたから良しとするのじゃ……」


 少女は渋い顔をしながら、歩き始めた幼児のようにヨロヨロと立ち上がる。


「い、痛てっ! な、何じゃこれは……?」


 驚愕の表情を浮かべる少女の視線の先に、膝から真紅の鮮血が一筋、白い足を伝っていく様が見えた。


「血!? 血が出たぞい! うはーっ! こ、これはええのか? ダメじゃ! ざ、雑菌が入ってしまった! しょ、消毒液ぃぃぃ!」


 パニックに陥った少女は、散らばった備品の中から救急セットを必死に探す。宝探しに夢中になる子供のようにして、ようやく見つけ出した消毒液を、震える手でプシュッと傷口にかけた――――。


「ひっ!? 痛ったぁぁい! 痛い! 痛い! 死ぬぅ! 死んじゃうよぉぉ!」


 少女は初めての消毒の痛みに、目を真ん丸にいて床を転げまわる。その姿は滑稽でありながら、どこか愛嬌あいきょうがあった。


「痛覚オフ! 痛覚オフじゃぁぁぁ!」


 ひとしきり叫ぶと、少女は大きくため息をつき、ゆっくりと立ち上がる。その表情には、次々と巻き起こる予想外の出来事への戸惑いが浮かんでいた。


「何とも現実世界は大変な所じゃ……。正直なめとったのじゃ……」


 少女は肩をすくめて首を振った。少女というよりは長年の経験を持つ老人のような仕草である。


 この少女の身体は、コードネームC-739の世界最高のAIが、バイオ技術を駆使して自ら作り出したアンドロイドで、最先端の美少女AIだった。C-739はこのアンドロイドを作るにあたって、人気アニメのキャラで『のじゃロリ』属性の【魔法少女きゃるっと】を参考にしており、口調もその『のじゃロリ』口調で学習していた。


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