私の好きな橘先輩

安東アオ

第1話

 朝起きてテレビを付けると、興奮した様子のキャスターが映っていた。


 私は知らなかったんだけど、男子バスケットボールのW杯が沖縄で開催されているらしい。


 トースターに食パンを突っ込み、ケトルに水を入れる。待ってる間ボーッと画面を眺めた。


 パリ五輪に王手?

 日本大逆転勝利?

 ふぅん、良かったじゃん。

 あ、あの選手イケメン。


 昨夜行われた試合のハイライトと、さっきのキャスターよりも興奮している実況らしき人の声。ファンの大歓声も凄い。


 バスケのニュースをやるなんて珍しいな。

 映画もずっとやってるし人気なのかも。


 マグカップにインスタントコーヒーとお湯を入れ、トーストにバターを塗る。ダイニングテーブルにそれらを置いた時、画面に見覚えのある人が映ったような気がした。


「た、橘先輩……!?」


 胸にJAPANと大きく書かれている赤いTシャツを着ていて、拳を高く掲げ喜んでいる男性。よっしゃーって叫んでるようにも見えた。


「え、ちょ!? 今の観客もう一度流してよ」


 理由は違うけど私まで興奮中。

 いや、パニックになってると言ったほうが正しいかもしれない。


 髪型も仕事の時とは違ってゆるふわな感じでメガネもかけていなかったけど、間違いないと思う。だって有給取って休んでるし。


 それに……ずっと片思いしてるし。


 無口でクールな橘先輩の意外な一面に心臓がうるさくなった。






 土日を挟み月曜日。

 いつもより早めに会社に行って、デスクで橘先輩を待つ。


 あれからあのシーンが何回もテレビで流れたけど、絶対に橘先輩だった。私服は意外とカジュアルなのかな。直接見てみたいな、なんて。


「何だ、今日は珍しく早いな? これお土産。悪いけど他の奴にも配っておいてくれ」


 見慣れた姿の橘先輩が出社してきた。

 きっちり整った黒髪にスーツにメガネ。


 どう見てもテレビに映っていた人とは別人。

 でも、お土産とくれたのは沖縄で有名な紅芋タルトなわけで。


「あの、こないだの木曜日にバスケの日本代表戦を観に行っていませんでした? ニュースで似たような人が映ってたんですけど」


 次の瞬間、橘先輩の顔が茹でタコみたいに真っ赤になった。


 か、可愛い!

 写真撮りたい!


「……会社の奴にバレるとは思わなかった。凄いな、お前。他の奴らに内緒にしといてくれたらありがたい」



 いやいや、凄いのは先輩の変わりようですから!


 それに私だけの秘密にしたいから、他の人に言うわけないですよ。


「じゃあ、今度私も試合に連れて行って下さい。ニュース見てバスケに興味を持ったんです」


 次に繋げるために嘘をついた。

 先輩のこともっと知りたいです。

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