第3話:妖狩人

 

 【大神戦乱夜神楽】の世界には妖怪や神の他にも精霊と呼ばれる者がいる。

 この世界に主要……というか、妖怪を倒す職業の人達はその精霊や神等と契約して力を得るらしいのだが。その精霊に愛される才能というのが、とても大切なのだそうだ。


 そんな事を思い出しながらも俺は、目の前に浮かぶ精霊達に視線を送る。

 俺の視界の中で飛び回り遊び回る精霊だろうそれ、原作でも描かれていた見た目だから分かるが、最初はめっちゃ怖かった。


「ひえんー遊ぼー」

「ひえん構えー」

「まだ喋れないのー?」


 赤ん坊に何を求めてるか知らないが、生まれて一年も生きていない俺に対して楽しそうに喋りかける精霊達。


 愛くるしく可愛らしい見た目のそいつらは、俺の周りを飛び回るのみので何もしない。それと、たまに腕を動かして彼等を触ったりすると、わかりやすく喜ぶのでそれが面白いなと思うのは精神が赤ん坊に引っ張られているからだろうか?


『そうだ緋炎よ、今暇か?』

『暇だけど……どうしたんだよ迦具土』

『今の貴様でも出来そうな修行を思いついたからな、やらせようと思ったのだ』

『……修行って面倒くさいのは嫌だぞ?』

『いいから受けろ、妾の契約者が簡単に死ぬのは見たくない』


 赤ん坊を酷使するなーとは思ったが、彼女の意見は知っている俺からすると最もだったし、あり得すぎる未来なのでひとまず彼女の提案を飲むことにした。


『で、何するんだ?』

『霊力の操作だな、お前の阿呆みたいな量の霊力を今のうちに鍛えたらどうなるか気になった』

『好奇心じゃん……』

『だって暇なんじゃもん』


 もんじゃねーわ。

 心の中でそうツッコみながらも結局やることのないので、彼女の指示に従って色々することに。


『まずは、そうだな。霊力の知覚なんだがそれは精霊を見えている時点で問題なし。貴様の力の源は妾の心臓だから、そこに意識を集中してみろ』


 迦具土に言われるように俺は、意識を心臓に向けてみれば熱のような物を感じられる。それは無限と言えるように体の中で湧いていて、とても暖かい。


『次はそれを動かしてみろ。で、動いたら全身に流せ』


 なんか急に課題が増えたが、これは確か原作でも語られていた修行内容だ。

 えっと確かその時は、緋炎が自分の拾った少女達に教えるときに語っていたような……とかそんな事を思い出しながらも、俺はその時の彼の説明通りにやってみる。


 鉄を溶かして型に流すように。

 そのイメージで俺は自分を型に見立てて、霊力? という鉄を体に溶かしていく。そうして全身に熱が行き渡れば、体が軽くなりより鮮明に精霊を見ることが出来た。


『あれ、多くね?』

『今まで見えなかった精霊まで見えるようになったか、凄いな契約者』

『それはいいんだけど、この部屋にある物が大体光って見えるんだけど、何これ?』  

 

 精霊が増えたのはまだいい、ちょっとびっくりして泣きかけたくらいだから。

 でも……急に部屋の家具とか、今まで気づくことが出来なかった壁に貼られた何かとか気になることが多すぎる。


『お前、目にまで霊力を行き渡らせたのか?』

『そりゃ全身にやれって言ったじゃん?』

『馬鹿なのか阿呆なのか知らんが、完全に見鬼の才まで開花してるな。最早気色悪いぞ契約者』

『言われたとおりにやったらキモがるのやめようぜ? で、それよりこれ何?』

『物に宿る霊力だ。それでお前は不可視の術が掛けられたはずの札まで見つけただけだな……しかしだ伊織も不憫だな、頑張ってこの術を創っただろうに』


 そうぼやきながらも彼女は俺の頭を撫で始め、それに安心してしまった俺は意識を落とそうとしたんだが、その時遠くからデカい熱の塊が帰ってくるのを感じた。

 思わずびっくりしてしまい、意識をそっちに向ければ誰かの声が聞こえてくる。


「帰ったよ香苗」


 熱の塊の主だろう誰かはそう言って、こっちに向かってくる。

 遠くの筈なのに知覚で聞こえるその声に驚き、熱の塊が近づいている恐怖にびくつき、俺が身構えていると……その人は母さんと共にこの部屋に入ってきた。


 いつもタイミング良く俺が寝ていたせいか、まともに初めてみる父さんの顔。 

 黒髪をした穏やかな顔をした紅い瞳が特徴のイケメン。耳には蛇が描かれた飾りがついており、原作では故人だった人の一人。

 芥火伊織あくたびいおりというその人は、俺を優しく抱きかかえ……そのまま顔を覗き込んでくる。


「いおりだー」

「おかえりー」

「ひえんとあそんでたよー」


 そんな彼に対して今まで俺の側にいた精霊達が群がって、一斉にそう報告する。

 慣れているのか「はいはい」と相槌を打ちながらも、何か気にあったのか精霊に彼は声をかけた。


「緋炎は君達の事が見えているのかい?」

「多分!」

「手で追ってくれるよ!」

「あと霊力多いー」

「…………ちょっと確かめさせてね」


 そう言って父さんは俺の胸に手を置いて暫く黙った。

 そして一分が過ぎた頃、ゆっくりと口を開いて。


「本当だ霊力が全身に行き渡ってる……」

『ふっ妾が鍛えたからな!』


 思わずそうどや顔する迦具土にちょっと笑ってしまう。

 声は父親には届いてないのにそう言う原作通りの彼女にファンとして心が癒やされたのだ。そういえば、緋炎と迦具土のやり取りとか面白かったなーってそう思って。


「まだ生まれたばかりよね、そんな事あるのかしら?」

「秘具が関係してるかもしれないけどね……それよりだこの子は芥火家の未来を背負うかもね……立派な妖狩人あやかりびとになりそうだ」


 あ、原作の単語だ!

 ……とそんなことを喜ぶながらも、俺はとても嬉しそうな父親に釣られてこっちまで嬉しくなった。でもそれと同時に、この先の未来が心配で……どうしても、喰らい閑雅ばっかりが募っていった。



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和風漫画の終盤で死ぬ悪役に転生したので、理想の敵を演じます! 鬼怒藍落 @tawasigurimu

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