第2話:異世界日本に転生しました
あれから数日経って完全に確信した。
俺、赤ん坊になってるし……何よりその転生先が推しだと。
いや俺だって人生をやり直せたらと思ったことはあるけれど、流石に赤ん坊からやりなおしは想定外。そもそも転生を想定すること自体がおかしいが、それでも赤ん坊からはないだろう。
それに転生先が自分の推しという現状が、まじで理解したくなかった。
いやさ、もっとなんかあるくない? 転生という文化自体はオタクだから理解しているけど、推しに転生は違うじゃん。それも殆どゼロからって。
そんなことを思いながらも、その苦情を届けれるような相手はいない。
『なんだ契約者、妾の方を見て?』
『……いやその格好寒くないかって思って』
『妾は焔の神だぞ? 寒くないわ』
いや、そういう事じゃなく……というツッコみも意味ないだろうから念話で伝えず、もう一度目の前の神を見る。
炎を思わせる紅い髪、蛇のような金眼に鋭い紫黒の角。
昔の日本の民族衣装みたいな、割と寒そうな格好に身を包んだ十六歳ぐらいのその美少女は俺の周りを相変わらず浮いていた。
『しかし、まさか妾の契約者が転生者とは驚いたぞ?』
『……たまにいるのか?』
『いるにはいるが、相当珍しいな。そもそも妾が目覚めた事自体がおかしい現象ではあるが』
『……どういう?』
咄嗟にそう言ってしまったが、確かそこは原作で語られていた事だった気がする。
俺が転生した【芥火緋炎】という男は、生まれながらに心臓が弱く……この世界の裏に関わる芥火家の当主になるには器が足りず、それを危惧した父親が目の前の神の心臓を移植したようなのだ。
それで発生したイレギュラーが、神の目覚め。
どうやらこの体は神の依り代として適しており、それのせいか目の前の神が目覚めたとかなんとか。
『……転生者だし不思議ではないか。それで貴様はいつの時代の者だ? 妾の事を知っているっぽいが』
そう聞かれて返答に困った。
転生者がいるという知識得たが、今の口振りだとこの世界のみの転生者っぽいし、別世界それも三次元の転生者だとは限らないしで、返答を迷ってしまう。
『……ふむ、その様子だと記憶が定まってないようだな。まぁ転生という事象自体が不思議なものだ無理もないか』
黙っているとそう解釈してくれたようで、俺はなんとか事なきを得る。
賢い彼女だからこそ色々考えられるだろうし、そう解釈してくれたのなら割と楽なので否定せず、俺はそのまま彼女と話すことにした。
『それで迦具土様は……』
『迦具土でよい、どうせ長い付き合いになるだろうからな』
『じゃあ迦具土は、俺と契約? してるんだよな? 本当に良いのか?』
『そうだな、強制的な契約ではあるが対価は貰っているので不満はない』
『え……対価?』
彼女ほどの神に対する対価など想像出来ないが、もしかして寿命とか削れているのだろうか? それだったら今すぐクーリングオフしたくなる。
『あぁ、莫大すぎる霊力だ。気づいてないかもしれないが、貴様程の霊力馬鹿は初めて見たぞ?』
『何かした覚えないけど』
『……無自覚か。まぁそれでもいい、妾的には好都合だ』
気になりはするが、赤ん坊の俺には何も出来ないし……彼女にそっぽ向かれて契約破棄されたらこの先生きていける気などしないので、今はいいかと考える。
……ある程度話したことで、記憶が残っているうちに色々整理しようと俺は決め、この世界に基盤だろう【大神戦乱夜神楽】という漫画について思い出す。
設定的には、異世界の日本が舞台で時代的には江戸辺り……だったはず。
その世界には神や妖が蔓延っていて、一般人に命が軽く戦える術者の命はもっと軽い世界。そこで主人公が妖の王とやらを倒すことを目的に頑張る的な漫画だった。
で……大事なのが俺の転生先の【芥火緋炎】という推しキャラなのだが……彼は主人公のライバルでありある組織の副将。
幼少期に神に全てを奪われて、復讐を誓いながらも元々の善人気質もあってかもう一人の主人公と言ってもいいキャラ。その姿は俺の脳を焼き、格好良さが限界突破していたといえるほどの生き様がイケメン過ぎる男だ。
それで最期は主人公に全てを託して死んだ推しなのだが、それまでの道筋を知っている俺からすると、彼の様に生きるのは無理というか。
でも、俺が緋炎になった以上、決められた道筋という者がありこの世界のハッピーエンドのためにはそれを守れないともっと最悪な世界になる可能性すらある。
結末は見れなかったけど、この世界にご都合主義は基本なく。
何よりもどこまでも綱渡り過ぎる世界なのだ。それ程までに主人公と敵とのバトルはギリギリで、とても熱く……というのは置いといて、原作を変えるというのは俺からすると好ましくない。
「緋炎ー……よかった今日も元気そうね」
「だぶ」
「あの儀式以来、緋炎が苦しむの減ったからいいのだけど……本当に大丈夫なのかしら?」
やってきたこの世界での母さん。
そこで思うことは一つ、原作通りに進むという事はこの人は。
……それを思っただけで涙腺が緩み、赤ん坊という事も会ってか我慢できずに泣いてしまった。
「……あ、ごめんなさい緋炎。貴方が一番不安よね」
「…………」
あと気になることと言えば、この世界の父さんとあの日以降会ってないこと。
理由として妖怪を倒している事は知ってるのだが、命が軽い世界なので普通に心配なのだ。強いのは知っているけど、それだけでは生き残れない世界なので、不安ばっかり募る。
「そうだあの人、今日は帰れるそうよ……一緒に迎えましょうね」
俺の顔色を見てか、あやしながらもそう言う母さん。
そんな優しい人を見て、俺はどうすべきかを悩みながらも襲ってくる睡魔に身を任せた。
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