第2話その3 秘密のおはなし
「可愛い弟妹ですね。」
明堂院さんはソファーで眠る二人の頭を撫でている。
……彼女にはいくつか聞きたいことがある。
なんで般若の子は私の家にやってきたのかだとか、なぜクロリアさんの名前を知っていたのかとか。
だから、家に上がってもらっていた。
「二人には少し、術をかけさせてもらいました。私としてはここからの話を、あまり人に聞かれたくないのです。」
藍ちゃんはニヘラァと笑っている一方で、ゆうくんの顔は少し赤くなり、汗をかいている。
「まあ、安心してください。二人は各々、幸せな夢を見ているはずです。」
「ゆうくんの様子がちょっと変なんだけど?」
「うぅん?どんな夢を見ているのでしょうか?」
しばし様子を伺っていると、ゆうくんは寝言で「お姉ちゃん……。」と呟いた。
「まあ、私が夢に出て来てるなら大丈夫か……。」
「どんな自信ですか、それ。」
「だってゆうくんは私のことが大好きだし。」
今はちょっと早めの反抗期が来ているだけで、本心ではお姉ちゃんが大好きなはず。その証拠に、幸せな夢の中に私がでてきたのだ。
「ふふっ。
明堂院さんは笑っている。
しかし、今の彼女の笑顔は、さきほど神社で、あるいは学校で見るときのそれとは違っていた、と思う。
さっき、クロリアさんの名前を読んだ時と同じく、どこか陰っている。
「家族の
「えにし?」
「えん、といった方が伝わるでしょうか?人と人の繋がりのことです。私には……それが見えるのです。」
手で作った輪っかを通して、明堂院さんの目が覗く。
「クロリアさんと湊さんも、仲がよさそうですしね。」
「え?」
明堂院さんは私とクロリアさんの髪に、スンスンと交互に鼻を寄せる。
「同じシャンプーの香りがします。」
彼女はジトっとした目線で私を見つめる。……そんなこと言われても。
「そんなわけないでしょ。私とクロリアさんは今日会ったばっかりだし。」
「……。」
クロリアさんも黙ってうなずいている。
たまたま同じ匂いを……ってことはないだろうから多分明堂院さんの勘違いだろう。
「……きっと、ただの勘違い。」
「まあ、そういうことにしときましょうか?」
次はクロリアさんのことをじっと見つめている。
何故かクロリアさんは目を逸らしているし。やっぱりよく分からない人だ、クロリアさん。
……それにしても、明堂院さんは中々本題に入ろうとしない。
話すことにためらいがあるのだろうか?
「ところで湊さんは……あの、力強いですって。」
「あ、ごめんなさい。つい。」
振り返ると同時に手を合わせようとした明堂院さんの手を、反射的に掴んでしまった。
すぐに手を離す。
『さすがに明堂院さんも、こんなナチュラルに催眠を使うことはないでしょ。』
二回も催眠をくらって、無意識のうちに警戒しすぎていたようだ。
「もう、湊さんたら。ただ私は、湊さんがクロリアさんのことをどう思ってるのか、本心を聞きたいと思っただけですのに……。」
「催眠を使おうとしてたってこと!?というかその質問はなに!?」
「……私も知りたい。」
「クロリアさんまで悪ノリしないでください!……別に私は。」
一層明堂院さんへの警戒を増しつつも、質問への答えを考える。
「さっき会ったばかりの人だし、どう思うも何も……。」
「……。その、湊さんは左肩を抑える癖があるのですか?」
そう指摘され、自分が確かに左肩を抑えていることに気づく。
「えっと……いや、そんなつもりは無いんだけど……。」
「……まあ、なくて七癖。自分では気づかないものですからね。」
言いながら何故か、彼女はまたクロリアさんの方を見つめている。
そしてまた何故か、クロリアさんは目を逸らしている。
左肩がピリッとする。
「そろそろ、本題に入って欲しいんだけど。……なんであなたはクロリアさんのことを知っていたの?」
「ああ、そうですね。順を追って、話していきましょう。まず私と、かお君……楠木馨君について。」
彼女は語り出すその前に、一つ念押しした。口元に指を一本添えて。
「秘密ですよ?」
明堂院さんは、少しずれ下がっていた狐のお面を結びなおした。
「かお君は、私が今から7年前……小学三年生のときに出会った、年上の男の子です。」
私は、当時のことを思い出しながら語り始めた。
あのとき、確かかお君は中学1年生だったから、4歳差かな。
「かお君は私の親戚で……あまり友達のいない私と、よく遊んでくれました。」
神社の子で、人ならざる者が見えて、よくない出来事を招いて……気味悪がれていた私とほとんど毎日遊んでくれていた。
中学生なのに小学生と遊んでいたから、同級生の悪ガキから『誘拐犯』だなんて呼ばれたこともあったけど、気にせず会いに来てくれた。
「女の子や子供とも平等に接するをモットーに、鬼ごっこや将棋、テレビゲームなど、あらゆる遊びでぼこぼこに負かされましたが。」
「ひど……。」
「でも、ずっと一緒にいてくれて。かお君がいて、私は毎日楽しかったです。」
「……。そっか。」
由愛ちゃんは、話を聞きながら柔らかく笑ってくれる。
秘密はむやみに、誰かにさらけ出すものじゃない。
未熟ながらも巫女として、様々な妖や曰(いわ)くと関わってきた経験が、そう思わせる。
本当に必要な人、本当に特別な人だけに伝えるものなのだ。
ずっと一緒にいてくれると言ってくれたかお君のこと。
私がどんな厄介事を招いても助けに来てくれたかお君のことを、私は……。
「だから私は……かお君のことが大好きでした。」
「っっっ!……そ、そう。」
全く知らない人の話のはずなのに、深く親身になって、私の告白に顔を赤くするぐらいには真剣に聞いてくれる由愛ちゃん。
可愛い。
「でも、かお君は高校一年生のとき、亡くなりました。ちょうど、今の私たちと同じ年のときです。」
私はつとめて笑顔で、心の水面が荒れないように、口にした。
異世界転生してTSダークエルフになった俺、現実世界に戻ってきたらツンデレとヤンデレに迫られて困ってます 國玉きたみ @kunitamakitami
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