異世界転生物語・外伝〜モブキャラ達のサボタージュ〜
青 王 (あおきんぐ)👑
第1話 神と魔人と人間と
――――皆は"異世界転生"をご存知だろうか。
現代日本から異世界へ転生した主人公達が、神より授かった特別な力によって
――どうも、私は"神"です。
まぁ神といっても私は、最高神様から命の選別という役目を仰せつかっているだけの云わば末端の神なのだけれど。
そんな私の仕事はただ死んだ人間を異世界へ転生させるだけではない。
自らが転生させた人間が新しい世界でちゃんと生きているかを確認するのもまた大事な仕事なのだ。
そしてとある日。いつもの様に異世界へ転生させた者達を観察していると、彼らはその世界の勇者と魔王になり、互いの正義をぶつけ合い戦っていた。
――あぁ、またこの展開……。
もう飽きたのだが……?
そう思っていると、激しい戦乱の中――――ちょっとした岩陰に隠れ、戦闘に参加していない
――こんなもの、気になるに決まっているだろう?
私は自らが転生させた勇者と魔王など捨て置き、その岩陰にいた二人に注目した。
そして話を盗み聞いていくと、二人はどうやら長々と続くこの戦いに
――面白い。実に面白いじゃないか……!
この二人は物語でいうところの"モブ中のモブ"。
いてもいなくても世界に何ら影響を及ぼさない存在。
そんな彼らは何を思い、こんな所で何をしているのか。
――気になる……気になり過ぎる……!
私はその日から彼らの"サボタージュ"を観察するようになった。
◇
「あー、今回の戦いも長引きそうだなァ……」
――彼の名はボルサ。魔族陣営の末端兵士で口が悪く、頭も悪い残念な男だ。そんな彼は今回の戦いも長引きそうだと愚痴を吐いている。
「はい、そうですね。前回の戦闘がだいたい二ヶ月くらい続いたので、恐らく今回もそのくらいは続くのでは?」
――こっちの丁寧な口調で話す彼は国王軍の参謀カイム。若いというのに何を悟ったのか知らないが、何事にも無関心で基本的にやる気が無い男だ。
「有り得ねぇ〜……。どんだけ戦うのが好きなんだよアイツら。なぁカイム、勇者に今回はもう引き上げよう的な事は言えねーのかよ? お前参謀だろ?」
「はぁ……。何度も言ってますよ。戦いが長引くと、食料や水も無くなりますし、何より兵の士気が下がりますからね。なのにあの
――基本人任せなボルサはさておき、カイムは流石参謀といったところか。戦いというものをよく理解しているな。
にしても……ちょっと力を与えたくらいで戦闘狂に成り下がるとは、私は転生させる人間を間違えたか?
「お前も可哀想な奴だなぁ。つってもまぁ、雑魚兵士の俺に戦いを止める力なんてあるわけねぇし、そもそも魔王城にいる時の方が仕事は多いし? 俺はここでお前と駄べってる方が気楽でいいわ」
「同感です。私なんて非戦闘員の参謀ですよ? しかも
――戦地へ赴くより本来の仕事の方が忙しいとは、これもモブの宿命なのだろうな。
いやはや可哀想に……。
「下っ端ってのはどこも同じなんだな……。――――てかよ、知ってっか? 魔王様やそっちの勇者が元いた世界には、魔族なんていなかったらしいぜ?」
「そうなのですか? なら、魔物による被害もこんな不毛な争いも無かったのですかね?」
「いや、争いはあったらしい。人間同士でな……」
「なんと愚かな……。同族同士で争うなど……この"人魔大戦"よりも不毛ではありませんか……」
――そうなのだよ……。
人間とは愚かな生き物。
同族で争い続けるなんて馬鹿の極みよなぁ……。
「そうだよなァ……? でもよ、その争いがあったおかげで世界は飛躍的に発展したらしいぜ?」
「皮肉な話ですね……」
――そう。そこが解せんのだよ。
争いによって生まれた物は無数に在る。これもまた事実。
そう考えると文明を発展させる上で、争いは必要だったのかもしれないな。まぁ愚かである事は変わりないのだが……。
「で、次はその発展した技術の利権争いでまた揉めるらしい」
――そう、堂々巡りだ。
他種族同士で争いを続けているこの世界の方が、余程健全で平和だと思うわ……。
「なるほど……。それであれば、異世界から来た勇者と魔王が戦闘狂なのも頷けますね……」
「まったくだ……」
――否! 否であるぞお前達!
あっちの世界にだって争いを好まない者も沢山いる!
私が転生させた馬鹿二人が力を得た事で調子に乗っちゃっただけだ……!
頭がおかしい戦闘狂なのはその二人だけ。だから勘違いするな!?
「それより何故末端兵であるボルサさんが異世界の話を知っているのです? 魔王と親しいわけでもないでしょう?」
――おっと……カイムのせいで二人は勘違いしたまま話が変わってしまったようだ……。
でも確かにそうだな?
この世界で生きる者があっちの世界の事を知っているわけがない。
知っているのは神である私と、転生者の二人だけのはずだが……?
「ん? あぁ、それは魔王様が贔屓にしてるサキュバスの姉ちゃんが昔馴染みでよ。そいつに聞いたんだ」
「何と……。この人魔大戦の真っ只中に、サキュバスを贔屓に……!?」
――何をベラベラと喋っているのだ転生魔王よ……。
馬鹿なのか、馬鹿なのですか!?
いや、それよりサキュバスの色気に鼻の下を伸ばしてアホ面を晒しているだけか……。
だとしたら適応能力が高すぎやしないか?
まだ転生して十数年だろう!?
「つっても勇者にだって、お気に入りの姉ちゃんくらいいるだろ? ほら、王族の姫とかよ?」
――そうだな?
転生魔王にサキュバスがいるのなら、転生勇者にだってそういう子がいてもおかしくないよな?
どうなんだ、カイムよ?
「いますよ? 姫様も勇者をお慕いしているみたいですし。ですが……うちの不敬でバカな勇者はそれを蔑ろにし、毎日剣ばかり振っています」
――バカな……。いや、勇者として生きるのならそれで正しいのか?
いや、それでも自分に言い寄って来てくれる女性を蔑ろにして剣を振り続けるのは馬鹿だろう……。
男として健全ではない。
「バカだなそれは……。どんだけ"魔王絶対殺すマン"だよ、気持ちわりぃ……。そんな奴は不敬罪で処されちまえばいいのに」
――気持ちわりぃ!? 言い過ぎだな……!?
「まったくです」
――ちょ、カイムまで……!?
「おい、それカイムが頷いていいやつなのか……!?」
――そうだそうだ……! もっと言ってやれボルサ!
「別にいいでしょ。参謀の作戦を無視するなんて、即刻処刑でもいいくらいです」
――それだけで処刑は物騒が過ぎるぞ、カイムよ……。
「やたらと根に持ってんのな、それ……」
――ボルサ……これからカイムの事は怒らせないようにしような?
どんな扱いを受けるかわかったもんじゃない……。
その後も二人は他愛もない会話を続け、明日もまたこの岩陰に集まる事を約束し、それぞれの拠点へと帰って行った。
――いやぁ、今日も楽しませてもらったな。
二人の会話を聞いていたら自然と熱が入ってついツッコミを入れてしまう。
私の声が彼らに届いていない事は理解しているのだがな。はは。
さて、ではこれからも二人の会話を聞いて楽しませてもらおうかな。
こうしてボルサとカイム、そして神による無駄話は明日も続く――――
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