ほんものとにせたもの


 カレーを食べたことがない。

 そう言うと、友人は「もったいない!」と言った。


「絶対に食べた方がいいよ! 食べたら人生、もっと広がるんだからっ」


「だろうな。あと、カレーを食べたことはないけど、スナックのカレー味を食べたことはあるんだ。だからなんとなく、イメージはできる。カレーってこんな感じで美味しいんだろうなあってさ」


「本物のカレーとカレー味のスナックじゃ全然違うよ! 似てるけど……本物には勝てないよ!」


 それはそうだろう。

 スナックはカレー味を再現しているのだから、カレーを越えることはないはずだ。


 カレーとはどういう料理なのか。それを分かった上で、再現できない部分は省いて、可能な限り、カレーに近づけたのが、カレー味だ。劣ることは織り込み済みだ。


 あくまで再現。ニセモノではなく似せたものであり、劣ってはいても単品で食べればマズイということはない。もしもマズイなら、それはカレー自体がマズイということになる。

 似せた対象の――元のカレーのせいだ。


「美味しいから食べてみなよ!」


「まあ、うん。いつかね。ひとまずカレー味で満足してるから、無理に食べることはしないかな」


 カレーとカレー味。

 ほとんど同じだろう。


「同じなわけない! カレーとカレー味は……全然違うんだから!」


「全然違うってこともないだろ。だってカレーを参考にして、それに近づけようと作られたのがカレー味なわけだし。これがもしも、カレーを真似して作りましたショートケーキです、と言われて出され、食べて満足していたら全然違うから本物のカレーを食べてみな、と言われるのは分かる。だけどカレーとカレー味だ。少なくとも寄せにいっているのだから、まったく違う味だ、とはならないだろう?」


「それは、そうだけどさ……」


「おれはカレーを食べずにショートケーキを食べて、カレーに満足しているわけじゃないんだろう? だったらまだ食べなくていいよ、カレー味でいい。カレー味で満足できているんだから、カレーはいらないんだ」


「そっか……」


 なんだか納得いってなさそうな友人が、肩をすくめて、諦めたようだ。

 説得してくれるのは嬉しいが、おれにも好みがあるし、食べる労力も時間も必要で、そこに割くおれ自身のやる気がない。


 近いもので代用し、満足できているならそれでいいのではないか?


「えっと……カレーの話だけどさ、元々はなんなんだっけ?」


「エロい話だろ? だからカレーでたとえたんだよ」


 ここはファミレスだ。

 元の話をそのままできるわけもなかった。


 たとえなのでカレー自体は意味がなかったりする……だってカレー、まさに今食べてるし。


「カレー、美味しいでしょう?」


「マズイと言ったつもりはないけど。あと、カレーより美味いカレー味のスナックだってあるぞ?」



 了

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これ、友達の話なんだけど 渡貫とゐち @josho

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