平和と空とあの七日間

ごく普通の日本人

第1話

中学三年生の彼は歴史の授業中、太平洋戦争の悲劇について語る教師の言葉をぼんやりと聞いていた。戦争なんて遠い過去の出来事だと感じていた彼だったが、ある日、図書館で見つけた古い地図に触れた瞬間、不思議な光に包まれ、気がつくと昭和十九年の日本に立っていた。

目の前には爆撃を避けようと走る人々、空を覆う爆音、そして焦げた匂い。現代では考えられないほどの恐怖と混乱が彼を襲う。途方に暮れる中、彼はある少年と出会う。少年の名前は翔太。十六歳で特攻隊に志願し、出撃を目前に控えていた。翔太は、自分の家族や仲間のために戦うことが名誉だと信じていたが、彼にはその覚悟が重く、切なく映った。翔太と時間を共に過ごす中で、彼は戦時中の人々の思いや葛藤に触れる。翔太の家族が泣きながら見送る姿、空襲で亡くなる人々、そして戦争を止められない無力感。戦争の現実に直面し、これまで漠然としていた「平和」の大切さが胸に迫る。この世界に来てから七日目、ついに翔太が出撃する日が来た。彼は、どうにかして彼を止めたいと思うが、自分が時代を変えてしまうことの恐ろしさも感じる。「お前の時代では、俺たちのことを忘れないでくれ。それが俺たちの生きた証だ」と微笑む翔太を見送り、彼は涙を流す。

再び光に包まれ、現代に戻った彼は、胸に込み上げる翔太との記憶を整理できずにいた。教室の窓から青空を見上げると、どこかで聞いた戦闘機の轟音がよみがえる。だが、それは戦争の音ではなく、平和な空を飛ぶ航空ショーのものだった。

「翔太が見たかった空は、こんな青空だったんだろうか……」と彼は思った。その日から、彼の中で変化が生まれた。戦争の悲劇を「過去の出来事」だと思うのではなく、そこで生きた人々の思いを伝えることが、現代を生きる自分の使命だと感じ始めたのだ。

彼はまず、学校の図書館に入り浸り、特攻隊についての調べ学習を始めた。翔太が語っていた「仲間や家族のため」という言葉が何を意味するのか、自分なりに解釈するためだった。資料を調べ、さらには、戦争体験者の証言を聞くうちに、翔太だけではなく、数えきれない人々が未来を願いながら命を失ったことを知る。

ある日、彼は図書館で見つけた古い地図を再び手に取った。地図には、かすかに翔太の名前と「ありがとう」の文字が残されていた。それはまるで、翔太が自分を見守ってくれている証のようだった。その瞬間、彼の中で翔太との思い出が一つの決意に変わった。

その後も彼は平和に関わる活動を続けた。翔太との時間が、彼の心に確かな軸を与えたのだ。戦争の記憶を未来へ伝えるという彼の旅は、まだ始まったばかりだった。青空を見上げながら、彼は静かに祈った。「翔太、君の空は平和だよ」と。

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