第43話
すると。
「心配しいひんでも、」
前を見据えたまま、昂季がぼそりと声を出した。
「帰ってから、僕の部屋でまたあの猫に会えますから。あの本の中で」
言い捨てると、昂季は歩く速度を速め先先と神社の入り口の方へ向かい始めた。
穂香はきょとんとその場に立ち尽くし、数回瞬きをする。
寂しがらなくてもいい――もしかしら昂季は、そう言いたかったのだろうか。
励ましてくれたのかな。
胸がほっと温かくなり、穂香の口もとは自然と綻んでいた。
昂季のすらりとした後ろ姿は、既に数メートル先の闇の中を進んでいる。
「待ってくださいよ、昂季さん!」
真夏の八大神社の夜の境内に、パタパタという軽快な足音が、先を行く静かな足音に織り交ざって微かに響いていた。
おわり
京極荘と百匹のうた猫 番外編 ユニモン @unimon
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