第2話 弁当と癖と変な間と


 ――どうも神です。

 いやはや、今日もどんな会話が繰り広げられるのか楽しみだ。

 早速、聞き耳を立てていこうか。

 


「よォ、カイム。聞いてくれ。今日はなんと! 俺は弁当を持って来たんだ!」


 ――ほう……弁当とな……?

 しかもボルサはやたらと自慢げ……。

 カイムはどんな反応をするのだ?


「へぇ。弁当……。手作りですか?」


 ――あ、思いのほか反応薄いね……。

 そりゃそうか、ただの弁当だもんね?


 

「ンだよ、反応薄いなぁ……。あぁ、手作りだ。見るか?」


「えぇ、是非」


 ――ボルサはきっと『えぇ!? 手作り弁当ですか!? いーなぁー! 僕も食べたい……!』といった反応を期待していたのだろう。

 だがカイムは冷めた男だ。この反応もまぁ仕方ない……。


 

「へへっ。どうだ? 美味そうだろ?」


「…………これ誰が作ったんです?」


 ――確かに誰が作ったのか……私も気になるな。

 


「気になるか?」


「気になります」


「ふっふっふっ。なら、教えてやろう。これを作ったのは……俺の嫁だ!」


 ――えっ……ボルサ結婚してたの!?

 私ですらまだなのに!?


「へぇ…………そうなんですね。じゃあ・・・美味しそうです」


 ――カイムもボルサみたいな奴・・・・・が結婚しているなんてショックだよな?

 わかるぞ、その気持ち……。

 ん? "じゃあ・・・"が気になるね……?


 

「じゃあって何だよ、じゃあって!? しかも今、何か変な間があったな!?」


 ――やっぱりボルサも気になったか。

 まぁちょっと含みがあったよね?

 何をかはわからんけども。

 

 

「はぁ……。じゃあ、じゃあって言った事は謝ります。申し訳ありません」


 ――あら? カイムにしては素直に謝ったな……?

 そしてボルサもすぐに許した……。

 いつもならもう少し揉める感じなんだけどなぁ。

 

「別にいいわ、もう……。じゃあさっきの変な間は何だよ?」


 ――確かに……!

 話してる相手に変な間を空けられたら気になるよな!?

 わかる、わかるぞ……ボルサ!

 


「変な間なんてありませんって。弁当をよく見て、誰が作ったのかを考えていただけです」


 ――そうなの……?


「嘘つけ! 俺の嫁が作ったって言った後に変な間を空けただろ!?」


 ――うん、でも確かにカイムは変な間を空けていた!

 私もそう思うぞ!

 


「だから……空けてませんって」


 ――いーや、絶対空けた!

 

「いーや、ぜってー空けた!」


 ――なぁ? そうだよな? ボルサ?


「はぁ……。空けてないって言っているでしょう……。怒りますよ?」


 ――なんと綺麗な逆ギレだ……。

 カイムちゃん、へそを曲げちゃったぞ?

 どうするのだ、ボルサ?

 


「わかった。じゃあこの玉子焼きをやるからさっきの変な間の意味を教えてくれ」


 ――えぇ……そんなので話してくれるのかぁ……?


「なら、その玉子焼きを僕が貰って、その唐揚げと交換しましょう」


 ――斜め上を行くね!?

 それ、交換になってないよカイム!?


「いや、それどっちも俺の弁当の中身なんだが? 交換の意味がわかるか、参謀さんよ? 頭良いんだろお前……!?」


 ――その通りだボルサ!

 君は間違っていない!

 

「参謀だからといって頭が良いとは限りませんよ。例えば弁当箱に卵焼きと唐揚げが入っていたとします。あなたはどちらを食べたいですかって話です」


 ――は……?


「ん……? 意味わからんぞ? どういう事だ?」


 ――うんうん、全然わからないな?

 

「つまり、両方食べたいということです」


 ――コイツ……。

 

「お前……俺を馬鹿にしてんだろ」


 ――さっきのはよくないな?

 ボルサが怒っても無理ないぞ?

 謝れカイム! ボルサに謝れぇ!


 

「馬鹿にしてませんよ。こんなにも美味しそうな弁当を作る奥様をお持ちで羨ましい限りです」


 ――絶対馬鹿にしてたよ、今のは!

 訳のわからない理論武装ほど神経を逆撫でするものはないからね!?

 言い返せボルサ!


「そうだろう? 俺の嫁はスゲェいい女なんだぜ?」


 ――おいおいボルサ……話をすり替えられているぞ?

 気付けぇ?

 

 

「えぇ、それはこの弁当からも伝わってきますよ。奥様が、安月給で末端兵であるボルサさんの為に早起きをして頑張って作っていたのが目に浮かびます」


 ――またカイムはそうやって……。

 一言余計なのだよ君は……。


「…………やっぱお前、俺を馬鹿にしてんな?」


 ――ほら、ボルサも怒りが再燃しちゃったよ。

 どうするのだ、カイム?


 

「だから馬鹿になんてしてませんって。何もかもが平凡なボルサさんのような方でも、素敵な奥様を貰える事もあるのだなと希望に胸を膨らませているだけです」


 ――馬鹿にしていないと言いつつも、更に悪口を重ねていくとは……。

 この男、とんでもないな……。

 

「それが馬鹿にしてるって言ってんだよ……! さっきから嫁を褒めるフリして、ちょくちょく俺の悪口を挟んでいる自覚はあるか……!?」


 ――そうだそうだ!

 もっと言ってやれー!


「はい……自覚しかありません」


 ――自覚あったのね!?

 驚いたよ、私は……。

 驚きすぎて手に持っていた飲み物をこぼしちゃったぞ。どうしてくれるのだ。


「自覚しかねぇのかよ!? 認めんなよ! もっと食い下がれよ!?」


 ――そうだよな?

 ここまで来たら否定し続けて欲しかったよな?

 

 

「何なんですか、さっきから……。ボルサさんは馬鹿にされたいのか、されたくないのかどっちなのですか?」


 ――何ですかってカイム、あんたねぇ……。

 ボルサ? ここはハッキリと言ってやりな!

 こういう男は無自覚に人を傷付けるタチの悪いタイプだからね!?


 

「ンなもん……馬鹿にされたいに決まってんだろ……!」


 ――えぇっ、そっち……!?

 まさかのそっちなのかい、ボルサよ……!?


「えぇ……。ボルサさん、あなた所謂"マゾ"ってやつですか?」


 ――形勢逆転だね?

 ボルサがソレ・・ならカイムは何も悪い事はしていない事になるぞ……寧ろご褒美だ。


「違ぇわ! ただ、嫁を褒められつつお前に雑な悪口を言われるのは……何だか悪い気がしないだけだ……」


 ――ボルサ……それでは何も違っていないぞ……。

 

「真性じゃないですか……」


 ――おっしゃる通り……。


「うっせぇよ……! だったらお前はどうなんだカイム! お前も、俺を馬鹿にして良い気分になってんじゃねぇのかよ!?」


 ――確かに……!?

 ボルサがマゾならカイムだってそうなるよな!?


「全然そんな事ありませんよ。今のなんて馬鹿にした内に入りませんから」


 ――お、おぅ……。


「お前も真性じゃねぇか……」


 ――そだね……。相手が悪かったなボルサ……?





「てかよ、お前……勇者への苛立ちを俺で発散してるよな?」


 ――あ、そういう事……?

 だとしたら良くないなぁ。

 八つ当たりは法律で禁止すべきと私は思うぞ?

 

「うーん……。そんなつもりはないですが、ボルサさんがそう思うのならそうなのでしょうね」


 ――素直……?

 いや、これは『めんどくさいなぁ』って思っている時の顔だ……!


「いや、そういうのは普通自覚あるもんだろ……」


 ――そうだよな?

 何を開き直っているのだ、カイム!

 ボルサも呆れている場合ではないぞ!



「まぁいいじゃないですか。それよりその弁当、全部下さい」


 ――良くない!

 ちゃんと話をつけるべき!

 弁当はその後!


「丁寧な言葉を使ってりゃあ何でも許されると思うなよ? やり口がガキ大将じゃねぇか」


 ――それはそう。


「そんな事思ってませんし、ガキ大将でもありません。ただ美味しそうなので食べてみたいだけです」


 ――そんな安易な褒め言葉で騙されるとでも思っているのか?

 いくらなんでもカイムはボルサをナメすぎだな?


 

「チッ……わーったよ、いいよ。ほら、全部やる。明日からは嫁にお前の分も二つ作ってもらう事にするわ」


 ――あげちゃうの!?

 しかも明日からは二つ持参!?

 

「それはいくらなんでも奥様に負担が掛かり過ぎでは? 作ってもらうのは私なのに僕の分だけでいいです」


 ――それは君が言う事ではないよカイム……。

 しかも、もう食べ始めてるし……。

 

 

「何でだよ!? 一つだけなら俺のもんだろがよ!?」


 ――そらそうだ。

 

「ならボルサさんのだけでいいので作ってもらいましょう。それを僕が全て頂きますので」


 ――何でそうなる!?

 

「それだとお前の分だけ作ってもらうのと変わんねぇじゃねーか!」


 ――そうだそうだ!

 これはさすがに反論の余地は無いな?


「そうですか。こんなに美味しいのに残念です。ボルサさんが食べられないなんて……」


 ――カイム……君ってやつは……。


「まだお前が全部食う前提かよ……。カイム、お前……よく性格悪いって言われねーか?」


 ――うん、私も思うぞ。

 カイムは性格が悪い、いや。終わっている。


「………………言われません」


 ――今、変な間を空けたな……。

 

「言われるんだな……」


 ――さっきの間はそういう事だな。

 

「…………」


 ――そうなのね……カイム。

 これからはもう少し性格を改めような……?


 

 こうして不毛すぎる言い争いは幕を閉じ、二人は互いの性格に若干の癖がある事を知った。


 ――いやぁ、白熱したぁ……。

 やはり二人の会話は聞いていて飽きないね。

 明日もまた楽しませてもらおう。


 こんなやり取りを続けたボルサとカイムだったが、次の日もまたこの場所に集まるのだった。

 そしてこの暇を持て余した神(ファン)もまた、二人の会話を聞きにくるのだった。

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