第3話 年齢とおじさん特有のアレ


 ――どうも神です。

 今日は何やらボルサが楽しそうに話している様子。

 けれどもカイムは何故か不満気な表情だ。

 不穏な空気が感じ取れるが、早速聞き耳を立てていこう。



「――――でな! こん時のゴブロウが言ったことが傑作でよ!」


「その話……まだ続くんですか?」


 ――とうとうカイムが口を開いたか。

 だが何がそんなに不満なのだろうか……?


「何だよ……? 俺の話、面白くねーのか?」


 ――確かにな?

 人が楽しく話しているというのに、何なんだって感じだよな?

 


「いや、面白かったですよ……一度目・・・はね」


 ――ん? 一度目……だと?

 ボルサ……君、まさか……!?


「なっ……! まさか俺……この話、前にも……?」


 ――そんな事……。

 だとしたらカイムにとってこれはかなりの苦行だったはず……。



「えぇ……。この話を聞くのは21度目です」


 ――21ィ……!?

 流石にそれはやってるわボルサ……。


「そんな……。まさか俺が……"おじさん特有のアレ"を……?」


 ――おじさん特有のアレ……。

 それは……無意識のうちに何度も同じ話をしてしまうというもの。名前はまだない。



「僕も大人ですから……? 何度かは目を瞑りましたよ? 最初のうちはまるで初めて聞いたかのように反応もしました。ですが流石に21回は……。限度ってものがあるでしょう?」


 ――立派だ……立派過ぎるよカイム……!

 私なら二回目で『あ、その話前に聞いた』って言っちゃうもん。

 凄いよあんた……。


「すまねぇ……。まさか俺がそんな事を……。しかも21回なんて……とんでもねぇよな……」


 ――うん。素直に謝れて偉いなボルサ。

 普通のおじさんはこういう時、絶対に謝らないからな。

 大抵は『俺の話は何度聞いても面白いんだからいいだろ!』とか言い始める始末。

 だから君はおじさんなのだと私は言いたい。


 

「流石にちょっと酷いですけどね……。それよりボルサさんっておいくつでしたっけ?」


 ――確かに聞いてなかったな。

 いくつくらいなんだろうか?

 おじさん特有のアレが発症してしまうくらいだからそこそこいっているのだろうか?



「ん……? 俺は今年で386歳だ」


 ――えっ……大ジジイじゃん……。


「魔族は長命ですからね。人間で言うと?」


 ――あ、確かにそれもそうね。

 そうなると、少し変わって来るかも……?


「人間でいうところの……そうだなぁ。38歳くらいか?」


 ――ちゃんとおじさんじゃん……!

 実は意外と若かったりして? とか期待したわ!


「あ、ちゃんとおじさんだったんですね。どおりで……」


 ――おぉ、カイム……。序盤は私と同じ反応だったけれども、最後の一言は余計だと思うぞ……?


「どおりでってお前! ……って、まぁ俺がおじさんなのは事実だしな……。それよりカイムは何歳なんだ?」


 ――ほら、やっぱりツッコまれたぁ……ってアレ?

 意外と素直に引き下がったな……?

 流石にさっきのおじさんムーブの発覚が尾を引いているのか?

 それよりカイムの年齢か……。

 カイムは落ち着いているし、こっちは逆に見た目より意外と歳食ってたりして……?



「僕は18歳です」


 ――えっ……若ァ……。

 そんな若かったのか、カイム……。

 それにしては落ち着いているな?

 18歳なんだったらもう少しはしゃいでもいいのではないか……?


「見えねぇ……。ぜってぇ20は超えてると思ってたわ」


 ――そうだよな、私もそう思うぞ。



「酷いですね。僕ってそんなに老けて見えますか?」


 ――いや、老けてるっていうか落ち着いてるとかいうか……?

 な? ボルサ?


「老けてるっつうか、何かジジくせぇんだよ。妙に落ち着き払ってるところとか爺ちゃんみてぇ」


 ――ちょっとボルサ……!?

 それはあんまりだぞ!?

 カイムにだって何かがあってこうなったのかもしれないだろ……!?



「まぁ確かにそうかもしれませんね。ケーキよりも渋みのある果物の方が好きですし」


 ――爺さん認定するところ、絶対そこじゃないと思うぞ?


「だよなぁ、わかるぜ」


 ――君もかボルサ……!?

 何故、二人して好みが年寄りなんだ……!



「でも実際、ボルサさんは顔のシワが目立ちますよね。見るからにおじさんですよ」


 ――おっと……カイムによる唐突なボディブローが……。

 たとえ気付いていたとしても言わなくていいじゃない……。

 デリカシーが無いのか、君には……!?


「確かにそうなんだよなぁ……。年々、目尻とかデコのシワが増えてってる気がすんだよなぁ。気にしてはいるんだけど、中々どうして増えるのが止まらねぇんだよ」


 ――いや、もっと怒っていいところだぞボルサ……!?

 あ、でもカイム自身も悪口のつもりで言っているわけではないのか……。

 ボルサの顔にシワがある事も、彼がおじさんである事も事実だし……?


「自覚ありでしたか……。あ、僕の顔を見てくださいよ。まだまだツルツルですよ?」


 ――さりげなく自慢するのやめなさい?

 おじさんに対してそれは"若さマウント"だから……!


「いーなぁ……。俺、この戦いが終わったらエステ行こうと思ってんだよな」


 ――ヌルッと死亡フラグ立てるのやめなっ!?

 あと、この世界にエステとかあったのか!?


「ぷッ……。いや、もう……手遅れかと……ぷっ」


 ――笑い過ぎだよカイムくん。

 いい加減にしなさい。


「やっぱそうかなァ……」


 ――どうしちゃったんだよボルサ!?

 いつもなら『おい、お前ェ!? 馬鹿にしてんだろォッ!?』って怒鳴り散らすだろ!?

 なのに今日は妙にシュンとしちゃってさ!?

 そんなに自分がおじさんだった事がショックだったのか!?



「やってみないとわかりませんけどね。でもハッキリ言えるのは"この戦いはあと数ヶ月は続く"という事ですね」


 ――つまり、ボルサは最低でもあと数ヶ月はエステを受けられないと……。

 可哀想に……。



「そうだな……。ったくよォ、いつまでこんな戦いを続けんのかね? 意気揚々と戦ってんのは勇者と魔王様だけじゃねーか」


 ――その節は本当にすいません。

 私がその二人を転生させたばっかりに……。


「まぁいいんじゃないですか? この戦いがあったおかげで僕はボルサさんと出会えたわけですし、こうして無駄話も出来ているのですから」


 ――カイム……!

 なんて良い奴……!


「カイム……! お前はなんて良い奴なんだ……!」


 ――うんうん……!

 そうだよな……!

 カイムは良い奴だ……!


「…………今のだいぶ気持ち悪かったですね。やっぱりさっきの無しで」


 ――おいっ……!?

 前言撤回だァ……!!


「何ィ……!? じゃあさっきの俺の言葉を返せ!」


 ――そーだそーだ!

 危うく感動して涙を流すところだったぞ!


「言葉は返せませんよ? 物じゃないのですから」


 ――うぜぇー。

 うざい屁理屈来たァ……。


「確かにそうだ。言葉は返せねぇもんな」


 ――本当にどうしちゃったんだよ、ボルサ!!

 頼むからいつもの勢いに戻ってくれ!?


 

「あ、そうこう言っているうちに今日の戦いは終わりそうですよ?」


「ん? あぁ、本当だな。今日はやけに早いな」


 ――えぇ……もう終わりー?

 もっと二人の無駄話を聞きたかったぁ……。


「明日に備えての事ではないですかね?」


「かもしれねぇな。――――あ、そうだ! 明日はよ、"転生"について話さねぇか?」


「おぉ、いいですね。転生したら何をするかとかですか。楽しそうです」


 ――えっ……! 何それ、凄く気になるんですけど!?

 明日も絶対聞きに来ます!


「だろ? じゃあ、明日もまたここで――――」


「はい。また、この岩陰で――――」



 ――あぁ、終わってしまった……。


 こうして二人は各々の拠点へと戻って行った。

 そして明日も、そのまた次の日も。二人はこの岩陰で無駄話をする為に集まるのだろう。転生勇者と魔王の戦いが続く限り――――

 

 ――異世界転生の片隅で。二人のモブによるサボタージュよ、永遠に……。


 ★



 ここまで読んで下さりありがとうございます。

 こちらの作品はカクヨムコンテスト10の短編【ネクスト賞】に応募しています。


 文字数制限の為ここで一度完結させますが、小さなネタさえあれば長く書ける作品ですので、あわよくばカクヨムネクストで連載したいと考えております。


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異世界転生物語・外伝〜モブキャラ達のサボタージュ〜 青 王 (あおきんぐ)👑 @aoking1210

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