魔王城の執事様

再々試

第1話 就任1日目


「失礼します。

魔王様、お呼びでしょうか。」


ここは魔界の魔王城。

長年執事として魔王城に仕えている羊人の

シプジは魔王の部屋に突如として呼び出されていた。


「来たか。

実はお前に頼みたい仕事があってだな、

今日からお前は私の娘の養育係になってほしい。」


「セオリー様のことですね。

確か産まれて7年になりますか。」


「ああ、そうだ。

それでだなそろそろ部屋から出しても危なくないんじゃないかと考えているんだ。」


「ええ、私もそう思います。

むしろ遅いくらいだと。」


「しかしだな。

ここ魔王城は危険な場所だ。

幼いセオリーが危ない目に合うかもしれない。

だから大丈夫な歳になるまでは部屋から出さないというのはお前も賛同していただろう。」


「てっきり5歳までくらいかと、」


「まあいい。

それでだ7歳とはいえまだまだ子供。

この魔王城を歩くには危険だ。

それでお前は養育係としてセオリーの面倒を

見てほしい。

さすがにそろそろ外の世界にも触れておかないとだしな。」


「畏まりました。

その役謹んでお受けいたします。」


「頼んだぞ。」


___

魔王城 セオリーの部屋


「失礼します、セオリー様。

今日から養育係となるシプジです。」


そう言ってシプジは部屋の扉を開けようとした。

その瞬間だった。

物凄い勢いで何かがシプジに抱きついてきた。

思わず体制を崩しそうなった。

その何かはシプジに抱きつきながらこう言った。

「セオリー

セオリーだよ。

ねえねえ早く外に行きたい。」


ぱっちりした丸い目。

ふわふわした長い髪。

幼い見た目には合っていない上品で落ち着いた服装。

その者こそが魔王の1人娘セオリーであった。

ジプシは体制を立て直しながら言った。


「ごきげんよう。セオリー様」


「ごきげんよう。

ねえねえ外に行けるんだよね。

早く行きたい!」


セオリーは興奮しながら言った。

よほど外に行きたかったのだろう。

セオリーの様子もさることながらセオリーの

部屋も同様に彼女の外に対する期待を表していた。

そこら中に絵が貼ってあったのだ。

恐らく彼女の想像上の外の世界の絵だろう。

カラフルな絵もあればとにかく紙いっぱいの

物もある。

考えてみれば当然だ。

ずっとこの部屋から出る事が出来ずに

毎日同じ光景を目にしていれば外に対する憧れがこうもなるのは当然だ。

セオリーには色んな物を見せてやろう。

そう思いシプジはセオリーを見た。

が、そこにはもはや誰もいなかった。


「セオリー様?」


辺りを見渡す。

等間隔で蝋燭の灯っている薄暗い廊下が広がっている。

しかし耳を済ますと遠くで足音が聞こえた。

軽いパタパタとした音だ。

セオリーは恐らく待ちきれずに自ら出ていって

しまったのだろう。


「セオリー様、お待ちください。」


ダッと駆け出す。

この魔王城は彼女にはあまりにも危険すぎる。

そこかしこに危険生物がおり気を緩めたら死ぬ恐れもある。


(何ということだ。

まさか初日から失敗をするとは。)


シプジは持っていた自分の杖を変形させて

小さなボードを作った。

付いている舵をとってセオリーを追いかける。


(どうか間に合ってください。)


一方その頃セオリーは初めての魔王城を心の

底から満喫していた。


(凄い沢山の像がある。

電球もすごいぴかぴかしているしとっても広い。)


と、その時何かがセオリーにぶつかってきた。

耐えられず転んでしまった。


「痛いよー」


大粒の涙がセオリーの頬を流れていく。

ぶつかった犯人は悪びれもせず言った。


「邪魔だなー。

何でちびっこがこんな所にいるんだ。」


ぶつかったのはガーゴイルという小さな悪魔だった。

手のひらサイズだが石の様に重くさらに口が

悪かった。そしてガーゴイルこんな事が出来た。


「まあいいや。うるさいし石にしちゃおう。」


そう言うと口を目一杯に開けた。

口の奥から赤い何かが光った。

それはセオリーの方へ向かってきた。


その時ガキーンという鈍い音がした。


「何だよ。邪魔するなよ。」


「それはこちらのセリフです。」


自身の杖でガーゴイルの攻撃を跳ね返した

シプジは泣いているセオリーに

近づき言った。


「申し訳ありません。セオリー様

私が目を離したばっかりに。」


そう言うと杖を変形させ動く椅子にしてセオリーを乗せた。


「さあお部屋に戻りましょう。

魔王城の探検はまた明日からにしましょう。

今日はもうおやすみしましょう。」


そう声をかけ2名は薄暗い廊下を進んでいった。

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