第52話 ホテル


「ところで、ステラはまだ子供なのに、メイドなの?」


 アキラは疑問に思っていた事をラピスに聞いた。


「そうですね。普通、子供は職業を持ちません。しかし、子供にもレベルがあり、限界まで来ると、職業とレアリティが自動再抽選されます。他の子と比較して早いですが、いわゆる飛び級みたいなものと考えて下さい。アリアの英才教育と彼女の生い立ちのせいでしょうね」


「なぜ、メイドに?」アキラは、薬師のアリアと旅をしてきたのに不思議だった。


「そうですね。本人の資質で選択されますから。旅の間、アリアは薬師の仕事だけで、ステラが生活の事をやっていた気がしませんか?それと、ステラは勉強が苦手かも」


「確かにそうかもね」ラピスの推察は、間違っていない気がする。そう考えると彼女達の関係も理解できる気がする。


「でも、大事なのはそこではありません。レアリティです。SRの彼女は、魔物と戦えます。ノクスと同じです。職業も、2つ持ちます」


アキラは、ゆっくりしようと川に魚釣りに行ったが、才能が無かったようだ。帰りにギルドホールに顔を出した。アリアの部屋によると、彼女は戻ってきていた。部屋で、薬作りの作業に集中していた。


「アリアさん、何を作っているのですか?」

 

 アキラが尋ねると、部屋に招かれて説明を聞く事になってしまった……


「いわゆるポーションですよ。私も作った事がないものもあり、研究しながらになりますが。ここら辺の森には、本当に宝の山です。普段見かけない草が生えています。都会で売れば、高額なものもありました。これとかですね……」


 アリアの顔は、まさしく研究者の顔で、嬉しそうに細かく説明されたが、アキラは興味が無かった……


「気をつけて下さいね。森は危ないですからね」


「本当に森の入り口だけです。それに、少しは、戦えますよ。毒薬とかで。実は、セレナさんやノクスさんに草やその他のものをお願いしていまして。買い取らせて頂く話をしているのです」


「そうなのですか?」毒薬とか、買い取りとか、知らない話が出てきてアキラは内心驚いていた。


「それでお願いなのですが、もちろん、村の方の病気の場合は、ただで薬は提供させて頂くのですが、それ以外で普通に作る分は買い取ってもらえないかと思いまして」


「それは構いませんよ。喜んで!」


「厚かましいお願いですが、薬草畑も作って良いですか?」


「土地ならありますから、ご自由に。でも、他の場所に行かれる予定とかは?」


「少し留まろうと思います」


 会話をしていたら、ガチャリと扉を開ける音がした。顔を出したのは、セレナ、ノクス、ルナ、ステラだった。


「あ、アキラ……」セレナのリュックは、ぱんぱんに膨らんでいるし、ルナの背中や、ノクスの手にも、土の着いた草が握られていた。


「そうだ。手を洗いに行こう!」


 言うが早いか、セレナ、ルナ、ノクスは荷物を置いて、駆け去った。別に小遣い稼ぎで怒ったりはしないのだけど。ラピさんはどう思うか知らないけど。


「あら、こんなに沢山。茶葉もありますね。ステラ、いつものお茶を淹れてもらえるかしら」


「はい、じゃあ、ギルドルームのダイニングでお待ちしています」にこりと笑いステラは茶葉を受け取ると、キッチンに向かって出て行った。


「ステラは、メイドになりました。神の意志、彼女の意志で。村にいた時より、楽しそうです。同い年の友達より、アキラさんやお姉さん達が好きみたいです」


 アリアは笑った。


「そうですか。寂しいですか?」


 失礼だと思ったが、どうしても聞きたかった。


「いいえ。ステラの美味しいお茶をいただきにまいりましょう、アキラさん」

アリアは、微かに笑い、さっと周りを片付けて、席を立った。


 ギルドルームのダイニングにつくと、なぜか、セレナもノクスもいて、一緒にお菓子を焼いていた。いい匂いが漂う。


 エルフ特製の胡桃と藍苺のパンケーキと紅茶。


「蜂蜜やっぱり必要、ノクス」


「小遣いは許すけど、パンケーキは許さない」


 ラピスの声が小さく聞こえてきた。


ギルドルームの上下水道の工事は、応急的には夜までには完成した。


 「まだまだ作成途中ですが、一応使えます」


 セレナやルナ、ノクスは、森から翌日以降に必要になるだろう木材の切り出し作業を夜まで行い、村の中心に積み上げた。


 ギルドルームでの夕食の後、ダリオスとの簡単な打ち合わせを行なった。


 アズーリア村からの引き上げた物を村人と確認して、足りないものや住宅建設に必要な物をリストにしてもらい預かった。


「明後日から町に行きますから、明日またリストを下さい」



 深夜寝静まってから「宿屋」を設置する事にした。どうせ朝になったら、驚かせてしまうのだが、設営方法は見せたくない。

 

「少し離れた、川辺の近くに建てよう!」場所を確定して、設営ボタンを押す。次第に浮き出てくる建物。


「これ、宿なの?」いわゆる宿屋ではなく、避暑地の高級ホテルが出てきた。


「ライト!少し、中を見て回って、家に帰る事にしよう」アキラファミリーというべきセレナ、ルナ、ノクス、ステラを連れて、お宅拝見と洒落込んだ。


 1Fの車止めのある綺麗なエントランスから、中に入ると、豪華なシャンデリアと

深い絨毯。正面に受付、右手に食堂、左手は、ラウンジ。2F以上は、宿泊施設なのだそうだ。


「何これ、ふかふか」絨毯を汚しそうで、歩くのも躊躇してしまう。


「ラピさん、立派すぎでは?」


「いえ、今後、他国の来賓が来たり、泊まられることもありますので」


「アキラ様の家ももっと立派にしよう!」珍しくステラが何故か対抗意識を表に出してる。


「もちろんです」ラピスも同意見だった。

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