TRPG -飽きないみそ汁理論と創造性-

柳明広

本編

■はじめに


 「テーブルトークロールプレイングゲーム(以下TRPG)」という遊びをご存じでしょうか。

 「テーブルトップロールプレイングゲーム」という呼称の方が正しいそうですが、前述の呼称の方が日本では広く知られています。

 私はこの遊びを三十年近く続けています。同じ遊びをそんなに、と驚かれる方も多いと思いますが、TRPGにはそれだけの魅力があります。


 その魅力を伝えると同時に、私はある方にこの遊びをすすめたいと思いました。

 それは、「口下手」だったり、「人づきあいが苦手」だったりする方たちです。そういう方たちが悩みを解消するのにTRPGはうってつけの遊びだからです。


 前半ではTRPGの解説や前述のような方にすすめる理由を述べ、後半では私がなぜ三十年近くもTRPGを遊び続けているのかについて書きたいと思います。


■そもそもTRPGって何だ?


 TRPGは

「ゲームマスター(以下GM)を中心に、プレイヤーたちが各々一人のキャラクターを操り、シナリオに書かれている目標のクリアーを目指す遊び」

です。

 コンピュータゲームにたとえるなら、GMがゲーム機で、プレイヤーがコントローラーを握ってゲームを遊ぶ側となります。プレイヤーは大規模オンラインゲームのように、自分の分身・キャラクターを自作して、GMが用意したシナリオに飛びこんでいきます。そして、シナリオに書かれた目標を達成するために動きます。

 このとき、他のプレイヤーは競争相手ではなく、基本的に仲間です。お互いが担当するキャラクターの能力を存分にいかし、目標達成のために突き進んでいきます。


■TRPGの面白さとは


 TRPGの面白さのひとつに、「物語を作ること」があげられます。

 先に述べた、プレイヤーが操るキャラクターには個性があります。力が強い、魔法が使える、という能力的なものもあれば、人に優しい、勇気がある、といった性格的なものもあります。

 こういう個性を持ったキャラクターたちが、協力し、目標達成を目指しているうちに、自然と「物語」ができあがっていきます。昨今の言葉でいうなら、TRPGは「ナラティブな遊び」と言えるかもしれません。

 ゲームをクリアーし、振り返ってみると、何らかの「物語」ができていた、という体験は、コンピュータゲームではなかなか味わえないものです。その「物語」は参加者たちだけのものであり、他の人とは共有しにくい、まさにカスタムメイドなものと言えます。

 TRPGは「創造的」なのです。


■なぜ「口下手」「人づきあいが苦手」な方にうってつけなのか


 キャラクターには個性があると述べました。プレイヤーはその個性に沿って動くことが求められます。

 たとえば、心優しいキャラクターなら困っている人をほうってはおかないだろうし、勇気のあるキャラクターなら率先して敵にぶつかっていくでしょう。プレイヤーはそのようにキャラクターを演じる……これをTRPGではロールプレイと呼びます……必要があります。

 そう、TRPGには演劇的な要素がふくまれているのです。

 「口下手な方」は「演劇的」と聞いただけで引いてしまいそうですが、はじめから上手くやる必要はありません。二回、三回、四回と経験を積んでいくことで、自然とできるようになっていきます。しかも、何度失敗しても大丈夫、無限のトライ&エラーがほぼ約束されていると言っても過言ではありません。

 「人づきあいが苦手な方」も同じです。基本的に、協力して任務を達成することが要求されるTRPGでは、プレイヤー同士が話しあいをすることがよくあります。

 はじめは中に入りづらいかもしれませんが、これもトライ&エラー。何度もやっていくうちになれていきます。

 何度失敗してもいいのですから、社交性や社会性を磨くのに、TRPGはうってつけであると私は思います。


■三十年も遊び続けられる理由──飽きないみそ汁理論


 ひとつの遊びを三十年近く遊び続けられるというのは凄いことだと思います。私も、こんなに長くつきあうことになるとは思いもしませんでした。TRPGはもはや、たまにする「遊び」から、「趣味」の域に達していると言ってもいいでしょう。

 では、なぜ飽きずに遊んでいられるのか。

 理由は二つあり、「TRPGにはたくさんのシステムがある」ことと「『飽きないみそ汁理論』が適用される」ことがあげられます。


 TRPGにはたくさんのシステムがあります。コンピュータゲームにもたくさんのゲームがあるのと同じです。

 今は「TRPG=クトゥルフ」と思われがちですが、クトゥルフ以外にも多種多様なシステムが存在します。それぞれがまったく別のゲームなので、自分に合うシステムを見つけられれば、無限に遊び続けることができます。

 そう、無限に遊び続けられるのです。

 TRPGは創造的な遊びです。ゲームの目標を記したシナリオや、自分が操るキャラクターは、基本的にシステムに沿って自分で作ります。ここに創造性があり、参加者を飽きさせない構造があります。


 もうひとつの理由が「飽きないみそ汁理論」です。これは私が作った造語です。

 みなさんはみそ汁を作ったことがありますか。作ったことがなくても、両親が作ってくれたみそ汁を飲んだことはあるのではないでしょうか。

 そのみそ汁がおいしいかまずいかは別として、「飽きた」と思ったことはありますか?

 みそ汁は冬場になると毎日出てくることが多い料理ですが、私は飽きたことがありません。

 これはひとえに、毎回、同じみそ汁に見えて微妙に異なる味のものが作られているからだと思います。

 たとえば、みその量、だしの量など、作り手が意識できないレベルで、前回とは異なる味つけでみそ汁は作られています。食べる方も意識できないほどで、この微妙な味の変化が「飽きないみそ汁」を作りだしています。

 レトルトのみそ汁の場合、毎日食べていると、確実に飽きます。これはレトルトはすべての製品が同じになるように作られているからです。微妙な変化が起こりにくいため、飽きが来てしまうというわけです。


 TRPGにも「飽きないみそ汁理論」は当てはまります。

 TRPGは遊ぶ過程で様々な外的影響を受けます。参加者のちがい、体調の変化、シナリオの微妙な修正、システムの変化、しゃべり方の変化、部屋の空調、外の騒音などです。GMをふくむ参加者たちが気にしていなくても、TRPGは遊ぶたびに変化しているのです。

 この微妙な変化によって、TRPGは何度遊んでも飽きない楽しさを私たちに提供してくれます。

 その結果が、三十年近いTRPGとのつきあいにつながりました。

 私はまだ、TRPGに飽きていません。まだまだ遊び足りないと思っています。


■TRPGが助けてくれた子供時代


 小学生のころ、私は真面目な生徒でした。通信簿にそう書かれ、親からも言われるほど、真面目でした。

 ですが、面白い人間ではありませんでした。

 私のまわりには、面白い子供がたくさんいました。冗談を言って笑わせる子、絵が上手な子、物真似が上手い子──私は、真面目であっても、誰かを楽しませたり笑わせたりできるような子供ではありませんでした。

 そういう、自分にはない部分を、TRPGが埋めてくれました。

 TRPGという道具があれば、友達を楽しませられるし、笑わせたりもできました。TRPGが持つ創造性、作りだされる物語も私を魅了しました。

 TRPGが私になかったものを与えてくれたといってもいいでしょう。

 TRPGのおかげで、大勢の友達に恵まれました。学校を卒業しても、社会人のTRPGサークルに所属することで、年齢も経歴も異なる人たちと大勢知りあうことができました。中にはLGBTQ+と呼ばれるマイノリティに属する方もいて、大変勉強になりました。TRPGを通じて得た仲間は、私の宝です。

 TRPGは本当に、私にたくさんのものを与え、教えてくれました。


■終わりに


 TRPGは創造的な遊びです。シナリオ作り、キャラクター作り、キャラクターの絵を描く、小物を作るなど、遊び方は無限です。それゆえ、飽きずに長く遊び続けることができます。

 もし、あなたがまだTRPGを遊んだことがないのなら、一度でもいいので遊んでみてください。TRPGが持つ創造性をはじめとしたあらゆる魅力の虜になることは間違いありません。

 TRPGが、あなたの人生を豊かなものにすることを願っています。


(了)

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