第43話 襲来! 最恐の姉!
福里さんとの挑発的な写真を、彼女のお姉さんである雲英さんに送ってから数日が経った。
授業は再開されていて、そのあいだにも今か今かと待ち構えている。
いきなり殴り込んでくるかと思っていたけど、そんな気配もない。
待てば待つほど緊張感が増していくから、早めに来てくれないかと思ってしまった。
ところ変わって、タイマンの授業。
いつものように福里さんがチェンソーを掲げて勝負を挑んでくる。
「はぁあああっ!!」
唸る刃を避ける僕。
福里さんはすぐに切り返し、攻撃の手を緩めることはなかった。
一番最初はこの隙を突いて僕が勝利したけど、今では素早く動けるようになっているために、その手は使えなくなっていた。
彼女のTierは1と2を行ったり来たりしているものの、その実力は以前とは比べものにならないほど高くなっている。
「今度こそっ、勝つ……!!」
僕の顔面ギリギリに振り下ろされる刃。
彼女の目を見ながら、次の動きを予測して避け続ける。
そして疲労からか動きが乱れたところで、僕は一気に攻勢へと転じる。
避けただけと思わせて福里さんの背後へと回り、背中側から心臓を一突きした。
「はぁっ!」
「このっ、どこからっ……!?」
モニターに表示されてるゲージが一気に30%まで削れる。
でも彼女は落ち込むことなく、むしろ楽しそうに前を見た。
「結構……アタシ、いいとこまで食らいついたっしょ」
「うん! すごくいい動きだったよ」
「ハッ……! それじゃあ、続きを――」
そう彼女が言った瞬間、観客席から声が轟く。
「楽しそうなツラしてんじゃねぇか、愛凪ァ!」
「ひぃっ!?」
野太い声を聞き、福里さんは反射的に僕の後ろに隠れる。
ブルブルと震えており、さっきまでのような堂々とした気迫は消えていた。
声がしたほうを見る。
そこには大きなギャルしかいないここの女子たちをも凌駕する、巨大なシルエットが腕を組んで睨んでいた。
こちらを威嚇でもするかのような赤い髪が揺れる。
襟の長いウルフカットのような髪型だ。
ロングのスカートを履き、さらしで巨大な胸を包んでいる。
そこから見える腹筋はしっかりと割れていて、リアルでも強いのが見て取れた。
黒い上着を袖を通さずに羽織り、遥か上から僕らを見下ろしてくる。
あれが福里さんのお姉さん。
褐色じゃないけど間違いないだろう。
番長、って感じだ。
そしてやっぱりグラサンをかけている。
少し青みがかったもの。
僕は一歩踏み出し、その女性に声をかける。
「あなたが……福里さんのお姉さんですか?」
「あぁ。出来の悪ぃ妹が世話んなったみてぇだなぁ?」
覇気を漂わせながらこちらに向かって歩いてくる。
近づけば近づくだけ、その大きさがよくわかった。
僕は手を少し広げ、福里さんを庇うような姿勢を取る。
いつ彼女が連れ去られてもおかしくないからだ。
観客席にいるみんなも、このただならぬ空気に注目する。
翠玲、先生、そして芽那ちゃんはそのなかでも特に緊張している面持ちだ。
しかし、まだお姉さんは武器を取り出していない。
すぐに戦闘に入るということはなさそう。
フィールドで向き合うと、その目の鋭さに後ずさりしそうになる。
「あのバカみてぇな写真に写ってたのは……お前だな?」
「はい」
「なんであんなもんを愛凪に送らせた? 煽ってんのか? お前、そんなタマには見えねぇぞ?」
「この状況を作るためです。福里さんの転校を考え直してもらうためにお姉さんと話し合いたくて、ここまで来てもらえるよう動きました」
僕の言葉を聞き、彼女は嘲笑する。
「ハッ! 考え直すわけねぇだろうが! そもそもコイツは元から『
「……そうなの?」
福里さんのほうを振り向いて聞くと、彼女は小さく頷いた。
「校風が合わないんだとよ。生意気だよなァ? で、よりにもよってこんなタイマンそっちのけなギャルばっかの高校に入っちまったってわけだ。ったく、情けねぇったらありゃしねぇ……もっと早くに連れ戻しておくべきだったんだよなァ……そうだろ、愛凪ァ!」
「ひ、ひぃいっ!」
お姉さんの剣幕に福里さんは怯え、僕にしがみついてきた。
そんな彼女の手を触り、なんとか落ち着いてもらおうとする。
「……それでェ? お前はなんの権限があって家の事情に口出ししてくんだ? お前は愛凪のなんだよ? あ?」
「僕は――」
友だち。
その言葉が出かかった。
でもこれじゃ弱い。
きっと一蹴されてしまうだろう。
もっと強い言葉で返さないといけない。
話に参加することを認めざるをえないような、そんな関係性……。
僕は顔を上げ、お姉さんのほうをまっすぐに見て伝える。
「僕は、愛凪さんと将来を誓いあった仲です!!」
大声でそう叫んでやった。
ここまできて中途半端なのは許せないと思ったから。
響き渡る僕のその一言に、会場はどよめく。
「せ、せ、せ、せいちんと愛凪ちゃんがぁああ!?」
「おい、青霄! 俺とも誓おうぜ!?」
「将来を誓いあったって……わーしにはわかんないけど、えっちな仲ってことー?」
驚きを露わにするみんな。
でも一番驚いていたのは他の誰もでもない福里さんだった。
「は、羽黒……!? ほ、へ?」
「今は僕に合わせて……!」
「……う、うん」
顔を真っ赤にする福里さんに、僕は小声でそう伝える。
一方で彼女のお姉さんは動じず、こちらをただ見ていた。
「将来を誓いあった仲、ねぇ……なるほど。男って生きモンを初めて見たがよ、こんなにもバカだとは思わなかったなァ」
「僕は本気ですよ。だから……この仲を引き裂こうとするのは許せません。それがたとえお姉さんであっても、全力で阻止します!!」
これで少しは説得力が出たかどうか。
福里さんに無茶振りをするような形になったけど、ここは耐えてもらうしかない。
ちなみにこの島には結婚という制度こそあるものの、形骸化している。
女性しかいないことや1人の親でもしっかりと子を育てられる環境や設備もあることから、今ひとつ浸透していない。
だから余計に僕の一言は注意を引いたのだろう。
「愛凪、お前はどうなんだよ? まだ転校する気はねぇのか?」
「あ、アタシは……」
震えている福里さん手。
僕はそれを静めるようにして、手を添えた。
すると彼女は頷き、お姉さんのほうを見て口を開く。
「ハッ……! 変わらないっての! せ、青霄と一緒にいるつもりだから! 姉貴と一緒になんか行くもんか! バァーーカ!!」
「ほう……?」
福里さんの言葉を耳にしたお姉さんは、拳を鳴らしながらわかりやすく青筋を立てる。
ビキビキという血管が浮く音がこちらにも聞こえてきそうなほどだ。
あんなデカい手で殴られたら入院待ったなしだろう。
というか、僕がさっき勢いで愛凪さんと呼んでしまったのに合わせてくれたのか、彼女も下の名前で呼んでくれている。
それがなんだか嬉しい。
と、呑気なことを思っているあいだにも、お姉さんの怒りの色は濃くなっていく。
福里さんはまた怖がって僕の影に隠れてしまった。
「愛凪とは散々話をしたんだが……これじゃあ
「……いいですよ、僕が受けて立ちます」
そう答えると、お姉さんは大きく首を横に振った。
「いいや、足りねェ……!」
「えっ?」
「愛凪、お前も一緒にかかってこい!」
「……あ、アタシもっ!?」
「当たり前じゃねぇか! これはお前のこれからを賭けた戦いだろうが! 当の本人がギャラリーに回るなんてバカな話があるかよォ」
お姉さんは僕、そして福里さんとまでタイマンをすると言い出した。
「
「……お姉さんは誰と組むんですか?」
「誰でもいいだろ、そんなもんは。適当なヤツを引っ捕まえてくるだけだ。試合は1週間後、この場所でやってやるよ。文句はねぇな?」
「はい。……負けませんから」
「ハッ、言ってろ」
彼女はギロリと目を動かしながら、フィールドから元の学園に戻ろうとスマホを操作しだす。
しかし途中で手を止め、僕のほうを見た。
「……あと、そのお姉さんってのやめろ。私はお前の姉貴じゃねぇんだ」
「じゃあなんて呼べば……」
「
そう言い残し、雲英さんは消えてしまった。
その瞬間、福里さんは僕の服を握っていた力も抜けて座り込む。
「だ、大丈夫っ!?」
「あぁ、大丈夫……ちょっと気が抜けただけ」
「そっか……。ごめん、結構ハッタリかましちゃって」
「いいや。その……かっ、カッコよかったよ、アンタ」
「そうかな、ははっ……ありがとう」
素直に褒められ、僕は恥ずかしくなって笑った。
残された時間は短い。
それまでになんとかして雲英さんを倒せるように、愛凪さんとの相性を高めておかないと。
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小さな僕は、でっかくてウブなギャルたちの景品になりました~タイマンゲームに負ければ勝者の言いなりのようです~ 佐橋博打@ハーレムばかり書く奴🥰 @sahashi-bakuchi
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